平壌産院、平壌こども病院、金萬有(キム・マニュ)病院などなど、北朝鮮には国営メディアに頻繁に登場する大病院がいくつかある。高度な医療も含めてすべて無料で利用できると宣伝しているが、事実とは異なる。

実際は医師や看護師から多額のワイロを要求される。応じなければ診療を後回しにされるか、放置される。その結果、死亡事故も起きている。そんな現状に、地方当局が実態調査に乗り出した。黄海北道(ファンヘブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

当局は、道内のすべての病院、診療所に対する実態調査を今月末まで行なっている。その結果を元に具体的な総和事業(評価)を行う予定だ。そして、この機会に医師の医学への姿勢、道徳的態度まで具体的に把握し、病院内の朝鮮労働党委員会、行政イルクン(幹部)の管理問題も検討することにした。

住民からはかねてから、病院の腐敗した実態を指摘する信訴(告発)や請願が相次いでいた。例えば、診察を一回受けるだけでも、医師から様々な口実で酒、タバコ、現金を要求されることが常態化しているという。住民は「社会主義無償治療制度は消え失せた」と批判している。

中でも道内最大の病院である沙里院(サリウォン)市病院に対する批判が集中し、問題視されている。軍への入隊を控えた若者(招募生)の健康診断をいい加減に行ったとか、入隊前に歯の治療を済ませようとしたら医師から「タバコ1カートンは持ってこなければ治療してやらない」と露骨に言われたなどとの訴えが道軍事動員部に相次いだ。その結果「医師の資質に問題がある」との意見書が、朝鮮労働党黄海北道委員会に提出される事態となっている。

当局は、今回の実態調査であちこちから噴出する住民の不満を総合的に分析し、「招募生にまでタバコやカネを要求する医師のどこが保健戦士か。党の医療保険政策に反するこのような医師は今後許さない」と厳しい警告を下した。

今回の取り組みで、とりあえず病院の状況は改善されるだろう。だが、ほとぼりが冷めれば元通り、ということは想像に難くない。

そもそも医師がワイロを要求するのは、子どものお駄賃程度の超薄給しかもらえず、生活が到底成り立たないからだ。これは医療関係者に限ったことではなく、北朝鮮で働くほとんどの人が直面している問題だ。

また、医薬品不足も深刻だ。病院は処方箋を出すだけで、患者は医薬品を市場で買うことを求められる。

問題は医療システムだけにあるのではなく、北朝鮮という国のシステムそのものにあるのだ。

金正恩氏が保健医療関係者と面会した(2022年8月11日付朝鮮中央通信)