「グーグルやウィキペディアは便利で役に立つけれど、『情報の確からしさ』の判断は、ユーザー側に丸投げされている」と語る小林昌樹氏
グーグルウィキペディアは便利で役に立つけれど、『情報の確からしさ』の判断は、ユーザー側に丸投げされている」と語る小林昌樹氏

グーグルなどの検索エンジンウィキペディアなどで、誰でも手軽に情報やニュースを検索できるようになった半面、インターネット上に広がる膨大な情報の海に戸惑うこともある。

そこから、どうやって自分が本当に必要で、かつ信頼できる情報を見つけ出すのか?

15年にわたり、国立国会図書館(東京都千代田区永田町)で一般利用者向けの「レファレンスサービス」(利用者の調べ物相談)に従事し、ベストセラーとなった『独学大全』の著者・読書猿さんが「探しものの魔法使い」と呼ぶ小林昌樹氏。

その小林氏が司書の世界で長い間、培われてきた探し物の奥義をまとめたのが、本書『調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス』だ。

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――昨年12月の発売から話題を呼び、わずか1ヵ月余りで6刷を重ね、2万5000部と好調です。この反響をどうとらえていますか?

小林 自分自身、こんなに売れるとは思っていませんでした。それが意外だったのは事実ですけれど、後から考えると、皆さん「知りたかったらグーグルウィキペディアで調べりゃいいや」と思っていて、それでそこそこの答えは出るんだけれど、一方で「本当にこれでいいのかな? その先があるんじゃないか?」と思っていた人たちもいて、そういう潜在的なニーズがあったのかなと。

インターネットが普及する以前は、何か疑問があっても周りの人たちに聞いてわからなかったら、その時点で諦めて終わり、というケースが多かったと思います。それがネットの時代になって、グーグルなどの検索エンジンが当たり前になり、普通の人が検索や調べ物をすることが、より一般的になったという面もあるかもしれません。

――グーグルウィキペディアで調べれば、すぐにそれらしい情報は出てくるけれど、それが本当に確かな情報なのか? それを調べるための、情報探しのもう一歩先のニーズがあるということですね。

小林 そうですね。個人的にはグーグルで全部済んで、スマホで答えが出れば、それが一番楽でいいと思っているんですよ。

私自身、グーグルウィキペディアを情報のインデックスや探し物の最初の「取っかかり」として使いますし、その意味ではとても便利であることは間違いないと思います。ただ、それは膨大な情報の中の「手がかり」のひとつでしかなくて、その中から信頼できる情報を選び出そうと思ったら、その情報の典拠(よりどころ)を確認していく作業が必要です。

最近はウィキペディアでも、きちんと典拠を記してある項目が増えていて、例えばサブカル系の情報はマニアが作るから、典拠が割とたくさんついたりしますけど、逆に真面目な事柄に限って、典拠が示されていなかったりします。新しくできたばかりの項目だと、最初に記述した人の思い込みが投影されていて、そのまんま信じてはダメな場合もある。

だから、グーグルウィキペディアは確かに便利で役に立つんだけれど、「情報の確からしさ」の判断は、ユーザー側に丸投げされているんですね。それを以前は、例えば紙の百科事典なら出版社やライターが担保していました。

――確かに、どの情報を信じて参照するかは難しい問題で、例えばコロナ禍の3年間を振り返っても、ネットの情報を根拠に激しい意見の対立や分断が生まれていると思います。

小林 ただ、自分でその情報の確からしさを見分ける方法がないわけでもなくて、それはやはり典拠なんですね。丁寧にその情報の典拠をたどってみると、それが紙につながっている場合もあるし、あるいはネット上の何かかもしれない。

私が国立国会図書館時代にやっていたレファレンス司書というのは、そうした情報の探し物のお手伝いをする仕事です。そして司書の世界で長年にわたって蓄積されてきた実践的な情報の探し物のテクニックを、一般の方向けにまとめたのがこの本ですね。

――ちなみに国立国会図書館というと、一般の人には縁遠いというか敷居が高い印象がありますが、本書を読んで、意外と素朴な疑問を調べに来る人もいるんだと驚きました。

小林 そうですね。国立国会図書館はその名のとおり、国会議員などの国会関係者も利用しますが、一般の方も調べ物に利用することができますし、一般の方の探し物のお手伝いをする司書もいます。ですから、この本にも書いたように「サイゼリヤキッズメニューにある間違い探しの起源を調べたい」といった相談を受けたこともあります(笑)。

それに、国会図書館には膨大で幅広い資料が集まっていて、その中にはもちろん『週刊プレイボーイ』を含むあらゆる雑誌や書籍がありますし、いわゆるエロ本の類いもあります。エロ本には風俗などに関する資料としての意味がありますからね。

――何かをちゃんと調べたいと思ったら、その膨大な蔵書・資料を一般人も活用していいし、そこでは小林さんのような「探し物の達人」のサポートも受けられると。

小林 国立国会図書館は、大学の研究者や論文を書いている学生さん、マスコミ関係者やライターさんのようなプロだけでなく、独学で何かを調べたい一般の方も含めて、誰でも利用することができます。先ほどのサイゼリヤ間違い探しだったり、ざっくりとした調べ物を司書に相談することも可能です。ところが、やはり一般の人には「敷居が高い」というイメージがあるのと、図書館の側も宣伝がすごくへたなのがとても残念なところです。

ちょうど、去年の12月に国立国会図書館デジタルコレクションが新しくなり、デジタル化された240万点を超える資料の全文検索が可能になりました。これは本当に画期的なことで、一般の人たちがグーグルウィキペディアの世界の先にある膨大な情報や資料に、手軽にアクセスできる環境がさらに整いつつあるのです。

だからこそ、図書館の側もこうした仕組みの活用の仕方を、一般の人たちにわかりやすくアピールする必要があると思いますし、皆さんにも、そこで信頼できる情報を探すために、私がこの本で書いた「調べ物テクニック」を存分に活用してもらえればうれしいですね。

●小林昌樹(こばやし・まさき)
1967年生まれ、東京都出身。92年、慶應義塾大学文学部卒業。同年国立国会図書館入館。2005年からレファレンス業務に従事。21年に退官し、慶應義塾大学でレファレンスサービス論を講じる傍ら、近代出版研究所を設立。22年、同研究所から年刊研究誌『近代出版研究』を創刊。専門は図書館史、近代出版史、読書史。編著に『雑誌新聞発行部数事典: 昭和戦前期』(金沢文圃閣)などがある

■『調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス』
皓星社 2200円(税込)
国立国会図書館で15年にわたり、レファレンスサービスに従事した著者が、司書の世界で長年、培われてきた探し物の極意を一般の人向けにわかりやすく解説。独学やリスキリングに注目が集まる今、仕事や趣味でのちょっとした「調べ物」の際に、キチンとした答えを出すための考え方や予備知識、コツを伝授する

インタビュー・文/川喜田 研 撮影/村上宗一郎

「グーグルやウィキペディアは便利で役に立つけれど、『情報の確からしさ』の判断は、ユーザー側に丸投げされている」と語る小林昌樹氏