老後の不安とは、突き詰めていけば「お金の問題」に他なりません。長生きは喜ばしい反面、それだけ生活費がかかることも事実です。本連載では、資産形成のプロでありシニア・プライベートバンカーの濵島成士郎氏が、著書である『老後の不安がなくなる50歳からのお金の増やし方』(三笠書房)から、老後の資産形成を行うコツについて解説します。

投資信託は、どういう基準で選ぶのが正解?

投資信託とは、「中にどんな資産や銘柄を入れるのかは自由な箱」であるとお伝えしました。「どのような資産、対象に投資するか」は投資信託ごとに運用方針が決まっています。だから、まずは運用方針を確認していただきたいのです。

たとえば、「日本の株式に投資」する運用方針の投資信託と、「外国の債券に投資」する運用方針の投資信託とでは、期待できるリターンもリスクもまったく違います。

運用方針は、「投資信託説明書」(交付目論見書)に「ファンドの特色」という欄があり、そこにどんな対象に投資するかが書いてあります。ここを見るだけで運用方針がわかります。

これから資産形成をスタートするあなたは、株式、それも世界の株式に投資する投資信託を選ぶことが基本になります。

次に確認するのは、「インデックスファンド」なのか、「アクティブファンド」なのかです。

インデックスファンドとは、パッシブファンドとも呼ばれる、市場動向を表す指数に連動するように設計された投資信託を指します。たとえば、日経平均株価や米国のS&P500に連動するような投資信託です。

日経平均株価とは、日本経済新聞社が公表している日本の株式市場の代表的な株価指数で、流動性の高い225銘柄から算出されています。単に日経平均や日経225とも呼ばれています。

また、S&P500とは、S&Pダウ・ジョーンズインデックスが公表している米国の代表的な株価指数の1つで、ニューヨーク証券取引所、NASDAQ等に上場している主要な企業500銘柄から算出されています。

一方、アクティブファンドとは、ファンドマネージャーが独自の見通しや投資判断に基づいて銘柄を選択したり売買を行なうことで、ベンチマーク以上の運用成果を目指す投資信託のことです。

たとえば、日本の株式で運用するアクティブファンドの多くは、TOPIX(東証株価指数)をベンチマークとしています。

TOPIXとは、「Tokyo Stock Price Index」の略で、東京証券取引所プライム市場に上場する銘柄等を対象として算出・公表されている、株式市場全体の動きを表す株価指数です。

つまり、日本株のアクティブファンドは日本の株式市場全体の動きよりも良い運用成果をあげることを目指していることになります。

過去の実績やファンドマネージャーの考え方などは、その商品のホームページを見ることで確認できます。

コストについて確認しておくべきポイント

次に確認するのはコストです。購入時手数料については前項でお伝えした通りです。

もう1つの主なコストである運用管理費用(信託報酬)は、インデックスファンドとアクティブファンドではかなり違います。相対的にインデックスファンドのほうが低い傾向にあり、最近では0.1~0.2%程度と非常に低い商品が増えてきています。

一方、アクティブファンドでは1.0~2.0%程度の運用管理費用がかかります。

運用管理費用の差は微々たるように感じるかもしれませんが、2章の投資の基本原則でもお伝えした通り、長期でみると大きな差になります。

運用管理費用は運用会社の主な収入源だとお伝えしました。インデックスファンドは単に指数に連動するように設計するため、銘柄選択等のコストがほとんどかからないので運用管理費は低く済むのです。

アクティブファンドは、ファンドマネージャーが独自に調査をして銘柄選択をします。市場動向を見て機敏に売買する場合もあります。当然、その分のコストがかかるため、運用管理費用は高くなるのです。

高い運用管理費用を補って余りある良いリターンが出るのであれば、高いコストを負担してでもアクティブファンドを選択する意味はあります。ファンドマネージャーや運用会社の投資スタンスと考え方、過去の実績等をしっかりとチェックしましょう。

純資産額も確認しておきましょう。純資産額があまりに小さいと、投資できる銘柄の数や量が十分ではなく、ファンドマネージャーの思ったような運用ができないことになります。

また、証券会社の販売姿勢に左右されてしまうような投資信託は避けたほうが無難です。たとえば、新規で設定する際には、営業員に大号令をかけて大量に販売したが、その後は解約が続き、純資産額がどんどん減っていくような商品です。

