ブラジル空軍は2023年1月30日大統領令第11405号に基づき、北部地域の上空に防空識別圏(ZIDA)を設けました。これには、ヤノマミ族を支援するという狙いがありますが、かなりの重装備で驚きます。

マフィア対策用に早期警戒管制機まで投入!

ブラジル空軍は2023年1月30日大統領令第11405号に基づき、北部地域の上空で防空識別圏(ZIDA)を有効化しました。

この動きは、南米で国家間の緊張が高まったわけではなく、同国とベネズエラ国境付近に住む先住民、ヤノマミ族を支援する作戦「ヤノマミシールド」の一環として行われたものです。

同地には金の採掘を求め「ガリンペイロ」と呼ばれる違法採掘鉱夫が数多く流入しており、土地や森林を破壊し、河川汚染を引き起こすだけではなく、原住民ターゲットとした襲撃事件までも多発するような状況で、前々から問題になっていました。また、襲撃による直接的な被害だけではなく、新型コロナウイルスを始めとした様々な伝染病も持ち込むなどしており、大きな健康被害も起きているそうです。

このガリンペイロは違法採掘夫とはいえ、ブラジル各地で強盗や暴行、傷害事件などを起こす、いわゆる“ならずもの”が多くを占める輩であり、凶悪なだけでなく、マフィアとのつながりもある、かなり厄介な存在になっています。そうした犯罪は、麻薬の密輸などと同様に、飛行機ヘリコプターを使って行われることが多いことから、広域の監視体制を敷き即応性を高めるために防空識別圏を設けたといいます。

監視空域は白 (予約)エリア、黄色 (制限)エリア、赤 (禁止)エリアの3つに分けられ、白と黄色に関しては、事前に手続きした民間機は通ることが許されるものの、赤エリアについては軍用機と作戦参加機しか飛行できません。怪しい航空機はすべて強制着陸させるといい、仮に従わない場合は警告発砲ありとのことで、最終的には違反者を“逮捕”するための発砲も許可されています。

無法者に“自発的”な退去うながす

ブラジル空軍の作戦規模はかなり大きなもので、軍事衛星通信システムを使い全域を監視することに加え、早期警戒管制機E-99、R-99を投入し当該空域を飛ぶ空中目標などは、ほぼすべて探知・追跡。さらにターボプロップ単発機の軽攻撃機「スーパーツカノ」を用い、低空域や地上の警戒も行うという徹底ぶりです。

作戦では同時にヤノマミ族に対する人道支援も行われており、2月14日の段階で、陸海空軍と保健省の共同作戦で、15機の航空機と約500人の人員を動員し、医薬品を含む105tもの物資が輸送されました。

なお、2月6日からブラジル空軍は、作戦が第2段階に入ったとして防空識別圏の一部を開放し、これを5月6日まで続けると発表しています。なぜ、わざわざ防空網に穴を開けているのか。実は、不法採掘者たちが“協力的かつ自発的”に不法採掘地域から立ち退くことを期待しているからだそう。つまり「命が惜しかったら今のうちに動けよ」ということのようです。

この成果なのか、ブラジル法務省のフラヴィオ・ジノ法相によると、6日の段階で、違法採掘鉱夫の実に8割が近日中の退出を表明したとか。こうした温情にも見える措置を取ったのは、現地の不法採掘者たちが強硬策で自暴自棄になり、暴徒化してヤノマミ族の集落を襲った前例を鑑みてだといいます。

ヤノマミ族を支援するブラジル軍(画像:ブラジル空軍)。