組織変革が始まって混乱期に入ると、現場からさまざまな声が上がり始めます。それに対して「うるさい」と圧力をかけると、組織変革はつぶれます。経営者たちが抱える「組織変革」の悩みを組織改革コンサルタントの森田満昭氏が解説します。

現場からさまざまな声が上がり始める

■社内変革が始まると起こること

単なる人の集まりがビジョンを共有することで、それぞれ機能を発揮していくのが組織です。組織が発展・成長するには段階があります。

まず形成期は「これをやろう」と組織内の人々が合意してスタートしますが、なかなかパフォーマンスは上がりません。次に混乱期では、組織が混乱してパフォーマンスが落ちます。そして機能期に入ると徐々にリーダーシップが発揮されて、人の集まりはチームになっていきます。

組織変革が始まって混乱期に入ると、現場からさまざまな声が上がり始めます。

というのも、今までは「会社がこうだから仕方ない」「社長がああ言うから仕方ない」「我慢して、嫌ならやめるしかない」と諦め黙っていた人たちが、「いい会社をつくりたい」と気持ちを入れ替えると、「こうしてください」「なぜこれはこうなっているんですか」などと口を開くようになるからです。

社長対幹部、幹部対一般社員というヒエラルキーと、同じ構造で対立が始まります。それに対して「うるさい」と圧力をかけると、組織変革はつぶれます。

混乱期の初めのうちは社員の質問や要望には「なるほど、すごいな」という意見もないことはないのですが、考え方も未熟で経営の構造も分かっていないのでたいてい幼稚なことが多いのです。よくあるのが「今期は売上が上がっているので、みんなの給料を2倍にしてください」という要望です。もちろん、そのような要望はのめるわけがありません。

しかしそこで「おまえはあほか」と却下するのではなく、丁寧に説明をする必要があります。そのような訴えが出てくるのはそれまで経営的な説明を社員にしてこなかった結果ですので、「俺が今までちゃんと教えていなかったからだ」と受け止めるべきでしょう。

社員の給料を2倍にするというのは極端だとしても、現場マネージャーから「アルバイトの時給を上げてください」という話はどこの会社でも上がっています。経営者や役職者、幹部は説明責任がありますが、だいたい「会社の方針で決まったから」で済ませるか、「俺はもっと上げてやりたいんだけど、経理部長がだめだっていうんだよ」と人のせいにするかが多くなります。

しかし、そのような態度では「おまえはなんのための幹部で、俺たち社員の上にいるんだよ」と思われ、部下からの信頼をなくしかねません。中小企業であれば、部長クラスがアルバイトの時給決定を交渉できる立場にいます。それを他人事にして部下のやる気を削ぎ、「アルバイトを集められないのは現場マネージャーのせいだ」と言うのは筋が違います。

給料に関してはなぜその額になったのか、なぜ上がらないのか、背景をきちんと説明する責任があります。そして部下に対しては自分が責任をもつという、経営幹部の意識変化が必要になるのです。

対話で議論と意思決定の質が向上する

■チーム内での質の高い対話

日々の問題解決には、時間の制約などで十分な議論が尽くせずに意思決定するときもあるでしょう。ビジネスの現場では悠長なことを言っていられないというのも実態だと思います。とはいえ、関係者の理解度や納得度が低い意思決定は、実行されないことが多いのも事実です。誰もが納得していない意思決定を繰り返すことに意味はありません。

その場で結論を出すことを目的としない対話(ダイアログ)は、一見非効率でむだな作業に見えるのですが、対話をしていることで議論と意思決定の質を高めることができます。

組織変革を進めていくうえでも対話会が不可欠です。実際に社内で開催してもらうことが多いのですが、「どうすればもっと会社が良くなるか」というテーマで話し合うと、いかに今がだめなのかを延々と語る場合が少なくありません。

その場合、話の方向を修正するために「もっと前向きな話をしよう」と提案するのも悪くありませんが、「私たち、今日はなにを話したいと思っていたのかな」と問いかけるほうが、集まりの趣旨や目的を思い起こさせる効果は高くなります。

さらに、「あいさつをしよう」「コミュニケーションを取ろう」「部門間の関係性を見直そう」などのアイデアがいくつも出てきます。その場合、「でもこれっていつも言っていることだよね? みんながそう思っているのに、どうしてできていないんだろう?」という問いは、さらに話を深めて本質に目を向けさせる効果があります。

創造的で質の高い対話に必要な要素は4つです。

1.聞くレベル 2.話すレベル 3.問いの質 4.場の心理的安全性

創造的な対話は重要ですが、どれほどの効果があるのかは体験してみないと分からない世界です。それぞれのレベルを高めるにはトレーニングが必要になります。トレーニングをすればかならず質は高まるので、社員教育の一つとして各人の対話能力の向上に力を入れることは意味があります。各種の対話会を開催したり、コーチング研修や1on1ミーティングの導入研修などを検討してみたりするのもいいと思います。

