見た目で判断された経験はないだろうか。「本当はそんなんじゃないのに」そう思っても口に出せずに嫌な思いをしたことはないだろうか。見た目で決めつけられると人は傷つく。では反対に、自分が誰かを見た目で判断してしまったことは?今までに一度もないだろうか。この物語はそんな偏見について、私たちに問いかけてくる。

【漫画】「133cmの景色」を読む

月刊コミックバンチ2023年2月号に掲載されたひるのつき子( @tsukkooo )さんの読み切り漫画「133cmの景色」。2022年の年末にひるのさんご本人がTwitterに投稿するや、11.7万いいねがついた。(2023年2月現在)さらに、リプライやメッセージツールを通して主人公への共感や、続編を求める声が多数寄せられた。この物語を漫画で描こうと思ったきっかけ、またその想いを漫画家のひるのつき子さんに聞いた。

133センチで成長が止まってしまった女性が、食品会社に勤める会社員として偏見と戦いながら奮闘する物語だ。一見して小学生のような主人公が見た目で判断されるハンデを乗り越え、自分を取り戻していくさまが少女漫画のように繊細かつ流麗なタッチで描かれている。恋愛モノかと思えばそうではない、テーマは骨太だ。

■子供のような見た目、身長の低い女性が社会人として生きていくことを描く

133センチの身長のせいで頻繁に小学生と間違えられてしまう吉乃華(よしの・はな)は25歳、梅谷食品に勤務する普通の会社員だ。ただ、低身長であることが壁となり、仕事も恋も上手くいかない毎日を送っている。たとえ能力があっても同じ土俵に立たせてもらえない、恋愛の相手として対等に見てもらえない、それが彼女にとっての悩みだった。

いつも“戦いに行く覚悟で”仕事をしていると、後輩の岩見にこぼす。何か失敗でもしたら「やっぱり」と言われてしまうから。必要以上に気を張って、何とか社会を渡っていくため彼女は必死にもがく。

■「私はどうしていつも、私が私であることを謝っているんだろう」

何も悪いことなんてしていないのに、見た目で周囲に判断されるたび彼女が口にするのは「ごめんね」「すみません」といった謝罪の言葉。作中、彼女は何度も謝る。こんな見た目で誤解させて「ごめんね」、不安な気持ちにさせて「すみません」。そうして空気を読み事を荒立てないよう、これ以上傷つけられないよう、華は自分が自分であることを謝り続けてしまう。

落ち込む華に岩見は言う。他人から色眼鏡で見られたくないと思っているのに、自分で自分を否定してたら同じ穴の狢(むじな)だと。見た目で判断する他人にあわせて自分で自分を否定していたら、それはその人たちと同じなのではないか。「見た目とは違う」自分こそが一番よく自分を知っているのだから、胸を張って自分を肯定するべきであり、自分の見た目を恥じなくてはならない理由なんてないのだ。誰にも。「負けてたまるか」。岩見の言葉によって華は前向きに進もうとする。

■見た目で判断されたくない。でも、自分は?誰かを見た目で判断していないだろうか

派手な格好をしているから遊んでそう、メガネをかけているから勉強ができる、体つきががっしりしているから男らしい、華奢で大人しそうに見えるから家庭的。私たちは普段、体格や服装、髪の色などの見た目で何気なく相手を判断してしまいがちだ。

小犬に驚く岩見を見た華は、背丈もあり普段はクールな男性が小さな犬を怖がっているそのギャップについ「可愛い」とこぼしてしまう。そこで華は気づいた。岩見の見た目に勝手な人間像、大柄な成人男性が小動物を怖がるはずがないという偏見を持っていたことに。自分自身もまた、相手を見た目で判断していたのだ。

見た目だけで判断したくないし、されたくもないけど、綺麗な人がいればそれだけで目を奪われることもある。一方で同じように誰かから「可愛い」って言われるともやっとすることもある。そんな華の言葉にはっとさせられる。見た目で判断され不利な目にあってきた華が、同じように誰かを見た目で判断してしまっていた。でも、それは華にだけ起こった特別な事件などではない。誰にでもありうる経験なのではないだろうか。

見た目で判断され嫌な思いをするといった、被害を受けることには敏感でも、自分が気づかないうちに誰かを傷つけている可能性を忘れてはいけない。自分も見た目で判断してしまっていることがあるのではないか、加害者になってしまう瞬間があるのではないか。「133cmの景色」はそう、私たちに問いかける。

■見た目で判断されてしまうことを題材にした話をずっと描きたかった

――133センチの女性を主人公に物語を描こうと思ったきっかけは?

今回の話を描いた直接的なきっかけは、病気の影響で成長が止まった女性のインタビュー記事を読んだ担当さんからの提案でした。もともと見た目に関する話に関心があり、過去には『コワモテくんの乙女同盟』という、自分の外見によって素直に趣味を楽しめない主人公の話を描いたことがあります。実はそれ以前にも、各所で外見に関する話を提案したことは何度もありました。ただ、なかなかよい反応がもらえず、企画になるまでにいたりませんでした。

ですが、今回は担当さんの方からこのような題材の提案がありました。外見によって嫌な思いをしたり、性別によって軽んじられた経験があること、私自身も子供の頃から病気と共に生きていることなど、同じような体験を通して私にも描けることがあるのではないかと思い挑戦させていただきました

――「いつも戦いに行く覚悟で仕事してるの」主人公のこのセリフに込めた思いを聞かせてください。

あくまでこの話は「吉乃華」個人の話ではありますが、現状、社会で生きることは誰にとってもある種の戦いだと思っています。何が戦いを生むのか、なぜ戦わなくてはならないのか、一人ひとりが考えていければもう少し優しい社会になるのではないかと感じています。

――もしもこの物語に続きがあるとしたら?

物語の最後で華ちゃんの方が先に岩見くんにほのかな好意を抱いているので、先に好きになるのは華ちゃんでしょうね。華ちゃんが恋愛に積極的なのに対して岩見くんはそこまでではないので、振り向かせるのはちょっと大変かもしれませんが、頑張ってほしいです(笑)。

――読者へのメッセージをお願いします。

こんなにたくさんの方に見ていただいたことは初めてなのでとても驚いています。ありがとうございます!また、続きを読みたいという声もいただき大変嬉しいです!この漫画は元々連載用の第一話として提出したものが連載としては採用されず、とりあえず読み切りで……という形で掲載されたのですが、皆さんの声は編集部にも届いていると思います!これからも誰かの心に響く漫画をお届けできるよう邁進していきますので、また読んでいただけましたら嬉しいです!

「133cmの景色」は読み切りとして月刊コミックバンチの2023年2月号に掲載された。もしも物語が続くなら、主人公の吉乃華と後輩の岩見の恋愛物語としての展開もとても気になるところだ。

取材協力:ひるのつき子(@tsukkooo)

133センチの吉乃華は一見小学生だが、中身は立派な大人。見た目がネックとなり仕事も恋も上手くいかない/ひるのつき子(@tsukkooo)