健康な70代の過ごし方が、その人がどう老いていくかを決めます。要介護状態を遠ざけ、自立した80代以降の老いを迎えるためには、どうすればいいのでしょうか。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『シャキッと75歳 ヨボヨボ75歳 80歳の壁を超える「足し算」健康術』(マキノ出版)で解説します。

70代は心身の活力が低下するフレイルに要注意

■年をとったら健康管理はゆるめがいい

これからご紹介する「足し算」健康術は、70代にさしかかったみなさんが毎日をアクティブに過ごすための方法をまとめたものです。

充実した80代を迎えるためにやるべきことは、「引き算医療」を見直して、足りないものを足すことです。

前述したように、検査数値を正常にするために薬を飲んだり、食事を制限したりする「引き算医療」は、高齢者に負担をかけて老化を早め、生活の質を落としてしまいます。

年をとったら、自分の体調を良好に保つことを最優先に、合わない薬や無理な食事の制限はやめることです。健康管理はゆるめにして、足りないものを足すことを意識しましょう。

■70代は老化が進みフレイルのリスクが高まる

70代は知的能力も体力も、日常生活を支障なく過ごせるレベルにあります。しかし、70代は脳の衰えや内臓や筋肉などの予備能力の低下により、老化が進むのも事実です。

70代が陥りやすいのが、心身の活力が低下するフレイル(虚弱)です。フレイルとは、加齢に伴い筋力や認知機能、食べる力、社会とのつながりが低下し、要介護の一歩手前になった状態をさします。

60代までならカゼで3~4日寝込んでも、カゼが治れば体力もすみやかに回復し動き回れるようになります。ところが、70代ともなるとそうはいきません。数日寝ただけでも、足腰が弱ってスムーズに動けなくなりフレイルになりやすいのです。

長引くコロナ禍で自粛を強いられた結果、転びやすくなった、歩くのが遅くなったなど、運動機能が弱って要介護にいたる高齢者が急増しています。

高齢者の意欲の低下には3つの原因がある

■意欲が低下すると老化が加速する

シャキッと元気な老後を過ごすには、自分の意志で動けるうちにフレイル対策を始めることが大切です。フレイル対策でカギとなるのが「意欲の低下」を防ぐことです。

人間、意欲が低下すると、「動くのが億劫」「人に会いたくない」「ゴロゴロしていたい」と活動性が下がります。

人に会う機会が減ると、身なりにも気を使わなくなり、外見も老け込んでいきます。そうなるとますます人に会いたくなくなって社会とのつながりが薄れていきます。

体を動かさない生活が続くと筋肉量が減り、筋力が低下して足腰が衰えます。

動かないのでおなかも空かなくなり、食欲がおちて栄養不足になり、さらに筋肉がやせてしまい運動機能が低下するという負の連鎖が止まらなくなって老化に拍車がかかります。

■まだ間に合う!足し算で脳と体の衰えを予防・改善

年をとると、なぜかやる気や気力がなくなったと感じることがあります。実は意欲の低下も老化現象のひとつです。意欲の低下には主に三つの原因があります。

一つは脳の神経伝達物質であるセロトニンの減少です。セロトニンは心のバランスを整える働きがあります。加齢によりセロトニンが不足すると意欲の低下やイライラ感、うつ病を招きます。

二つめは脳の前頭葉の老化です。前頭葉は意欲や創造性をつかさどる部位で、40代、50代から衰えはじめ、60代以降に本格的に老化が進みます。前頭葉が老化すると、新しいことに挑戦する意欲や創造性が失われ、感情の切り替えがうまくいかなくなります。

たとえば、ランチは行きつけの店にしかいかないし、知らないメニューは頼まない。怒りがいつまでもおさまらない。頑固で人の意見に耳をかさないなどは前頭葉が老化しているサインです。

三つめは男性ホルモンの減少です。男性の場合、男性ホルモンが不足すると性欲が衰える、EDになる、人・社会にたいする関心が薄れる、共感力が低下する、人づきあいが億劫になる、意欲が衰える、記憶力や判断力が低下する、筋肉が減って脂肪におきかわり体形がくずれるなど心身に変調をきたします。

ここまで読んで「ダメだ、もう間に合わない」と思う人がいるかもしれませんが、心配はいりません。意欲や体力の低下は、足りないものを足すことで予防・改善できるからです。結果的にフレイルの予防・改善にもなります。

和田 秀樹 ルネクリニック東京院 院長

(※写真はイメージです/PIXTA)