対話会には具体的にいうと、ダイアログ、ワールドカフェ、OST(オープン・スペース・テクノロジー)の3つのやり方があります。

ダイアログは、心理的に安全な場で、お互いを傾聴しながら話し合う創造的な対話です。

ワールドカフェは飲み物と菓子を用意して、カフェのように落ちついた場でBGMを流しながら行うダイアログです。普段の会議とは違った雰囲気になるので、本音が出やすくなります。30分から1時間程度の対話を、全部で3ラウンド行います。

参加者は4、5人ずつに分かれてテーブルに座り、2ラウンド目は一人を残してほかのテーブルに移動し、別のテーブルから集まったメンバーと対話をします。3ラウンド目は最初のテーブルに戻って、ほかのテーブルのメンバーから聞いた話を共有しながら対話を深めていきます。

人数が多い場合、すべてのテーブルの話を聞くことはできませんが、不思議なことにみんなの悩みや意見が頭に入ってきて、あたかも全員と情報共有をした気分になるのです。時間に余裕があれば最後に1分ずつ、各テーブルでどのようなことが話し合われたかを全体に共有してもらうと、参加者全員の共感力がさらに高まります。

心理的安全性のある場で話し合うことは「みんなも同じように悩んでいるんだ」「みんな良くなりたいと思っているんだ」と理解することにとても役立ち、思考の質の向上に直結します。

対話会は自発的に集まったほうが充実する

ワールドカフェは情報共有と共感を重視します。

テーマはその組織が今話し合ったほうがいいと思う課題から、問いをデザインするといいです。限られた時間内で共感力を高めていくには、組織課題の本質的なものを取り上げたほうが望ましいからです。

「私たちはどんな会社であって欲しいと思っているのだろうか」「この課題を解決するのに、私たちが最初に取り組むのはなんだろうか」「私たちは十年後、どんな働き方をしていたいと思っているのだろうか」といった抽象的、未来に目を向けるようなテーマや各人の「良くしたい」という思いを喚起する問いをポジティブな疑問文に設計します。

「業務のレベルが低い」を主題として話し合いたいのであれば、「われわれはどのレベルで仕事をしたいと思っているのだろうか」といったことをテーマにします。そうすると放っておいても、「やはり顧客に喜んでもらわないとだめだ」という方向に話が進みます。

なお、ワールドカフェでは、無理に結論を出さなくてもよいです。結論を出そうとすると、誰に責任があるのかなど、追及する空気になりやすいからです。

OSTは、テーマも自分たちで決めます。最初に「責任と情熱をもって、あなたが話し合いたいテーマを一つ書いてください」と伝えたのち、各自で書いたテーマをホワイトボードに貼ってもらいます。テーマをながめて、誰がどこへ参加するのか、市場で買い物しているように全員でわいわいと決めていきます。

テーマが決まればテーブルに分かれて話し合います。OSTには自由移動の原則があるので、そのテーマに関心がもてなかったり、話し合いに貢献できないと思ったりしたらいつでもほかのテーマのテーブルに移動できますので、テーブルに集まっているのは、そのテーマについて情熱と関心、責任をもって話し合いたい人だけです。

全員が前向きなので話し合いは非常に気持ちよく、楽しいものになります。また「普段の会議にはなぜこの楽しさがないんだろう」ということに気づくきっかけにもなります。

■対話会はガス抜きではない

対話会は自由参加です。人を集めたいからといって、「各部署から最低3人出席」などと強制しないことが大切です。「楽しいことをやっているから、よかったら来てね」というスタンスを貫くのです。軌道に乗るまでに時間は少々かかりますが、自発的に集まってきたほうが、対話会は充実します。

対話会を行う場合は担当者が必要になります。そこで、キーパーソンに連絡係や議事録などの役割をお願いするのです。キーパーソンを単なる事務方にしておくのは動きやすくするためです。

というのも、リーダーをつくるとどうしてもヒエラルキーが発生し、社員は「リーダー、次はなにをすればいいですか」という他人まかせの思考になってしまいます。キーパーソンはあくまでも担当者であり、「俺は一人でできないから、みんな頼むね」というスタンスでいます。チームの共感力が高まると、社員のなかから「私も手伝っていいですか」と、新たなキーパーソンが現れることもあります。

このような対話会を通じて、社員たちに心理的安全性と質の高い対話とはなにかを、身をもって感じてもらいます。立場や忖度などを脇に置くと対話の気持ちよさを感じられるので自己開示が始まります。「実は私ね」という発言に「俺も本当はそう思っていたんだよ」と応じる人が現れ、普段はできないような会話になります。

批判する人は誰もおらず、「対話って大事だな」「あいさつもしたほうがいいね」「コミュニケーションはこうやって取るんだ」ということを分かってもらえます。対話会は一面ではそういったトレーニングなのです。幹部や経営者が入ってくるのも大歓迎ですが、ルールとして、役職や立場は全部脇に置いて参加してもらいます。

これが本当のコミュニケーションだという声が出始めたらその対話会はうまくいっています。対話会を重ねることで、トゲトゲとしていた社員間の空気が和気あいあいとして部門間の連携度も向上していきます。

森田 満昭

株式会社ミライズ創研 代表取締役

(※写真はイメージです/PIXTA)