BBHF “愛のつづき”
2023.2.8 恵比寿LIQUIDROOM

BBHFが1日限りのスペシャルなライブに“愛のつづき”という名前を冠して開催した。昨年のEP『13』を携えた『LIVE LOVE LIFE』ツアーはある種、尾崎雄貴というアーティストの人生のハードタイムスの中から生まれた作品と、その後に見えてきた光をファンともに迎え入れたような感動があった。そこで今回の“愛のつづき”である。温かいし胸躍るものでもあるけれど、不安や猜疑心も愛があるからこそ発生するものだ。今回のライブはそうした生きる上で避けがたい、でも人間だからこそ感じられる愛の不思議をBBHFのレパートリーの中から厳選し、かつ驚くべき新曲も違和感なくセットされたことで、シンプルに驚き、楽しめるフェーズに達することもできたんじゃないだろうか。

BBHF “愛のつづき”

BBHF “愛のつづき”

超満員のリキッドルームは誰もが緊張して開演を待っている様子だが、メンバーの入場SEでビートルズの「愛こそすべて」が流れた時点で、場の空気が解れたように見えた。雄貴(Gt/Vo)、尾崎和樹(Dr)、DAIKI(Gt)、そして今回はサポートでDAIKIとCurtissでの活動をともにしているNewspeakのYohey(Ba)が参加している。1曲目は「友達へ」。シンセや同期のサウンドが必然性を帯びた、BBHFならではの透明感のある音像にフロアが包まれる。単に友情というより、友達と呼べる誰かに抱く感情が自分の中でもじわじわ浮かび上がる。続く「シンプル」も、仮想空間のストラグルを唾棄し、体温のある現実に今ここで気づかせてくれる。それほど、雄貴のボーカルが明瞭で力強いのだ。「バック」でのDAIKIのコーラスも明瞭だ。

最初のMCでライブタイトルについて雄貴は、前回のツアーが『LIVE LOVE LIFE』だったことに由来しつつ「DAIKIくんの思いつき」だと言い、「曲は1枚絵で完結しているけど、実は続きがあって、それぞれ違うように、みんなにとっての“愛のつづき”になればいいと思う」と、今回のライブの意図を話してくれた。

BBHF “愛のつづき”

BBHF “愛のつづき”

BBHF “愛のつづき”

BBHF “愛のつづき”

情景と心象が浮かぶ「真夜中のダンス」、珍しく雄貴がハンドマイクでアクションしながら歌う「リテイク」ではYoheyのシンベも効いている。と、同時に、今日は雄貴がシンセをステージにセットしておらず、ギター&ボーカルもしくはピンボーカルだなと気づく。もちろんライブアレンジにシンセやSEは効果的に用いられているものの、グッとフィジカルに寄ったスタンスが開かれたムードに直結しているのだ。DAIKIの弾くフレーズが動き出すことのトリガーのような「僕らの生活」、和樹がパッドで作り出す淡々としつつ、少しずつ緊張感を高めていく音としてのビートが「Torch」を支える重要な要素であることも再認識した。

BBHF “愛のつづき”

BBHF “愛のつづき”

BBHF “愛のつづき”

BBHF “愛のつづき”

過去最高にフロアとコミュニケーションしつつ進むステージがシンプルに楽しそうで、新しいBBHFが自然と溢れ出す感じだ。「新曲です」という雄貴の発言に上がる歓声とともに始まった「やめちゃる」は大きな16ビートのグルーヴを軸にここまでとガラッと違うフィジカルにくる音像。慎重に耳を澄ませていたファンもどんどん前のめりになっていく。はっきり聴き取れないし、この時点でまだタイトルは明かされていないので、なんとなく怒りや揶揄のニュアンスを感じ取りながら、前向きなやけくそさが滲む「どうなるのかな」に繋がるのもいい流れだ。うっすらオートチューンがかかった伸びやかな雄貴のボーカルが演奏やアンサンブルのバランスに安堵して身を任せているような「リビドー」、薄いシンセレイヤーフィンガースナップというインディR&B寄りの演奏の上を鍵盤ぽいサウンドのDAIKIのギターが表情をつけ、深いところでうごめくYoheyのベースはまさに適任だと想えた「だいすき」。一転して音源のアレンジからガラッとカントリーテイストにライブアレンジされた「シェイク」へと、音楽的なレンジは縦横無尽だが、愛の悩ましさ、愛のしぶといまでの生命力といった感覚を軸にしたストーリーでライブが編まれていく。

BBHF “愛のつづき”

BBHF “愛のつづき”

「もう1曲、新曲をやります」と雄貴が告げ、こもった音像のイントロからメロディが始まると、ビビッドなポップファンクなグルーヴにフロアが沸き立つ。特にサビのブライトさは初見でも踊れる楽しさで、ここで手も揺れている。この曲が「愛を感じればいい」という肯定的なタイトルを持っていることが生で飲み込めた瞬間だった。ステージ上もフロアも完全にオープンマインドな状態での「君はさせてくれる」の浸透力の強さったらない。本編ラストを前にすでにアルバム制作中であることや、BBHFはゆるく太くなってきてるけど、そういうのでいい、今すごくいい状態なのだという雄貴に、ファンからは同意を込めた大きな拍手が起きた。「愛を忘れないで」を後ろ手を組んで高らかに歌う彼の姿はちょっとリアム・ギャラガーのような強さがあった。孤高の鎧を脱いで、素手で人生を愛したり戦っているんだなと思えた。

BBHF “愛のつづき”

BBHF “愛のつづき”

アンコールでは3月リリースのEP『4PIES』に触れ、「自分に降りかかる現実に拮抗しようとするんだけど、今回のEPは皮肉とユーモアで。くそ不味い4つのパイを食べようぜって」と、したたかなスタンスに笑いと拍手が起こる。そのニュアンスがEPの中でも顕著な「メガフォン」も早速披露。珍しく和樹が手数も多いハードヒッティングするビートやローファイなタッチもある演奏へのリアクションは、これまでのBBHFのライブにはなかったパーティ感すら漂い、雄貴が「これからBBHFはカオスの中を驀進して行きます」と宣言すると、さらにフロアは歓喜を表した。なんにも知らないわけじゃないけど、知った上でもっと知りたいと進んでいくようなこの日のラスト「なにもしらない」のタフさはバンドとファン双方でこの夜に作り上げたムードに他ならない。この熱量は翌日には消える幻のようなものではない。それが“愛のつづき”の正体なのだと思った。

BBHF “愛のつづき”

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文=石角友香 撮影=鳥居洋介

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