本記事は、東洋証券株式会社の中国株コラムから転載したものです。

苛烈な「対中半導体規制」…中国のハイテク産業に陰り

半導体の「中国包囲網」が進んでいる。米国、日本、オランダの3ヵ国は1月27日、半導体製造装置の販売に一定の制限を設けることで合意。中国による先端技術の軍事転用阻止が目的だ。

米商務省が昨年10月に公表していた輸出管理規則の強化策に日蘭が“乗っかった”形とも言える。装置市場に占める米日蘭のシェアは約7割に達するため、ハイテク分野の新たな「鉄のカーテン」とも表現できよう。

米国の規制品目リストに含まれた「特定の先端半導体」は、

◇16/14nm(ナノメートル)以下のロジックIC

◇128層以上のNAND型フラッシュメモリ

◇18nmハーフピッチ以下のDRAMメモリー

となっている。ここに製造装置も追加された。

蘭ASMLが製造する最先端製品の製造に必要なEUV(極端紫外線)露光装置のほか、ニコンなども手掛ける一段階手前のDUV(深紫外線)露光装置の対中出荷制限も現実味を帯びてくる。

また、「米国の人(U.S. persons)」が中国の先端半導体の開発・生産に許可なく関わることも禁じられたため、米アプライドマテリアルズやラムリサーチが中国の半導体工場から米国人従業員を引き揚げた。

テクノロジーは人がいないと機能しない」のが世の常。日系企業も難しい対応を迫られそうだ。

中国企業は苦戦中。NAND型フラッシュメモリーを製造する長江存儲科技(YMTC)は昨年11月、米アップルからの発注キャンセルが報じられた。

米国籍の技術人材が流出し、米国設備メーカーからの供給も停滞しているという。シェア20%を目標に232層3次元(3D)NAND型製品の量産を計画していたが、中断に追い込まれると見られる。

アリババ集団(09988)は、英アームから半導体の設計技術「ネオバースV」シリーズを調達できないと伝えられた。データセンター用プロセッサの技術停滞につながり、クラウドコンピューティングや機械学習面で後れを取る可能性が指摘されている。

台湾のTSMCは、上海壁仞智能科技(ビレン・テクノロジー)の汎用GPU(画像処理半導体)「BR100」の受託生産中止を決めたようだ。

同製品は「演算能力世界一」と称される先端製品。当初はTSMCが7nmプロセスで製造する見通しだったが、米エヌビディアのAI演算用GPU「A100」が米政府によって中国市場供給が禁止されたことで目算が狂った。

A100を上回る性能のBR100も規制対象に含まれるのではないか。そんな深謀遠慮、あるいは忖度が働いたのかもしれない。

残念ながら中国国内での製造は難しい。AIやスーパーコンピューティング、量子計算などの技術への影響が懸念される。

多方面からの規制でがんじがらめの中国…行く末は

中国には今後、どのような道が考えられるか。

まずは「自力更生」の掛け声の下、先端製造装置の自主開発に邁進していくだろう。

ただ、ASMLのEUV露光装置は、TSMCインテルサムスン電子との協業(すり合わせ)の下、10年以上の歳月を費やして開発したもの。「中国が初期開発段階に到達するのには最低でも5年から10年は必要」との声もある。

もうひとつは、既存および成熟プロセスの強化だ。

55nmは車載電子製品など依然多くの分野で使われている。また、一般的に90nm技術が主流とされるパワー半導体などの成長後押しにつながるかもしれない。

ファンドリーのSMIC(00981)は米規制により生産設備や部品、材料の入手が困難になることを見越し、20年頃に「先端プロセスの開発から成熟プロセスの充実」へと転換していたフシがある。

一方、エヌビディアはスペックを落とした「中国専用GPU」を投入したようだ。前述のA100の対中輸出が阻まれたため、同等の演算能力を持つもののデータ転送速度を3分の2に抑えた「A800」の生産を開始したという。

規制逃れの苦肉の策。中国の顧客離れを防ぐため、サプライヤー側も必死である。

奥山 要一郎

東洋証券株式会社

上海駐在員事務所 所長

(※写真はイメージです/PIXTA)