東京・秋葉原、東京ラジオデパートの地下1階にあるジャンク店『秋葉原最終処分場。』。 1階にある『家電のケンちゃん』の系列店として2019年にオープンしたにオープンした
東京・秋葉原、東京ラジオデパートの地下1階にあるジャンク店『秋葉原最終処分場。』。 1階にある『家電のケンちゃん』の系列店として2019年にオープンしたにオープンした

古のパソコンマニアが集う東京・秋葉原の「東京ラジオデパート」。ここに今、思いもよらない新たな客層が増えているという。ジャンク屋『秋葉原最終処分場。』の中川宗典店長が言う。

中川店長 小中学生のお客さんが増えました。みんなパソコンを自作したいということで、激安のジャンクパーツを買っています。ある小学生のお客さんは「新しいものはどこでも手に入るけど、古いものはここにしかない」と話していましたね。

■"ジャンク屋の掟"は子供たちに通用せず

――『秋葉原最終処分場。』で売られているのは20年ほど前に製造されたCPUやマザーボードなどまさにジャンク品。子供が興味ありそうなものはおいてないと思いますが......。

中川店長 最新のスマホやパソコンを触っているうちに、古い機器やOSを動かしてみたくなったそうです。YouTubeで古いパソコンに使用されるパーツをチェックして、それらをうちに購入しにくる。ここなら3000円もあればパソコンを組めます。ここ数年で、そういった小中学生が増えました。

例えば新型のパソコンでも、Win98など古いOSやゲームをエミュレーターで動かすことができます。でもここに来る子供たちは、それを当時のネイティブな環境で動かしたいと言うんです。ものすごく詳しくて驚きます。

古いパソコンをいじれば、動作する仕組みやプログラミング技術を自然に学ぶことができます。もちろん、この知識は最新のパソコンにも流用できて、ジャンクのパーツを使えば格安でチャレンジすることができます。

私のような1990年代アキバに憧れていた、通っていたパソコンマニアたちがやっていたのと同じことを、今の小中学生がやっているんです。ただ、私が見る限りみんな普通の子たちです。いつもの遊びの延長で、旧型のパソコンやパーツを楽しんでいる感じです。

――そもそも、『秋葉原最終処分場。』はどんな店だったんですか?

中川店長 昔のアキバを懐かしむような雰囲気を目指した店です。得体のしれないアイテムしか売ってないけど、お宝が混じっていることもある。ただし、どの品も動かないことが大前提、自力の修理が必要です。そんな"古き良きアキバジャンク屋"が信条です。

――そんなお店に通うのはベテランのパソコンマニアたち、と考えるのが普通ですよね。

中川店長 基本はそうですね。僕も2019年に開店した当初は、土日にこんな小中学生で賑わうことになるとは、まったく想定もしていませんでした(笑)。

秋葉原最終処分場。』で売っている商品は動作チェックなし、説明もしません。だから、激安で提供できる。でも子供たちは、ジャンク屋のルールなんて知ったことではないとばかりに「これと、こっちのパーツで組める? 相性は?」とか質問しまくるんです。

――「ジャンクって書いてあるでしょ」って一蹴するんですか?

中川店長 無理でした(笑)。昔の自分を思い出して、子供たちにはやっぱりちゃんと教えてあげたくなってしまいます。

私の地元ではパソコンに関する情報源は雑誌と近所のベスト電器だけでした。その店員さんはいろいろ親身になってパソコンのことを教えてくれて、その原体験があって、私自身もパソコンやプログラミングの知識を学べました。

だから、うちに来て質問してくる小中学生には、「これ修理しないと動かないよ。まずこっちのパーツ買っときな。安いから」と逆に私から話しかけるようにしています。これ、ジャンク屋の接客としては失格なんですけどね(笑)。

中川宗典店長(42歳)
中川宗典店長(42歳)

■おじさんの知識マウントにも負けない

中川店長 ジャンクパーツでパソコンを組むのが好きな子同士は、まず店で仲良くなります。そしてTwitterで繋がって「処分場にPower Mac出てるぞ!」と盛り上がります。

子供同士だけでなく、お店にいた年配の方々にもいろいろと質問攻めにします。子供たちのパソコンやパーツ知識は、ハンパないですからね。マニアなおじさんたちと同等以上で、知識マウントも負けません。

――親御さんが一緒に来店しないんですか?

中川店長 親と来店する子もいますが、たいてい親のほうがパソコンやパーツに興味ゼロで早く外に出たい感じ(笑)。なので、子供だけで来ることが多いんです。北関東からひとり鈍行を乗り継いで秋葉原まできて、重量20kg以上の激安パソコンを買って帰る、なんて無茶をする小学生がいました。

あとサーバーを買っていった子もいました。あれは発熱が凄いし、電気代も暖房どころじゃない。電気代の請求を見た親から、相当怒られたと思いますよ(笑)。

所狭しと置かれた得体のしれない(?)ジャンク品たち。だが、人によっては「お宝」が見つかることも
所狭しと置かれた得体のしれない(?)ジャンク品たち。だが、人によっては「お宝」が見つかることも

――『秋葉原最終処分場。』に通っている子供たちは将来有望ですね。

中川店長 私の世代のパソコン少年たちがプログラミングを学んだ「ベーマガマイコンBASICマガジン)」は、子供たちが投稿したゲームプログラムのリストが掲載されていて、それを一生懸命入力して楽しんでいました。

実際、この雑誌に影響を受けた多くの優秀プログラマーやエンジニアが生まれました。

40代以降が中心になると思いますが、今、日本のIT界を支えるベテランのエンジニアやゲームクリエイターはかなりの確率で影響を受けてるんじゃないかと思います。

この店に通う中学生たちも何年後かに「このアプリ、俺が作ったんすよ!」と超人気アプリやゲームを見せてくれれば、それが1番嬉しいですよね。

ただ、なかには「俺もジャンク屋やりたい!」って子もいて、「儲かんないから、やめとけ!」と言っています(笑)。

取材・文・撮影/直井裕太

【写真】秋葉原のジャンク屋にパソコン少年が集結!?

東京・秋葉原のジャンク屋『秋葉原最終処分場。』の中川宗典店長(42歳)