だまし絵」「トリックアート展」など、錯視を利用したアートがあることは、誰しもご存知かと思います。

しかし、その錯視の一つに「色立体視という現象があるのはご存知でしょうか?

実際は平面の絵であるにも関わらず、「ある色」は飛び出して見え、逆に「ある色」は後ろに引っ込んで見えるという現象です。

今回は、実際に絵をご覧いただきながら「色立体視」を体験していただき、そのメカニズムに迫ってきます。

目次

  • なぜ錯視は起こるのか?
  • なぜ色立体視は起こるのか?

なぜ錯視は起こるのか?

脳が物事を判断している様子
Credit:Freepik

例えば、平面に書いてある絵であるにも関わらず、飛び出して見えることがあります。つまり、現実ではないことを錯覚しているわけですが、こういった勘違いはなぜ起こるのでしょうか?

それは、「人は目で物を見ていますが、その解釈は脳が判断している」からです。目に入った情報を、ありのまま脳が解釈するとは限らないのです。

では、どういう絵を見たとき、脳がどう判断するのかを、実際の絵を見ながら体感してみましょう。

特定の色が浮き出て見える「色立体視」とは?

赤が進出している色立体
Credit:ウィキペディア・コモンズ

例えば、こちらの絵を見た時、赤字の「BLUE」と青字の「RED」のどちらが前に飛び出て見えるでしょうか?おそらく、ほとんどの人は「赤が飛び出して見える」と答えるでしょう。

進出する「赤いハート」
Credit:A.Kitaoka 2002
後退する「青いハート」
Credit:A.Kitaoka 2002

次に、こちらの2つのハートの絵の場合は、「赤いハート」「青いハート」のどちらが飛び出して見えるでしょうか?

おそらく、こちらもほとんどの人は「赤が飛び出して見える」と答えるでしょう。

これらの絵を見た約6割の人は「赤が飛び出して見える」と言いますが、2割は逆に見え、両目で物を見ることが苦手な人の場合は差が出ないとも言います。

こういった時、飛び出して見える色を「進出色」といい、赤、黄、オレンジなどの暖色系が挙げられます。

逆に奥まって見える色は「後退色」といい、青などの寒色系が挙げられます。

こういった「進出色」「後退色」の存在は、アートの世界では古くから利用されているのをご存知でしょうか? それを界隈では「色彩遠近法と言います。

色立体視を利用したステンドグラス
Credit:ウィキペディア

例えばこのステンドグラスの絵の場合、飛び出して見せたい、注目させたい部分は赤で描かれ、遠くにあるように見せたい壁には青が用いられています。

「錯覚」や「だまし絵」は、現代アートや遊びで作られたおかしな世界というイメージを持つ方もいるかもしれませんが、このように伝統的な芸術の世界でも利用されている手法なのです。

しかし、なぜ私たちは色によって異なる距離を感じてしまうのでしょうか?

なぜ色立体視は起こるのか?

色による波長の違い
Credit:freepik

この「色立体視」が起こる原因の1つは、色が持つ波長の違いです。長い波長を持つ赤は、目に速く届くため飛び出して見え、逆に短い波長を持つ青は、目に遅く届くため奥まって見えるのです。

電磁波(光)は真空中ではどの波長でも同じ光速ですが、媒質中では速度が変わり、屈折率も異なります。虹が見えるのもこれが原因です)

2つめの原因は、赤を認識する目の「錐体細胞」が、青、緑を認識する「錐体細胞」より数が多いことです。

端的に言うと「赤が目立つ」ということですが、日常で利用されているシーンに心当たりはないでしょうか?

注目させたい「止まれ」に進出色を用いた信号
Credit: photock

例えば、信号機の「止まれ」、パトカーランプ、資料などの「注目部分」には赤色が使われることが多くなっていないでしょうか? これは、人が古くから「進出色」が暖色系だと認識していたためです。

他にも強い戦国武将は赤い鎧を好んだという逸話もよく耳にします。赤は膨張色だからという説明もされますが、これは進出色と意味は同じです。赤い色は目立ち、実際より手前に飛び出して見えるため勢いを感じるのです。

逆に、この仕組みを理解していると、日常で効果的に使用することも可能です。

例えば、あなたの部屋に大きなカーテンがあったとします。部屋を実際よりも「広く」見せたい場合には、何色のカーテンを使えば良いでしょうか?答えは、青など寒色系の暗い「後退色」です。

何か物の色選びに迷った際は、「人にどう見せたか?」によって色を選ぶのも良いかもしれません。

見えるものが真実ではない!?

進出色、後退色のある絵を見る人
Credit:Pexels

視覚情報自体は確かに目から入るものですが、「それは何なのか?」判断しているのは脳です。

そして脳の判断結果は、人によって異なることもあります。

例えば、ここまで説明してきた色立体についても、赤が進出、青が後退という効果が逆転して見える人たちも一定数存在すると言われています。

錯視は不思議で面白い現象ですが、それは私たちの目と脳がいかにあてにならないかという事を示しています。

自分が見たと思っている物が、他人と必ずしも同じとは限らないのかもしれません。

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元論文

立体視の奥行き量におよぼす背景色の効果, 林武文 https://www.jstage.jst.go.jp/article/pacjpa/74/0/74_2AM121/_article/-char/ja 色立体視のメカニズムに関する研究 ―両眼視差の計測と光線追跡シミュレーションによる検討―, 武岡春奈 https://kansai-u.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=10948&item_no=1&page_id=13&block_id=21 色彩と色覚メカニズム, 内川惠二 https://www.jstage.jst.go.jp/article/koshohin/41/1/41_28/_pdf 常識を疑う ― 錯視は存在するのか?, 北岡明佳 https://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/lt/rb/636/636PDF/kitaoka.pdf 色彩面の進出 ・後退現象の測定, 大山正 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jieij1917/42/12/42_12_526/_pdf
色が違うだけで絵が飛び出して見える!? 「色立体視」とは?