冬将軍:音楽ライター)

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 音楽ライターの冬将軍と申します。長年音楽業界で制作ディレクターなど制作業務に携わっておりました。2014年よりその経験を活かしながら、ロックからアイドルに至るまで、国内外の素晴らしい音楽を多くの人に伝えるライター業を始めました。アーティストや楽曲のバックボーンや説明の難しいメロディやサウンドを言語化することで、多くの人のこれまでとは異なる音楽の聴き方や新しい音楽との出会いの手助けになればと思い、日々勤しんでおります。

 昨年2022年8月に初の単著『知られざるヴィジュアル系バンドの世界』(星海社新書)を発刊しました。私にとってのロック原体験でもあり、90年代に日本のロックシーンを席巻したヴィジュアル系バンドのムーブメントについて書き綴ったものです。ありがたいことに同書の反応も大きく、この度『ヴィジュアル系カリスマ列伝』という連載を始めることになりました。

 90年代から現在までの、さまざまなヴィジュアル系アーティストにスポットを当て、その魅力やそこに纏わるエピソードを紹介していくコラムになります。ファンはもちろんのこと、初めて触れる人には新鮮に、昔聴いていたという人には懐かしく思ってもらえれば幸いです。 

 

THE LAST ROCKSTARSとは一体何なのか

「“世界を獲る”以外のチョイスってある?」

 こんなことをサラッと言ってのけるのは、YOSHIKIのほかに誰がいるというのか。2022年11月11日、THE LAST ROCKSTARSの結成記者会見での発言である。YOSHIKIX JAPAN)、HYDE(L’Arc~en~Ciel/VAMPS)、SUGIZOLUNA SEA/X JAPAN)、MIYAVIによるスーパーバンドの結成は大きな波紋を呼んだ。

 賛否両論、いや、否というよりも不安というほうが正しいのかもしれない。何が起こるかわからない期待感の中には同等の危うさも介在している。こんなにキケンな香りを発するロックバンドの登場は一体いつぶりだろう。

 THE LAST ROCKSTARS——。なんと大それたバンド名なんだ。最初は面食らったが、何周か回ってカッコよく思えてきたとか、中途半端なバンド名を付けるのならこれくらいの潔さが清々しいとか・・・さまざまな意見が飛び交った。しかし、言葉選びやその語感よりも、これを名乗ることができる自信と、それ以上に世界へ向けた大きな覚悟を感じたはずだ。1992年、Xが世界進出に向けて“X JAPAN”へ改名したときのインパクトを思い出した者も多いことだろう。そんな彼らしくあり、彼らにしか名乗ることのできないバンド名である。

ついに動き出したスーパーバンド

 2023年1月26日、有明アリーナにて『THE LAST ROCKSTARS  Live Debut 2023 Tokyo – New York – Los Angeles』がついにスタートした。“ついに”ではなく、“無事に”というべきなのかもしれない。開演時間の遅れも何が起こるかわからないと覚悟していたファンからすれば想定内である。

 懸念されていたセットリストは新曲含めたバラエティに富んだ内容で抜かりなく。X JAPANBorn to be free」、L'Arc~en~CielHONEY」、NANA starring MIKA NAKASHIMA「GLAMOROUS SKY」、といったカバーもTHE LAST ROCKSTARSならではのものに見事に昇華。各ファンの想いが強いゆえに、感じるところは人それぞれであると思うが、トータル的に見て予想以上期待以上の日本公演であったように思う。

 シンプルなドラムセットを華麗に叩くロックドラマーとしてのYOSHIKISUGIZOMIYAVIプレイスタイルがまったく異なるギターヒーローによるバトル。そして妖しく美しい色香を纏ったHYDEのフロントマンとしての存在感。4人が放つオーラは凄まじい。技術的なことはいうまでもなく、それぞれがライブで“魅せる”ことに長けているアーティストであることを知らしめた。そして、何よりも4人が楽しんでライブを、バンドをやっていることは誰の目にも明らかだった。まさに日本が世界に誇るカリスマロックスター4人が集結したモンスターバンド、記者会見時のYOSHIKIの言葉を借りれば、アベンジャーズだ。

