3月2日(木)開幕の舞台「『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rule the Stage《Fling Posse VS MAD TRIGGER CREW》」。2019年に初の舞台化を果たし、シリーズとして展開してきたが、2022年からは《2nd D.R.B》のエピソードへ突入。本作では、シブヤ・ディビジョン“Fling Posse”とヨコハマディビジョン“MAD TRIGGER CREW”が対峙する。 WEBザテレビジョンでは、舞台第一弾からヨコハマディビジョンのリーダーである碧棺 左馬刻を演じ続けている阿部顕嵐に独占インタビューを実施。本作の見どころや、ディビジョンへの思いなどたっぷり語ってもらった。改めてシリーズ黎明期の秘話を語る阿部の言葉からは、『ヒプステ』に抱く強い愛とプライドが感じられた。

【写真】鏡の中からクールな眼差しで覗き込む阿部顕嵐

■3年間演じてきた左馬刻、『ヒプステ』は「ホームに帰ってきた感じ」

──稽古お疲れ様です。今回の稽古場の雰囲気はどうですか?

いつも通りです。『ヒプステ』はやっぱり、ホームに帰ってきたみたいな感じがあって。仲もいいし、うるさいです(笑)。今日も通し稽古中に誕生日を祝ってました。(演出家の植木)豪くんも、みんなのセリフやダンスを覚えるペースを把握しているから、言うべきことは言うけど信頼してくれている。だからこそちゃんとやらないと、というのはありますね。

──今作は《Fling Posse VS MAD TRIGGER CREW》となりますが、どのような作品になりそうですか?

稽古をしていて、今回はいつもよりも原作CDのドラマトラックに沿った形だなと感じています。お芝居もしっかりあって、もちろんラップもあって、本読みや稽古をしていても、面白いなと。左馬刻としては、今までとはまたちょっと違う感情が見える作品だと思います。

──阿部さんは-track.1-から左馬刻を演じ続けていますが、その中でキャラクターに対する解釈の変化があれば教えてください。

良い意味で最初からあまり変わっていなくて。変わったところもありますけど、芯の部分は変わっていないというか。最初はもっと動いてもいいかなとも思っていたんですが、豪くんに「左馬刻はなるべく動かないし、視線とかもすごいゆっくり動かすのを心がけて」と言われたことによって、左馬刻は“静”で、(山田)一郎が“動”なんだなと思ったんです。そこからずっと解釈は変わっていないですね。原作があるので、(原作で左馬刻を演じている)浅沼(晋太郎)さんの左馬刻をリスペクトして、踏襲していきたいという想いも変わっていないです。

──今、“静”のイメージとおっしゃっていましたが、そもそも左馬刻はどういうキャラクターだと思って演じていらっしゃいますか?

すごく優しい人、かわいい面がある人だなと思います。特に“MAD TRIGGER CREW”の3人でいるときはそういう面がよく見えますよね。ぱっと見はヤクザだし、ちょっと違う世界の人に感じるんですけど、節々に人間味を感じられるというか。すごく自然体な人だなと感じています。

ヨコハマの魅力は「マイペースさと自由さと、背中を預けられる関係性」

──“MAD TRIGGER CREW”は-track.1-から出演しています。ディビジョンとしてのカラーや魅力はどんなところにあると感じますか?

キャラクターと、キャストの僕たち3人の関係性ってちょっと似ていて。たぶん“MAD TRIGGER CREW”って、そこらへんのレストランにいそうな3人ではないじゃないですか。理鶯(毒島 メイソン 理鶯)の料理を食べることはあるけど、3人でわざわざご飯を食べるために集まることはないと思う。実際、俳優3人でご飯に行ったことも1度もないんですよ。そのマイペースさと自由さと、でも集まったときにはちゃんと背中を預けられる関係性であるというところが魅力かなと感じています。例えばイケブクロは真ん中に旗を掲げていて、3人が向き合っているイメージですけど、ヨコハマは背中を預け合っている。それは常に頭に置いていますね。

──実際に3人でご飯を食べに行ったことはないとおっしゃっていましたが、阿部さんから見て、入間 銃兎役の水江建太さんと、毒島 メイソン 理鶯役のバーンズ勇気さんはどのような方ですか?

建太くんは、ぱっと見はクールでとっつきにくいタイプに見えると思うんですけど、実はすごくかわいらしい人で、熱いところもある。以前、急に建太くんから電話がかかってきて、「顕嵐についていくから、なんでも言って」みたいに言われたことがあったんですよ。-Championship Tournament-のドラマパートについての相談のときに、「俺はリーダーの顕嵐についていくし、尊敬しているから」ってまっすぐに言われて。建太くんのほうが年上だけど、年下に向かってそう言えるのはすごく素敵だなと思いましたね。あとは遊び心もある人。僕がふざけて絡むと、ふざけて返してくれるんですよ。そういう姿って他の現場ではあんまり見せていないと思うんですけど。

──あまり想像がつかないですね。

想像つかないですよね。たぶん普段はあまりダル絡みされるタイプじゃないだろうから、よく僕と勇気くんでダル絡みしているんです(笑)。そしたらちゃんと返してくれるので、たぶんダル絡み、嫌いじゃないんですよ(笑)。

──ではバーンズさんは?

勇気くんはムードメーカーですね。あとは舞台上の理鶯ってどこか異質な存在だと思うんですが、それは勇気くんのどっしりした感じとリズム感が大きいのかなと。すごくカッコいいなと思います。特にラップの面ではかなりインスピレーションを受けます。でも現場ではただただ面白い人です(笑)。リハの大事なところで噛んだりするんですけど、それが良い意味で年上っぽくなくて、場を和ませてくれます。天性の愛されキャラですね。

──では今回の舞台では、どのような“MAD TRIGGER CREW”が見られそうですか?