解約注文が来ると、現金を作るために投資している銘柄を売却しなければなりません。これではファンドマネージャーが腕を振るうことはできません。純資産額の目安としては50億円以上、また、資金が安定的に流入しているかどうかを確認するようにしましょう。

分配金については前項で解説しました。分配金を出す方針の投資信託は長期的な資産形成には向いていません。必ず分配実績と合わせて確認してください。

最後に、信託期間も確認しておきましょう。

信託期間は無期限としている投資信託もありますし、一定の期間で区切っているケースもあります。

必ずしもその期間で償還してしまうわけではありませんが、無期限であれば長期で投資することを前提にしていると考えられます。

「投資信託で損をしない」情報収集術

投資信託を賢く選ぶための「情報収集」には、少々コツがあります。

まず、どんな投資信託かを知るための方法です。前項でお伝えしたチェックポイントは運用会社のホームページ等で確認することができます。

たとえば、三菱UFJ国際投信が運用する「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」を例にとって解説していきます。

まずは、上記投資信託の名称をネットで検索してみてください。三菱UFJ国際投信の公式ホームページを見つけたら、まず確認していただきたいのが「交付目論見書(投資信託説明書)」です。

[図表1]を見てください。

三菱UFJ国際投信の公式ホームページに掲載されている「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」の交付目論見書(投資信託説明書)の表紙です。

この表紙だけで、投資対象資産は内外の株式であることやインデックスファンドであることなど、ある程度どんな投資信託なのかがわかるようになっています。

次のページには、ファンドの目的・特色が書いてあります。

このファンドの目的は、日本を含む先進国および新興国の株式市場に連動する投資成果を目指すことであり、具体的にはMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み、円換算ベース)に連動するという記載があります。

さらに、分配方針という欄があります。

年1回の決算であること、分配金は原則として抑制する方針であることがわかります。

これ以降、投資リスクや運用実績、手続・手数料等と続きます。手続・手数料等の欄では、ファンドの費用について、購入時手数料や信託財産留保額がないこと、運用管理費用は、年率0.1144%以内であること等が書かれています。

この交付目論見書(投資信託説明書)を見れば、おおよそのことが把握できるのです。さらに、ホームページではさまざまな情報を得ることができます。最新の基準価額や純資産総額、過去の値動きと純資産額の推移、過去の分配金実績等です。

また、最新の月次レポートや販売会社も確認できるようになっています。

投資の候補となる投資信託を見つけたら、運用会社の公式ホームページを見るようにしましょう。

最近は、TwitterやYouTube などでさまざまな情報が飛び交っています。いわゆる、インフルエンサーと呼ばれる人たちが、再生回数を稼ぐために刺激的な話をするケースも見受けられます。

なかには正しく有益な情報もありますが、不確かな情報に振り回されてリスクの高い商品に手を出したり、あたふたと売買したりしないように十分に注意してください。

有益なオンラインイベント「投信ブロガーが選ぶ!Fund of the Year」とは

ネットで得られる情報の中で、年に1回行なわれている「投信ブロガーが選ぶ!Fund of the Year」というイベントは有益です。ご紹介しましょう。

個人投資家にとって本当によいと思える投資信託を、投信ブロガーたちが投票で選び、それを広めることで自分たちの手でよりよい投資環境を作っていこう、という試みです。なかには長期投資に向かない商品もありますが、純粋に投資家から評価された投資信託が並びますので、参考になると思います。

ちなみに、2021年のFund of the Yearは、先ほど例に挙げた、eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)でした。

私が投資信託をおすすめする理由を改めてお伝えします。

  1. 少額から投資できること。
  2. 分散投資が容易にできること。
  3. 運用のプロに任せることができること。
  4. 個人ではアクセスできない銘柄や商品に投資できること。

投資する個別の銘柄を自分で研究する必要がなく、ある程度はほったらかしでも大丈夫です。さらに、前述したようにネット証券を利用することで取引手数料が無料もしくは格安で資産形成に取り組むことができるのです。私が証券会社に勤務していた時代とは雲泥の差です。

ぜひ、この素晴らしい環境を老後の資産形成に活かしていただきたいと思います。

濵島 成士郎

株式会社WealthLead

代表取締役

(※写真はイメージです/PIXTA)