 それより少し前、彼らが公にそのプレイする姿を見せたのは昨年2022年大晦日の『NHK紅白歌合戦』だったが、それより一週間前、バンド名を冠した楽曲「THE LAST ROCKSTARS」リリース時にはまたさまざまな声が上がっていた。

「これはロックなのか・・・?」

 印象的な主題メロディはYOSHIKI節であるものの、ドラムは整理されたデジタル録音であるし、ギターヒーロー2人が弾きまくるような見せ場は存在していない。これはファンが聴きたかったものなのだろうか、そんな声も散見された。では、どんな曲が求められていたのだろう。

 X JAPANの延長線上にあるメタルがよかったのか、L’Arc~en~Cielのような幻想的な曲か、LUNA SEAのような神秘性を帯びたもの? それともMIYAVIっぽさのあるファンキーなリズムのロック・・・そうではないはず。この4人が引き起こす化学反応、彼らにしか成し得ない新しいロックが聴きたかったはずだ。そういう意味では4人のバックボーンが垣間見える「THE LAST ROCKSTARS」という楽曲は、THE LAST ROCKSTARSの名刺代わりの一発目として完璧だったのではないかと、私は考えている。

バンド名を冠した挑戦曲

「ビギディンビギディンバンバンバン(Bigidin Bigidin Ban Ban Ban)」という印象的なフレーズはそのキャッチーな語感と振り付けが印象的であり、尤も彼らがそういう振りをやるという意外性を含めて話題になった。4人の中でいちばん変幻自在にロックを壊しながら再構築し続けている、MIYAVIの色が伺えるパートでもある。

THE LAST ROCKSTARS (Paris Mix) Full Ver. finally out! 1st Single available.YOSHIKI HYDE SUGIZO MIYAVI

 TikTokやInstagramのストーリーズ、YouTubeショートを使った現代的な音楽の愉しみ方と拡がり方、“切り取り”文化を意識したものでもあるだろう。インプット&アウトプットの手段が、テレビやラジオからインターネットへ、CDからストリーミングへと移り変わり、ヒット曲が生まれにくい構造となった現在の音楽シーンでは、UGC(“User Generated Content”=ユーザー生成コンテンツ)が人気拡大の大きな鍵となっている。

 日本では、FRUITS ZIPPER「わたしの一番かわいいところ」やiLiFE!「アイドルライフスターターパック」といった女性アイドルグループや、SEKAI NO OWARI「Habit」といった楽曲がTikTokから火がついた。世界的に見れば、Y2Kリバイバルの筆頭格であるアヴリル・ラヴィーンや、今世界を席巻しているイタリアのロックバンド・マネスキンもメディアプロモーションではなく、TikTokやInstagramといったSNSのUGCによって、Z世代を中心にその人気が拡まっていった背景がある。

「THE LAST ROCKSTARS」の振りがTikTokに溢れかえっているわけではないが、「ビギディンビギディンバンバンバン」のフレーズは、Twitterを中心に至るところで目にするはずだ。UGC的には成功しているといえるだろう。

 同曲の構成も切り抜きしやすいものとなっている。そもそも“Aメロ→Bメロ→サビ”という楽曲構成は、90年代タイアップ史上によって定着した日本独自のものである。

 それ以前の日本の歌謡曲や現在までの洋楽ポップスにはそういった構成形式はほぼ存在していない。ヴァース(平歌)→コーラス(主題、日本でいうサビのようなもの)というのが一般的なポピュラーミュージックの構成だ。「THE LAST ROCKSTARS」における、一聴して不思議に思える展開も、“ピアノによる主題→キラーフレーズ「ビギディンビギディン・・・」の連呼→ギターリフ→平歌(ヴァース)→歌の主題(コーラス)”、とわかりやすい構成になっている。《I’ll make you/fly I’ll make you cry/I’ll make you feel》の繰り返されるメロディはサビというよりも、主題(コーラス)という位置付けが正しく思える。

 現在世界のポピュラーミュージックのメインストリームにあるEDM(エレクトロ・ダンス・ミュージック)は、楽曲の一番盛り上がる部分にサビ(主題、コーラス)ではなく、ドロップDrop down)を用いている。ドロップとは歌がなく、バックトラックももっともシンプルになる箇所だ。演者と一緒に歌って盛り上がるという日本的なものではなく、演者と一緒に“踊る”という発想から生まれたものだ。

