よく「万が一のリスクに備えて保険に入っておくべき」といわれます。しかし、「保険は家の次に高い買い物」といわれ、本当に必要なのか、慎重に吟味しなければなりません。本記事では、CFPの小宮崇之氏が、これまでの「保険の常識」に一石を投じる著書『保険の選び方・見直し方 今の保険、このままでいいの?』(ビジネス教育出版社)から、本当に必要な保険だけを選ぶコツ、保険を見直す際のポイントについて解説します。

「子どもの独立後」の保険の考え方

◆残された妻のための終身保険

子どもが独立すれば、生命保険の必要性は大きく減少します。そもそも生命保険が必要な理由は、世帯主が亡くなったときに、その後の「生活費」や「教育費」に困らないよう保障するためです。「教育費」が一切不要になれば、あとは「生活費」を中心に考えれば大丈夫です。

通常、子どもが独立する年齢になると、親も一定の年齢に達しているケースがほとんどです。その年齢になれば、「年金受給も視野に入ってくるので、高額な死亡保険は不要になる」というイメージを持てば良いでしょう。

実際、生命保険の主流である「収入保障保険」に入っている人のほとんどが、末子の子どもが独立する年齢を満期に設定しています。つまり、子どもが独立するタイミングで死亡保険が一切なくなるわけですが、それで問題はないかというと、そうとは言い切れません。

もし急に世帯主の夫が亡くなったらどうなるでしょうか。残された妻が葬儀費用([図表1])を払い、その後の生活費も必要になります。

そんな費用に備えるのに、とても役に立つのが「終身保険」です。文字通り「身が終わる」まで保障がある保険なので、必ず遺族は契約した死亡保険金を受け取ることができます。ただし、保障が終身のため、保険料は収入保障保険よりも高いので、あまり高額な死亡保険を残すことは難しいと思います。

終身保険の保障額は、加入時の年齢にもよりますが、1,000万円を限度に500万円ぐらいが一般的です。もちろん、子どもが独立した後に、充分な貯蓄を残す余裕があれば終身保険は不要です。しかし、高校や大学の教育費は決して安くはないので、「貯蓄を残すのは大変」というのが現実ではないでしょうか([図表2][図表3])。

◆様々なリスクへの備えを

残された妻の生活を考えるとき、自宅が持ち家なら家賃がかからないので、さほど苦労することはないかもしれません。

しかし、賃貸の場合は注意が必要です。夫が亡くなった後、妻が死ぬまで家賃を支払い続けていくとなると結構な費用になるからです。貯蓄を数千万円以上残しておく、あるいは子どもが独立した後も一定の死亡保険に入っておけば安心です。

もちろん相続で自宅をもらう予定がある人の場合は、そこまで心配する必要はないでしょう。

他にも人生にはさまざまなリスクがあります。事前にあらゆるケースを想定しておくことが重要です。例えば、「独立した子どもが家に戻ってくる」「子どもの独立が遅くなる」といったケースです。

自宅が利便性の良い場所にあり、通勤に支障がない。しかも自分の部屋が確保されていれば、わざわざ一人暮らしをしないという選択は十分あります。その場合、就職しているので子どもの生活費の面倒を見る必要はありませんが、家が賃貸であれば引き続き家賃がかかります。

夫婦2人で小さな部屋に引っ越すことをせず、子どもが住める大きさの家を借り続けるとなれば、結構な家賃負担になる可能性があるということです。

様々な要素を考慮しなければならない生命保険選び

このように生命保険の必要性は、それぞれの家庭の状況や貯蓄・支出の現状と将来予測を踏まえて考える必要があります。今はインターネットですぐに保険に加入できる時代になりましたが、さまざまなケースが想定できるだけに、いざとなると二の足を踏む方が多いのでは?

