エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(3月3日公開)での演技が高く評価され、先日のゴールデン・グローブ賞で助演男優賞を受賞したキー・ホイ・クァンことジョナサン・キー・クァン。スピーチでの「忘れないでくれてありがとう」という言葉が示しているように、キーは本作で約20年ぶりの本格的な映画カムバックを果たし、復帰作での受賞は大きなサプライズとして話題を集めた。

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キー・ホイ・クァンと言えば、80年代には子役として絶大な人気を獲得したものの、気がつけばいつの間にかその姿を見なくなっていた人物。空白の期間になにをしていたのか?ここでは彼の歩みを振り返っていきたい。

■『インディ・ジョーンズ』、『グーニーズ』で一躍人気ものに!

1971年ベトナムサイゴン(現ホーチミン)の中華系一家に生まれると、1978年サイゴン陥落を機に家族と共に国を逃げだし、香港を経てアメリカへと移住したキー・ホイ・クァン。彼の名を一躍世界に知らしめたのが、12歳の時に出演したデビュー作『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』(84)だ。

本作でキーは、ハリソン・フォード演じるインディ博士に拾われた戦災孤児で、彼の相棒として共に冒険を繰り広げる“ショーティ”ことショート・ラウンド役に抜擢。尊敬するインディを真似した振る舞いで、どこか大人びた一面も持つ小生意気でかわいらしい少年を生き生きと表現した。

1985年には『~魔宮の伝説』のスティーヴン・スピルバーグ監督が製作を務める『グーニーズ』にも出演。主人公ら仲良し4人組の1人で、聡明な頭脳と科学の知識を生かしてヘンテコな発明ばかりしては失敗を繰り返すデータを演じ、お騒がせながらどこか憎めないキャラクターを魅力たっぷりに体現して見せた。

その愛くるしいルックスも手伝い、日本でも本田美奈子主演の『パッセンジャー 過ぎ去りし日々』(87)に出演するなど、アイドル的な人気を集めたキーだったが、ゴールデングローブ賞のスピーチで「ハリウッドで子役から大人の俳優へとなることはほとんど困難。アジア系となるとその100倍から1000倍は難しい」と語ったように、大きくなるにつれてハリウッドでの出演はほとんどなくなっていった。

■映画製作の道へと方向転換し、巨匠に師事

そうしてハリウッドでの俳優の道をあきらめ、南カリフォルニア大学の映画芸術学部で友人のグレッグ・ビショップの短編『Voodoo』(99)をプロデュースするなど、映画製作を学んだキー。卒業後は数々のスターを生んだ中国戯劇学院出身のアクション監督、ユン・ケイを訪ね、彼のアシスタントとしてハリウッド作品に携わることになる。

X-MEN』(00)やジェット・リー主演の『ザ・ワン』(01)といった作品では、ユン・ケイのアシスタントを務めながらアクションコーディネーターやスタントも担当し、本格的なアクションの構築に一役買った。

さらにその後もウォン・カーウァイ監督の『2046』(04)では助監督を務めるなど、2002年の香港映画『Second Time Around(英題)』に出演したのを最後に、終始裏方に徹してきたキー。そんな彼は、アジア系キャストをメインに描いたハリウッドラブコメ『クレイジー・リッチ!』(18)の大成功にインスパイアされると、再び俳優業にチャレンジすることに。

■役者本格復帰作での見事な演技で大ブレイク

そうして役者復帰の意欲に燃えたキーが出会った作品が『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』だ。

本作は、反抗期の娘や頼りにならない夫らと暮らし、破綻寸前のコインランドリーの経営などの問題に頭を悩ませる中国系の女性エヴリン(ミシェル・ヨー)が、突如として多次元の全人類の命運を懸かった壮大な戦いに身を投じることになる、マルチバースを題材にした奇想天外なSFアクション。

キーが演じるのはエヴリンの夫、ウェイモンド。物語のベースとなる次元では優しく頼りないが、別の次元では宇宙を股にかけてカンフーで悪に立ち向かう頼もしい男というキャラクターだ。アクションもできるうえ、ある瞬間ではコミックリリーフとなり、別の瞬間にはヒーローになれるという演技力も必要とされる難しい役どころだ。

ゆえにキャスティングに難航していたが、監督であるダニエルズの一人、ダニエル・クワンがある日、Twitter上でショート・ラウンドの写真を見て「この男はいま、なにをしているんだ?」と思ったことをきっかけに声がかかったそう。

期待に応えるように得意とするアクションではキレッキレの動きを披露。警備員を撃退するシーンでは、ウエストポーチをヌンチャクのように扱うユニークな戦闘を披露しており、高く上げた脚の股下を通してポーチを振り回したり、紐部分を敵の腕に絡ませて動きを封じたり、見事な手さばきと軽快な動きで健在っぷりをアピール。

また、優しい夫とヒロイックな夫がシーンごとに目まぐるしく切り替わる様子も、穏やかな微笑みと自信と色気に満ちたクールな表情を瞬時に使い分ける演技や多彩な節回しで体現。観客に一目でわからせる巧みな芝居で役を表現した。

成功を収めた人生から挫折して悲惨な人生まで、無数にある人生のすべてを肯定するような本作の脚本に対し、決して順風満帆とは言えなかった人生を送ってきた自分のために書かれたものだと勘違いするほどシンパシーを感じたというキー。

頼りなくもどんなものも受け入れる器の大きいウェイモンドを、酸いも甘いも知り尽くした経験を詰め込んだ演技で魅力的に浮かび上がらせており、深みのある表情には思わず心を掴まれてしまうことだろう。

本作で高い評価を受けたキーは、同じくマルチバースを扱うマーベル・シネマティック・ユニバースのドラマシリーズ「ロキ」シーズン2への出演も決定。今後の活躍にますます期待したいところだ。

文/サンクレイオ翼

『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』のあの子役が大復活!/[c]Everett Collection/Aflo