 EDM以外のポップスにおいても、ドロップを用いたり、サビ(コーラス)らしいものを抑え、メロディの抑揚を少なくすることが世界的なトレンドになっている。日本的にいえば“スルメ曲”、楽曲の印象をあえて薄くすることで、何度も繰り返し聴きたくなるリピート効果を狙っているのである。

「THE LAST ROCKSTARS」はそうした世界的なトレンドに迎合しながらも、日本的な抑揚を持たせた主題を用いるという、まさに日本人アーティストが世界へ向けた音楽に相応しい楽曲なのである。

既存のロックにとらわれない柔軟性

 バンド編成にベーシストがいないことに関しては、SUGIZOが記者会見時に「ベースがいなくても成立する音楽」と言っていた。「バンドにはベースが必要」とは偏った固定観念に過ぎず、ブルースやガレージロックの世界におけるギターとドラムだけのロックデュオを筆頭に、ベーシストのいないバンドは数多く存在している。

 有名どころでもドアーズ、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン、ザ・ホワイト・ストライプス、日本では先述のSEKAI NO OWARIもそうだ、ベースレスのバンドは珍しいものではない。

 そもそもMIYAVIはドラマーと2人だけで世界を駆け巡ってきた。ギターより1オクターブ下の音(ベースと同じ音域)を足すことができるエフェクトペダル、オクターバーもジミ・ヘンドリックスをはじめ古くからロックギターサウンドに欠かせないものとなっており、ベースがいなくともサウンドの厚み、バンドの低音を補う手法はいくらでもある。

 実際、THE LAST ROCKSTARSは先日の日本公演において、そうしたオクターバー的なサウンドをはじめ、ギターで分厚い壁を作っていく大胆なサウンドメイクが施されていたし、楽曲によってSUGIZOフェンダー Bass VIという、6弦ベース(ベースではあるが、構造はギターに近い。ビートルズジョン・レノンジョージ・ハリスンが弾いていたことでも有名)を使用していた。楽曲によって、サウンドメイクや楽器編成を変えながら柔軟性で魅せていく。

 ドラマーでありピアニストでもあるYOSHIKI、ギタリストでありバイオリニストでもあるSUGIZO、さらにはスラップをはじめフリースタイルなプレイを得意とするMIYAVIとの、リードギターとリズムギターといった形式にとらわれないツインギター編成・・・既存のロックスタイルにおける常識だけでは語ることのできないもの、そこから生まれる新たな可能性がTHE LAST ROCKSTARSにあるのだ。

 ライブではスマートフォンでの撮影が許可されていた。ゆえにYouTubeをはじめ、TikTokやInstagramにはライブの模様が溢れかえっている。このモンスターバンドについて懐疑的に見ていた人も少なくはなかったと思うのだが、実際にライブでの勇姿を生で見た人はもちろんだが、そうしたSNSでのファンカムを見て、新たに昂揚している音楽ファンは多い。

 オフィシャルYouTubeチャンネルおよび、各種音楽ストリーミングサービスにて「THE LAST ROCKSTARS」がリリースされたときよりも、ライブ直前に公開された同曲のMVのほうが公演の反響もあって、大きく伸びていることもそれを物語っている(2月1日時点で約340万再生)。

 クラシック音楽に通ずる高貴さと、日本らしいキャッチーさを兼ね備えながら、現代的なトレンドを呑み込む。斬新なギターサウンドとプレイを突き詰めて、新しいロックを提示する。それが世界へ進撃する日本のモンスターバンド、THE LAST ROCKSTARSだ。

 この記事が出る頃にはニューヨークロサンゼルス公演を含めた『THE LAST ROCKSTARS  Live Debut 2023 Tokyo – New York – Los Angeles』は終幕し、世界が彼らの勇姿を目撃したはずだ。昨年11月に結成発表されてから、まだ3ヶ月しか経っていない。THE LAST ROCKSTARSは始まったばかりである。この先、彼らが世界に向けて、どんな音楽探究をしていきながら多くの人を魅了していくのか楽しみで仕方ない。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  「ヴィジュアル系」っぽい音楽とは?ロックの基準となった五大構成要素

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THE LAST ROCKSTARS