自分の死後の世界を想像し、金銭の計算をするわけですから、当然と言えば当然かもしれません。大事なのは、世帯主が亡くなった後に、残された遺族ががむしゃらに働かなくても、今の生活を続けることができるようすることです。

残された妻も子どもが独立した頃の年齢になると、簡単には仕事につけないことも考えられます。保険に入る際には、まずは家族同士でよく話し合うことをお薦めします。

「定年後・年金暮らし」の保険の考え方

定年や年金暮らしが間近に迫ったサラリーマンにとって、大きなイベントと言えるのが「退職金」です。勤続40年超ともなれば、それまでの人生で手にしたことのないレベルの大金がいきなり口座に入ってきます。

そうなれば当然、このお金を狙ってさまざまな営業が押し寄せてきます。今まで経験したことがない甘言を弄した誘惑が、次々と舞い込むので、十分注意しましょう。

退職金は決して、すぐに使っていいお金ではありません。老後の生活をしていくために少しずつ切り崩して使っていく、つまり絶対に減らすことができない大事なお金です。

ともすると「これまで必死に働いたご褒美」と自ら言い聞かせ、高級車を購入したり、世界一周旅行に出かける。あるいは知識も経験もないのにリスクの高い投資商品や不動産投資に挑戦したり、起業を目指して大きな先行投資をしたりする。そんな誘惑にかられるかもしれませんが、断じて拙速な行動は自重するべきです。

若ければ再チャレンジも可能ですが、定年後に再び労働でお金を稼ぐのは極めて困難です。くれぐれも拙速な行動は慎むよう肝に銘じましょう。

人は定年年齢になると、何らかの病気を抱えるものです。そうなってから保険に入るのは難しくなるので、前もって健康なうちに必要な保険に入っておきましょう。生命保険は原則、定期的に通院していたり、持病を抱えている人は入れません。

例えば、高血圧症高脂血症の人が薬を飲むことで適正な数値を維持していれば問題なく入れますが、糖尿病で通院を続けていたり、心臓の病気を患っている人の加入は難しくなります。

また、定年になってから新たに保険に入ろうとすると、保険会社が「年齢的にリスクの高い人」と判断するため保険料が高くなってしまいます。できれば定年になる頃に保険料の支払いが終了する500万円ぐらいの終身保険に加入しておくと良いでしょう。

終身保険は、その名の通り保障期間が終身の死亡保険です。人はいずれ亡くなるので、確実に遺族に死亡保険金を残すことができます([図表4])。

例えば、一家の大黒柱が急逝しても終身保険で葬儀費用が払えるので、遺族にとっては、急な出費に対応できる心強い保険と言えます。

生命保険を有効活用するメリット

退職金とは別に多くの金融資産を持っていれば、生命保険相続税対策に使うことが可能です。

生命保険の場合、法律で「500万円×法定相続人」には相続税がかからないので、この分の死亡保険金を無税で受け取ることができます。極めて有利な制度なので、まずはこの枠を使うことから検討しましょう([図表5])。

また、孫を被保険者(保険の対象になる人)にして、祖父母が契約者となって医療保険に入る、いわゆる医療保険を孫にプレゼントするというスキームも相続税対策として有効です。保険料の支払いを5年から10年とし、保障は終身とすることで、祖父母が生きている間に保険料を払い終え、孫は死ぬまで保険料を払わずに医療保障が受けられます。

まさに孫にとっては最高の贈り物と言えます。保険料の支払いが終わった時点で名義変更すれば孫の医療保険になるし、祖父母にとっても払った保険料分の金融資産が減少するので相続税対策にもなるわけです。

一般的に定年・年金暮らしになれば、子どもは独立しているので、高額な死亡保険は不要になります。それでも葬儀などの急な費用は必要ですし、事前に相続税対策として生命保険を利用すればメリットを享受できます。

ただし、どちらを利用するにしても健康でなければ加入することができません。健康に老後を迎えることは、単にQOL(クオリティ・オブ・ライフ、生活の質)を上げるだけでなく、保険に入るリスクを軽減するという意味でも極めて重要なのです。

最近は、保険会社も健康に対してインセンティブを与えるサービスを提供し始めています。例えば、喫煙者が保険に入った後にタバコをやめたら保険料が返ってくる保険など、各社が「保険に入って、健康になろう!」というキャンペーンを行っています。

たとえ保険料が返ってくるという理由でも、健康を目指すことは誰にとっても価値のあることです。保険に入っても、「健康的に生きることが人生を楽しくする一番大事な要素だ」ということを、常に意識して生活することを心がけましょう。

小宮 崇之

株式会社コミヤ保険サービス

代表取締役社長

(※写真はイメージです/PIXTA)