もう広告宣伝費に巨額をかける時代ではないのかもしれない。出版から11年経っても全く売れなかった1冊のミステリー小説が、たった16秒のTikTok動画で、数日後には米アマゾンでベストセラーになるという快挙を成し遂げて世間の耳目を集めている。米バーモント州の新聞『Seven Days』、米ビジネス誌『Entrepreneur』などが伝えた。

米バーモント州モントピリア在住のロイド・デヴァルー・リチャーズさん(Lloyd Devereux Richards、74)は、14年かけて執筆し2012年に出版した犯罪スリラー小説の売り上げが悪かったにもかかわらず、それで十分満足していたという。引退するまで生命保険会社「ナショナル・ライフ・グループ」の弁護士として28年間勤め、妻と子どもたちに囲まれて暮らし、夢だった小説を書き上げたロイドさんは、「40代の若いころから常に本を書きたいという情熱を持ち続け、仕事と家庭を両立させながら、週末や夜に書きました」と『Seven Days』のインタビューで語った。

一方で、教師をしている娘のマルグリットさん(Marguerite、40)は父親の本が日の目を見ることを願い、何か月も前から本を紹介するTikTok動画を作りたいと考えていたそうで、のちに「もちろん、ここまで注目を集めるとは思いもしませんでしたけれど」と振り返っている。

父親が本を書く姿を見て育ったマルグリットさんは「その視点からビデオを撮りました。部屋の片隅でPCのキーボードを打つ父の姿です」と続けた。

拡散された動画には、執筆活動で使う屋根裏の書斎で作業をしているロイドさんの後ろ姿が映し出される。BGMにジョン・レノンの『ビューティフル・ボーイ(Beautiful Boy (Darling Boy))』のカバー・バージョンが流れ、ロイドさんと思われる男性が、歌に合わせて口ずさんでいる音声も入っている。

そしてハッシュタグ「#booktok」と以下のテロップを付けて、マルグリットさんはビデオクリップを仕上げた。

「父は本を書くのに14年を費やしました。」
「フルタイムで働いて、いつも子どもたちを優先してくれましたが、執筆の時間を作りました。」
「売れ行きが芳しくなくても、父は幸せです。」
「もう少し売り上げが伸びたらうれしいです。父はTikTokが何なのかすら知りません。」

そして最後に、ロイドさんが手にした自著『ストーン・メイデンズ(Stone Maidens)』が映る。

この心温まる16秒の動画は、現地時間7日にTikTokへ公開されると瞬く間に拡散。コメント欄は、励ましの言葉や「買いました!」「いま注文入れました」「絶対買います」「お給料が入ったら買います」「お母さんに買ってもらえるように頼んだところです」といった声で溢れた。またアイルランドノルウェーフィリピン、タイなど海外からも、本を買いたい、読みたいという声が寄せられた。

現地時間9日には、米アマゾンシリアルキラー部門のベストセラー1位を獲得。上位カテゴリースリラー&サスペンス部門でも、スティーヴン・キングディーン・R・クーンツより上位にランキングされ、10日には在庫切れになってしまうほどの大ヒットとなった(数日後には再入荷されている)。なお動画はすでに4,800万回超の再生回数を記録している。

マルグリットさんは現地時間9日にも続編をTikTokに公開しているが、娘に自身のTikTok動画を見せてもらったロイドさんは、アマゾンで1位となったことを知ると感極まって涙を流した。テロップには『その朝はずっと『ありがとう』と言い続けていた」と書かれている。

ロイドさんは、すでに次の2冊の執筆を完了させている。1冊は『ストーン・メイデンズ』の続編。もう1冊は全く別のストーリーで昨夏に書き上げている。そして少なくとも現時点で2つの映画製作会社が『ストーン・メイデンズ』の映画化に関心を示しているという。

TikTokのコメント欄に「インターネット。それは正しく使うと、驚くほど力を発揮する!」といった言葉が届いているが、その一言に尽きる遅咲きの大ヒット作。日本語訳が出る日もそう遠くはないだろう。

画像は『Seven Days 2023年2月14日付「Viral TikTok Post Brings Delayed Fame to Montpelier Author」』『lloyd 2023年2月7日付TikTok「It’s a beautifully written thriller on Amazon」』『Amazon.com 「Stone Maidens Kindle Edition」』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 秋本神奈)

海外セレブ・芸能のオンリーワンニュースならテックインサイト