ヨコハマって、今まであまりディビジョン愛や3人の結束力を強く見せてこなかったんですよね。他のディビジョンと違って、付かず離れずという印象だったと思うんですが、今回はすごく熱いヨコハマ、情熱的なヨコハマが見られると思います。

■シブヤは「ヨコハマとは違う仲の良さ」「いつも3人で話している」

──今回は“Fling Posse”と対峙する形になりますが、ヨコハマとシブヤとの関係性はどういうものだと感じていますか?

今まであんまり絡みがなかったので気づかなかったんですけど、意外と共通点があるんです。シブヤとヨコハマは、因縁さえなければ、ほんわかと、平和に共存できるチームなんじゃないかな。

──今作の“Fling Posse”は飴村 乱数役に安井謙太郎さん、夢野 幻太郎役に坂田隆一郎さんが出演されますが、新生“Fling Posse”にはどのような印象がありますか?

うーん、印象は特に変わらないですかね。ずっと仲が良いなと思って見ています。ヨコハマとは違う仲の良さなんですよね。僕らもすごく仲良いですけど、ポッセはいつも3人で話していて。

──先ほど「イケブクロは向かい合っていて、ヨコハマは外を向いている」というイメージがあるとおっしゃっていましたが、それでいうとシブヤは?

シブヤは内を向いているほうが強いかな。稽古場でのキャスト3人の関係性でも、役としてもそれは思います。

■「やってやろう」という反骨精神で挑んだ-track.1-

──阿部さんは『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』最初の舞台化である-track.1-から出演されていますが、『ヒプステ』の受け入れられ方の変化をどう感じていらっしゃいますか?

やっぱり特に最初は、原作ファンで「舞台化嫌だな」って思う方もいるじゃないですか。僕もその気持ちはとてもわかるんですけど。だからこそ『ヒプステ』では、舞台ならではの良さを見つけたいと思っていて。原作の良さは活かしつつ、別の要素で「これはわざわざ舞台を見にくる甲斐があるな」と思ってもらえる作品を作る必要がある。その想いで、豪くんと僕らでずっと話し合って-track.1-を作り上げてきました。実は最初、僕ら全然ダンスシーンはなかったんですよ。原作ファンの方をがっかりさせたくないという想いがあったから、あえてそうされていて。でもキャストもスタッフも反骨精神がある人ばっかりだったから、「やってやろう」という思いで挑んでいました。そしたら、最終日には当日券に列ができるほど観にきてくれる人が増えて、今ではダンスシーンもかなり増えてきたと思います。がんばってよかったなと思いましたね。

──当時、-track.1-の評判がすごく良くて、開幕前にあった舞台化への不安をひっくり返した印象がありました。

最初の作品だからこそ「何かを残そう」「次につなげよう」という想いがみんなにあって。だからメインストーリーで8作目まで続いているのは、もちろん原作の力ではあるけど、少なからず僕らの力でもあるというのは感じています。今では原作関係者の方にも信頼されているなと思いますし、認めていただいてありがたいです。なんなら最近、豪くんもあんまり演出をつけないんですよ。「だいたいここらへんにいて、こっちに行ってもらえば良いから。あとは自分の好きなタイミングで」とか。

──阿部さんがやれば左馬刻になる、とみんなが思っている証拠ですよね。

あと、以前浅沼さんと対談させてもらったときに、「どうやって動いているの?」と聞いてくれたので「“静”を意識して、なるべく視線も、歩くスピードもゆっくりしています。そうすると自信があるように見えるので」という話をしたら、「意識するわ」って言ってくれて、浅沼さんがステージに立つときに、それを踏襲してパフォーマンスしてくれたんですよ。声の本物だった人が、僕の動きを意識してくれるなんて、すごくありがたいです。

■キャラクターの立ち絵から登場する演出は「気持ちが引き締まる」

──キャラクターの立ち絵から演者が登場するという演出も『ヒプステ』の大きな特徴のひとつだと思うのですが、一方でキャストの皆さんにとってはかなりプレッシャーになるのではないかと思います。あの演出についてはいかがですか?

あれも実は、-track.1-のときにすんなりOKが出た演出ではないんです。でも豪くんが「絶対に立ち絵から出る演出がいい」と戦ってくれて。その豪くんの熱い想いに僕らも応えて、今の形になりました。もちろんプレッシャーですけど、気合が入るんですよね。お客さんも世界観に入れるんじゃないかなと思いますし。プレッシャーよりも気持ちが引き締まるというほうが強いです。

──観客としてもテンションが上がる瞬間です。

僕も自分が出ていない作品を観に行ったとき「うわあ、絵から出てきた!」って思いましたもん。あの瞬間はやっぱりテンションが上がりますよね。

──では、最後に阿部さんが思う『ヒプステ」』の魅力を教えてください。

劇場に観に行って楽しむものの真骨頂だと思います。派手なシーンもあるし、凝った演出も考えられているから、ヒプマイを知らない人が見ても楽しめる。ライブを観に行っているのか舞台を観に行っているのかわからないというのが、すごく素敵だなと思うんですよ。少しでも興味を持って観に来てくれた人が「面白かった」「見応えがあった」と言ってくれる作品なので、そこが『ヒプステ』の良さだと思います。

──1度行くと、もう1度観たくなる舞台ですよね。

そうですね。そこは心がけていることでもあって。D.D.Bも含めて、みんな全力で楽しんでいる。それがお客さんに伝わって、また観に行きたいと思ってもらえる作品になっていたらいいなと思います。

■取材・文/小林千絵

撮影/友野雄

碧棺 左馬刻役の阿部顕嵐/撮影=友野雄