音信不通だった旧友が突然やってきて、押し付けられた桜の盆栽。預かりものということで否応なく面倒を見ることになってしまった青年だが、手入れをするうちに盆栽への愛着が芽生え、そして預けた友人の真意を知る――。

【漫画】「さくらの咲くころ」(作:斉藤ロジョコ)を読む

斉藤ロジョコ(@rojyoko)さんの創作漫画「さくらの咲くころ」は、WEB漫画賞「クニエ漫画グランプリ2022」でグランプリを受賞した作品。「4枚の画像で審査」というユニークな審査を突破し、プロ編集者の指導のもと本編が制作された。

ウォーカープラスでは同作の紹介とともに、作者の斉藤ロジョコさんに受賞インタビューを実施。「さくらの咲くころ」にこめた思いをうかがった。

■「長い旅」に出かけた旧友からの盆栽が、青年の日々を変えていく

クニエ漫画グランプリ2022は、コンサルティングファームの株式会社クニエが主催。同社の企業理念を象徴する「貢献」「熱意」「誠意」「志」「共感」「仲間」の6つのテーマで「続きが読みたくなる画像4枚」を募集。「さくらの咲くころ」は“共感”をテーマに、平凡で鬱屈とした日々を過ごす青年「祐樹」が、友人の桜の盆栽を預けられたことからその心境に変化が訪れる読み切り作品だ。

小学生からの幼馴染「貴友」は、世界各地を気ままに旅する、絵に描いたような自由人。何の連絡もなく祐樹のもとに訪れたかと思えば「今度はちょっと長い旅になりそうでさ」と、桜の盆栽を預かってほしいと頼んできた。

半ば押し付けられるように残された盆栽は、祐樹にとって未知の世界。とにかく預かりものを枯らさないよう、盆栽クラブでアドバイスを受けることにする。

クラブの親切な老人たちから助言をもらううち、盆栽の調子もよくなり一安心の祐樹。けれど、趣味としてすすめられても「盆栽はヒマ人がやるもんだよな…」と、未だ興味は持てなかった。その時ふと、日本を留守にすることの多い貴友が、なぜ日々の手入れが欠かせない盆栽を持っていたのかと、祐樹は疑問を抱く。

数日後、高校の同窓会に参加した祐樹。話題が同窓会を欠席していた貴友の話になり、祐樹は元クラスメイトから耳を疑う事実を聞かされる。「つい先日亡くなったんだよ」と。

預けられた桜の盆栽が、幼馴染の形見となった祐樹。余命いくばくもないあの時、自身に鉢植えを預けてきた意味を受け止めきれないまま、祐樹は盆栽クラブに足を運ぶ――、というストーリーだ。

■Twitter広告や映画予告を参考に作った「4枚」

誰しもが多かれ少なかれ身に覚えがあるだろう、代わり映えしない日々への鬱屈。そんな毎日が、盆栽というささやかなきっかけと、そこに託された友人の願いで見え方が変わっていく姿を描いた感動作。表情が死んでいた主人公が、友人の墓前ですがすがしい笑顔を見せるラストには心を動かされる。

作者の斉藤ロジョコさんは、コミックエッセイ『今日は家メシ!』をはじめ、日本酒のWEBメディア「わん酒」の漫画連載「にほん酒学園!」や、一ノ蔵の特設サイトにて紹介漫画「一ノ蔵無鑑査物語 善さんが行く」を手がけるなど、プロのイラストレーターとして広く活動している。そんな斉藤さんに、クニエ漫画グランプリに応募したきっかけや、本編制作中の舞台裏について話を聞いた。

――グランプリ受賞おめでとうございます。まずは受賞のご感想をお聞かせください。

「ありがとうございます。内容が地味なので漫画としてどうなのか…とドキドキしていましたが、まさかのグランプリでビックリしました」

――今回のグランプリに応募しようとしたのはどんなきっかけからでしたか?

