2023年2月上旬、三菱重工開発中止を明言した「三菱スペースジェット」、通称「MSJ」。この初期モデルをいまだに見て、触れて、乗った気になれるところがあります。その「三菱みなとみらい技術館」へ行ってみました。

「MSJ」ではなく「MRJ」のままで展示

三菱重工業は2023年2月7日、国産ジェット旅客機三菱スペースジェット」の開発を中止すると発表しました。当初は「三菱リージョナルジェット」、略称「MRJ」と呼ばれていたため、コチラの方が馴染みのある方も多いでしょう。

MRJとして2008年に事業化してから15年。2014年のロールアウトセレモニー、2015年の初飛行で大きく膨らんだ期待は、たび重なる延期と開発凍結でしぼみ、日本の技術の粋を集めた旅客機を世界に向けて販売し、裾野が広い次世代の基幹産業に育てようという夢は、再び“飛び立つ” ことなく約1兆円の開発費とともに潰えました。

スペースジェットの飛行試験機はアメリカに3機(初号機、2号機、4号機)と国内に1機(10号機)が残っており、保存か解体か動向が注目されます。これらは近くで見ることができませんが、実は横浜市みなとみらい地区にある「三菱みなとみらい技術館」では実物大模型が展示されており、今や夢となった国産機に間近で触れることができます。

「三菱みなとみらい技術館」の中にある航空宇宙分野の先進技術を紹介する「航空宇宙ゾーン」の目玉展示として、MRJの実物大モックアップが展示されたのは2016年2月のこと。飛行試験初号機が前年の11月に初飛行し、興奮冷めやらぬころでした。

再現された範囲は機首・前胴部と主翼の一部、そしてプラット・アンド・ホイットニー製のピュアパワーPW1200Gエンジン。すべて実機と同じサイズで、客室内には飛行試験5号機への採用を予定していた米ゾディアック製の座席を設置し、実際に搭乗した時のイメージが付きやすいようになっています。このシートはエコノミークラスとして、リージョナルジェットのなかでも最大の座席幅を確保できるよう設計されたとのことです。

また天井のシーリングライトは、よく見ると富士山のシルエットが浮かび上がるようになっており、「日本の旅客機」というこだわりを感じます。

「MRJ」以外にもある “三菱の夢の跡”

外観の塗装は2019年6月に「スペースジェット」と改称した後もMRJ時代そのままとなっています。なお、近くには「国産初のリージョナルジェット開発プログラムMRJプロジェクトは”Mitsubishi SpaceJetファミリー”へ」と書かれた説明パネルが置かれていました。

展示されているパネルを読むとMRJに対して大きな期待がかけられていたことがわかります。解説には、最高レベルの運航経済性と、最高レベルの客室快適性を兼ね備え、大幅な燃費低減と騒音・排出ガスを削減する、「最先端技術を採り入れた次世代のリージョナルジェット機」と書かれており、MRJの性能を大きくアピールするものとなっていました。

とはいえ、これは2016年2月時点のものです。この7年のあいだに航空業界では環境に配慮し、カーボンニュートラルの実現に向けた新燃料に適合する次世代エンジンなどといった技術開発が急ピッチで進められています。

また、日本航空JAL)グループのJ-AIRが導入したエンブラエル190型は95席と小型ながら、座席にスマートフォンやノートパソコンの充電を行えるAC電源を備えているうえ、機内Wi-Fiによるインターネットサービスの提供も始めています。後発のスペースジェットが競争力を持つには、近年のこうしたサービスにも対応する必要があったと考えられます。

実際、スペースジェット開発中止を発表した記者会見で三菱重工の泉澤清次社長は「プロジェクトを開始してから時間が経過しており、最新の技術と比べて競争力が低下していることは否めない。これから投入する機体はSAF(サステナブルな航空燃料)対応や電動化など脱炭素化に向けた選択肢を考慮していかないといけない」と述べていました。

「三菱みなとみらい技術館」には、MRJ以外にもかつて三菱重工が手掛けた夢の跡が展示されています。巨額の損失を出して撤退した大型客船事業も、韓国や中国との競争に負けて撤退したLNG(液化天然ガス)船事業も、一時はコンテナ船やバルカーといった貨物船に代わる事業の柱に位置付けられて積極的にアピールしていたことがわかります。そして今回、その列にスペースジェットが加わることになりました。

今後、いつまでMRJのモックアップが置かれているかわかりません。4機残る飛行試験機も保存されるかは未知数です。多くの人が携わり憧れを抱いた、夢の国ジェット旅客機の姿を見るため「三菱みなとみらい技術館」に行ってみてもよいかもしれません。

横浜の「三菱みなとみらい技術館」に展示されているMRJの実物大モデル(深水千翔撮影)。