ちょっとダークなおとぎ話のようだが、人間や動物の遺体にできる不思議な鉱物がある。世にも珍しい闇属性のクリスタルの名を「ビビアナイト(藍鉄鉱)」という。
死体に形成されることだけでなく、空気に触れると色が変わるところも神秘的だ。
濃青色や緑青色が美しい結晶でありながら、腐敗した遺体に形成されるのは一体なぜなのだろうか? ネクロクリスタルの異名を持つビビアナイトの謎に触れてみよう。
ビビアナイトは「含水リン酸塩鉱物(Fe3(PO4)2・8H2O)」でできた鉱物で、化石や動物の排泄物といった有機物、さらには動物の死体のうえなどで形成される。
死体に形成されると言ったが、よく見られるのは骨や朽ち木などの有機物や鉄分が多く含まれた「堆積物」だ。
また「熱水鉱床」やリンが豊かな「花こう岩ペグマタイト」(大粒の鉱物結晶でできた火成岩)でも産出する。
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ビビアナイトの結晶は非常にもろく、取り扱いには注意が必要だ。また土の中にあるときは、淡い白や透明だが、空気に触れると酸化して変色し、濃青色や緑青色になる。
ちなみにビビアナイトという名称は、1817年にこれを発見したイギリスの鉱物学者ジョン・ヘンリー・ビビアンに因んでいる。
ビビアナイト / image credit:Rob Lavinsky via Wikimedia Commons ( CC BY-SA 3.0 )
ビビアナイトはなぜ死体に形成されるのか?
その秘密は闇の力が凝集すること……ではなく、鉄と水とリン酸塩の相互作用だ。
歯や骨をはじめ、人や動物の体にはリン酸塩がたっぷりと含まれている。これは遺体が腐り始めると周囲に漏れ出すのだが、そこにたまたま鉄と水があると、これらが反応してビビアナイトができる。
そうした死体にできるビビアナイトのほとんどは、数百年前に埋葬された遺体の骨や歯のうえで見つかるが、もっとずっと古い数千年前のマンモスの牙などで見つかったこともある。
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人間の遺体にできたケース
また珍しいケースとして、もっと新しい人間の遺体にできているものもある。
たとえば1960年代、ドイツのバルヒェン湖で複数の遺体が発見されたことがある。
そうした遺体は骨が剥き出しで、一部は屍ろう(脂肪がろう状になったもの)で覆われていた。そのうちの一体には鉄板が留められており、そこにビビアナイトが形成されていたのだ。
衣服の分析からは、遺体は30年から50年ほど水中にあっただろうことがわかっている。
鉄板が侵食されて漏れ出た「鉄(II)イオン」が、人体のリン酸塩と反応したことで、短期間のうちにビビアナイトが形成されたようだ。
1998年に発見されたビビアナイトは、ベトナムで死んだ米軍兵の遺体にできていた。
その遺体は、1963年に行方不明となった爆撃機B-26Bの乗組員で、機体と一緒に湿気を含んだ土に埋もれたことで、ビビアナイトが成長したと考えられている。
さらに1991年、オーストリア・アルプスのエッツ渓谷で5300年前の古い人間の遺体(アイスマン)が発見されたが、その皮膚の内外や肺の組織からもビビアナイトが発見された。どうやら鉄を含む岩石に触れていた部分に形成されたようだ。
image credit:Terry O'Connor/BoneCommons
1996年にはスイス、ブリエンツ湖からも屍ろうとビビアナイトに覆われた遺体が発見されている。その遺体は、1700年代にそこで溺死した人のものだと考えられている。
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References:Vivianite: The Necro Crystal You Never Knew Existed | IFLScience / written by hiroching / edited by / parumo
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