「元々は『コミチ』で募集していた別の賞に応募しようと思っていたのですが、そこで『クニエ漫画グランプリ』のことを知り興味をもちました」

――「画像4枚」での審査ということで工夫したりチャレンジした点を教えてください。

「Twitterでも“画像4枚広告”はよく流れてきて自分自身もクリックするので、あおり文などをどうやって入れるのか参考にさせてもらいました。内容は映画の予告などを参考にして構成しました。この時点で漫画の内容やエピソードを細かく考えてなかったため、“ヒキ”と“あおり”は結構頭を悩ませました……」

――ノミネート時に公開された4枚は、原稿としてかなり仕上がったイメージを受けました。

「完成原稿的な画像にしたのは、見てくださる方への分かりやすさを考えてでした。ラフでも上手に伝わる作家さんは沢山いらっしゃると思うのですが、自分はそこまでの技量がないので……」

――6つのテーマの中からは「共感」を選んで制作された作品です。本作のアイデアはどんなところから生まれてきましたか?

「物語はフィクションなのですが、桜の盆栽、主人公の考え方、とあるセリフなど自分が経験したり人から聞いたりした内容で、ずっと頭の中にあったものが集まってできた話でもあります。その辺りが『共感』とマッチングするのではないかと思い選びました」

――幼馴染との突然の別れ、その喪失を埋めるように残された盆栽へ向き合う姿が印象的です。本作はどんなことを思って制作された作品でしょうか。

「『生きるとはなにか?』という問いを物語のテーマにして構成していきました。夢を再燃させてもう一度頑張ろう!という展開ではなく、自分なりの幸せを見つけてポジティブに生きていけると、人生まんざらでもないよねという思いを込めて描きました」

――盆栽がキーアイテムになるのも新鮮に感じました。

「実は盆栽に関しては全く知識がなくて1次審査に通ったときに『大変だ!』と本やネットや動画でめちゃくちゃ勉強しました…。面白かったですがここが一番大変だったかもしれません。

取材では東京・上野の『上野グリーンクラブ』にうかがい、お話を聞いたり、許可を得て資料写真も撮らせていただいたり、充実した盆栽の作画ができたかなと思います。頑張って描いたので愛でていただけるとうれしいです」

――ノミネート後、プロの編集者と本編制作を進められたとうかがっています。制作中、特に印象に残っていることはなんですか?

「自分だけで漫画を作っていくと、たとえば私の場合はセリフ回しが長くなってしまったりと、描いている最中は自分では気づけない“ムダな部分”がどうしても出てきてしまいます。

それを俯瞰的視点で分かりやすく適切なアドバイスをくださる編集さんは『プロだなぁ…』と何度も思いました。しかも私の意図もしっかりくみ取ってくださった上でのアドバイスで『デキる…!』と唸りました。初ネームから100%以上の仕上がりになったのは編集さんのおかげです。

担当してくださった編集さんは“ほめて伸ばす”タイプの方のようで、いただく言葉も非常に温かく、やる気が出ました。親身になって漫画をともに作ってもらえるのは力強いことだなあ……、と実感しました」

――作品の応募時からの変化や、原稿を仕上げる中で特に力を注いだ点はありますか?

「描きたかったことは、応募時からぶれずに仕上げることができました。原稿で特に力を注いだポイントは、22から24ページにかけて、主人公が貴友の死を知ってからのリアクションです。元々このシーンはなかったのですが、編集さんのアドバイスで追加されたものです。その際主人公は泣かせない、と決めていたので『主人公を泣かせず、読んでいる人を泣かす』にはどうすりゃ良いか……とめっちゃ悩みました」

――最後に、これからの抱負をお聞かせください。

「ここずっと、ネガティブな雰囲気が日本全体に漂っていると感じます。特にコロナ禍は良い話を全く聞かなかった印象があって。元々自分も『不安』で右往左往してしまうタイプなのですが『これは良くない』とふと思ったんですよね。  

漫画を描くにあたって“ポジティブ”な結末にしよう、というのが今後の目標です。読んでくださった方にも『楽しかった』『ワクワクした』など、明るい印象を与えられるような作品を作って行けたらなあと思います」

取材協力:斉藤ロジョコ / クニエ

旧友に押し付けられた桜の盆栽。ささいなきっかけで変化する日常を描く感動短編/斉藤ロジョコ(@rojyoko)