世界中で愛される人気アニメを実写化した『トムとジェリー』(2021)が、今夜の金曜ロードショーで地上波初放送される。本作でヒロインを務めるのは、13年前に公開された『キック・アス』でチビッコヒーローのヒット・ガールを演じ、大ブレイクしたクロエグレース・モレッツ。きょう26歳の誕生日を迎えたクロエだが、そのキャリアは早20年! 幼くして注目を浴び、様々な経験を重ねたクロエのこれまでの歩みを振り返ろう。

【写真】クロエ・グレース・モレッツ、映画デビュー作から近影まで 変わらぬ笑顔がキュート

■女優デビューは6歳

 クロエは、1997年2月10日ジョージアアトランタの生まれ。父は整形外科医で、母は看護師だったそう。4人いる兄の一人トレバーが、ニューヨークプロフェッショナル・パフォーミング・アーツハイスクールに合格したのをきっかけに、母や兄と一緒に転居。兄のセリフの練習に付き合ううちに、演技に興味を持つようになった。

 6歳の時にドラマ『堕ちた弁護士 ‐ニック・フォーリン‐』(2004)で女優デビュー。映画初出演となった『悪魔の棲む家』(2005)ではライアン・レイノルズと共演し、ヤング・アーティスト賞にノミネートされるなど早くも注目を集めた。そして、ジェニファー・ローレンス演じる主人公の妹を演じた『早熟のアイオワ』(2008)を経て、アクションコメディ『キック・アス』(2010)で大ブレイク。撮影当時11歳だったクロエは、同作のために7ヵ月に及ぶトレーニングを実施。かわいらしい顔と小さな体からは想像できない激しいアクションで悪と戦う最強女子ヒット・ガールは、世界に衝撃を与えた。その後もホラー映画モールス』(2010)や、マーティン・スコセッシ監督の『ヒューゴの不思議な発明』(2011)、デンゼル・ワシントンと共演した『イコライザー』(2014)など、数々の話題作に出演。16歳のときには、タイム誌の「2014年の最も影響力のある25人のティーン」にも選ばれている。

■ベテランなのに子ども扱い「意見を聞いてもらえなかった」

 幼い頃から一線で活躍し、プロの仕事に触れてきた彼女だが、撮影現場ではたびたび子ども扱いされ、意見を聞き入れてもらえなかったそうだ。ポッドキャスト『Reign with Josh Smith(原題)』で、「14歳で初めて『キャリー』(2013)に主演した頃から、いつも(パワーバランスが)奇妙だった」とコメント。「当時すでに10年以上のキャリアがあって、成長するにつれ、どんどん重要な役をもらえるようになっていた。それなのに意見を言わせてもらえなかったのは、すごく興味深かった」「私を子ども扱いした人の多くが年配の男性だったのは確か。私が重要な意見を言っても、多くの場合は取り合ってもらえなかった」とジレンマがあったことを明かしている。

 また、『キック・アス』で大ブレイクを果たした彼女は、12歳にしてメディアから追われる生活を強いられることになった。「それまで全く気にされていなかったのに、『キック・アス』の後はじめてパパラッチに追われる経験をした。大の大人が10人から15人も12歳の女の子を取り囲むの」「あれはあらゆる意味で暴力だった」。母がパパラッチに押されて、車道に飛び出してしまったこともあるそうだ。パパラッチとの闘いは、この後も彼女を悩ませることになる。

■「皆が私の体型を笑った…」悪意のある画像拡散で、身体醜形障害に

 2014年にベッカム家の長男ブルックリンベッカムと交際を始めると、彼女への注目はさらに高まった。同年5月にスケボーデートを初めてキャッチされて以来、破局・復縁を経て2018年に再び破局するまで、ゴシップサイトを賑わせた。当時、日常の様々な光景をパパラッチされ、クロエカメラマンに不快感を表す姿もキャッチされている。

 何より彼女を悩ませたのは、2016年5月に、ニューヨークのホテルの前でパパラッチに撮影された1枚の写真。黒いTシャツとデニムショートパンツを着て、ピザの箱を抱える姿を捉えた何気ないショットだが、この写真を加工した画像がミームとなり、ネット上に拡散された。昨年9月、雑誌「ハンガーマガジン」のインタビューでクロエは当時を振り返り、こう述べている。

 「アニメ『ファミリー・ガイ』に登場する短い胴体と長い脚のキャラクターに加工され、当時もっともバズったミームになりました」「皆が私の体型を笑っていたのに、周囲に相談しても『面白いから放っておきなよ』とあしらわれました。自分では変えられない身体的な特徴をジョークにされ、インスタグラムのあちこちに投稿されました」。

 それまでは、ドレスアップしてレッドカーペットに登場することを楽しんでいたが、これを機に極度の自意識過剰になってしまう。「身体醜形症は、この世界で誰もが抱えている悩みですが、SNSの問題点だと思います。精神を蝕むのです」。身体醜形障害とは、自分の体型がひどく醜く劣っていると思い込み、多大な苦痛が生じたり、日常生活に支障をきたしたりすること。彼女はこの後、ディズニー実写版リトル・マーメイド』など決まっていた仕事をキャンセルすることを発表。休業説は否定したものの、意義があると思える仕事のみに集中し、スローダウンすることを決めた。

■“世捨て人”を経て、“クソ食らえ”の段階に

 クロエはこの問題に、“世捨て人”のようになることで対処。カメラの前に出ることを避けることで、心を落ち着かせていったという。それと同時に、子役時代からチャンスを求め疾走していた足を止め、自分自身を見つめ直した。仕事を厳選した結果、出演したいと思える作品がない時期もあったが、気にしなかった。「腰を据えて自分が撒いた種の成長を見守ることが、私にとって重要でした。自分自身を信じることが大切だったのです。この時期を“クソ食らえ”時代と呼んでいます」と、NMEに述べている。

 また、自身がフェミニストで、兄2人がゲイであることからLGBTQ+コミュニティの代弁者でもある彼女は、自分が何者であるか考える一方で、自分の影響力についても意識したという。「自分の持つ影響力をどう使うか勉強しています。撮影現場にいるときと同じように、発言する際に人にどのように映るか、私の意見がどう聞こえるか考えています」。

 クロエスローダウンの後、ルカ・グァダニーノ監督のリメイク版『サスペリア』(2018)や、イザベル・ユペールと共演した『グレタ GRETA』(2018)など厳選した作品に出演。また昨年は、Amazon Prime VideoのSFスリラードラマ『ペリフェラル ~接続された未来~』に主演し、テレビドラマに本格進出を果たした。そして今、彼女は製作に興味があり、さらなる目標もあるという。前出の「ハンガーマガジン」のインタビューで、クロエは将来について「カメラの後ろに立つことを狙っています。カメラに映る代わりに後ろに立つことで得られる自由を求めています」とコメント。さらに「ですが私の5年間の目標は、どこかの土地を手に入れ、ロサンゼルスと農場の半々の暮らしをすることです」とも語っている。様々な経験を乗り越え、成長を続けていくクロエから今後も目が離せない。(文・寺井多恵)

クロエ・グレース・モレッツ (C)AFLO