急いで融資を受けたいのに審査に時間がかかって、なかなか融資を受けられないという経験はありませんか? 「そんなに審査することがあるのか」と疑問に思うものですが、銀行はわざとゆっくり手続きを進めているわけではありません。メガバンクに32年勤務し、独立後は融資・補助金に強い専門家として資金調達支援を行う川居宗則氏が、融資審査における銀行の裏側を詳しく解説します。
なぜ融資の審査には何ヵ月もかかるのか
私は今、銀行員時代の知識と経験を活かして経営コンサルタントをしています。自治体や商工会議所などに呼ばれて企業経営者向けの金融・経営セミナーを多く開いていますが、「なぜ融資はあんなに時間がかかるんですか」と聞かれることがあります。
一般の人からは銀行の内側が見えないので、何をそんなに審査することがあるのかと疑問に思われるのも分からなくはありません。確かに新規の会社が融資を受ける場合、最短で2ヵ月、長いと3ヵ月以上かかります。急ぎの融資を受けたいとき何ヵ月も待つのはもどかしいものです。
しかし、銀行はわざとノロノロと手続きを進めているわけではありません。行内で定められた正当なフローを踏んでいくと、どうしてもそれくらいかかってしまうのです。
銀行の窓口で融資を申し込んでから融資の判定を経て実行されるまで、どのような流れで手続きが進んでいくのかをステップを追って解説していきます。
銀行の種類ごとに性質や得意分野は違う
まず銀行(金融機関)とひと口にいっても、いくつかの種類があり、それぞれに特徴があります。
・政府系金融機関(日本政策金融公庫、沖縄振興開発金融公庫、商工組合中央金庫)・地方銀行
日本政策金融公庫(沖縄だけは沖縄振興開発金融公庫)は国の政策のもと、民間金融機関を補完する金融機関です。中小企業・小規模事業者や農林水産業者などの資金調達を担っています。国の金融政策が最も反映されやすいので、新型コロナウイルスの緊急融資では中心的な役割を果たしました。
商工組合中央金庫(商工中金)は各都道府県に拠点をもつ中小企業専門の金融機関です。昭和初期に度重なる恐慌の影響から中小企業を守るためにつくられた経緯があり、今でも中小企業・小規模事業者の味方として頼れる存在です。
一般的な民間銀行が株式会社であるのに対して、信用金庫や信用組合は会員や組合員の出資でつくられた非営利法人です。つまり、民間銀行は株主の利益が優先されますが、信用金庫や信用組合では地域の利益が優先される点が大きく違います。
都市銀行は東京・大阪など大都市に本店を構え、全国規模で銀行業務を行う金融機関です。取引先は大企業・中堅企業が多く、中小企業・小規模事業者にはハードルが高くなりがちです。とはいえ最近は財務内容だけでなく事業性を評価する流れになってきているため、事業性の評価が高くて融資するケースも増えています。
地方銀行(地銀)は地方都市に本店を置き、地域に密着した銀行業務を行います。取引先は地域の中小企業・小規模事業者が中心です。
これらの金融機関のなかから自社に合ったところを選んで融資の相談をします。最初は中小企業に優しいところ、地元企業に優しいところを優先的に選ぶことになります。
民間銀行の融資審査4つのステップ
銀行融資の審査には大きく4つのステップがあります。民間銀行ではメガバンクでも地銀でも融資審査のフローは基本的に変わりません。
①窓口での面談②書類提出と申し込み
③行内での審査
④融資の実行
では順番に見ていきます。
ステップ1:窓口での面談
新規で銀行と取引を始める場合は最初のステップとして法人口座の開設があります。銀行側はこの会社と取引を始めるかどうかの審査をするのにおおよそ1~2週間を要します。審査が通らなければその銀行とは縁がなかったということです。その場合は銀行はほかにもあるので別の銀行にアプローチします。
以前から取引のある銀行で2回目以降の融資を受ける場合は、すでに口座はあり事業内容なども銀行側は把握しているので、担当者と融資に向けた具体的な面談からのスタートになります。
初めての融資では面談時に何を聞かれるのか、ちゃんと答えられるか心配だと思います。担当者は主に次の内容について質問しますので、あらかじめ答えることをまとめておくと安心です。
・創業や事業の動機・事業の具体的な内容
・事業計画や資金繰り計画の現実性
・融資が必要な理由と期待できる効果
・事業がうまくいかなかった場合の対策
・自己資金はどのくらい用意できているのか
担当者が知りたいのは「何をしている会社なのか」「どんな理念や経営方針で事業を行っているのか」「なんのために融資が必要なのか」です。詳しい事業内容やビジョン、社長の事業に対するこだわりや熱意などは決算書などの書類では分かりません。そういう定性的な部分を知るために担当者は質問をしているのです。
どれも基本的な質問で「融資のために答えを準備する」というよりは、「日頃からやっていること、考えていることを分かりやすく伝える」ことが大事です。よそゆきの言葉を並べるよりも本音で話すほうが担当者には伝わりやすくなります。
ステップ2:書類提出と申し込み
新規の場合は「決算書一式」を3期分提出します。2回目以降の申し込みは毎年決算書を渡しているはずなので最新のものだけで構いません。
決算書というと一般的には貸借対照表、損益計算書を指しますが、融資申し込みの際は「決算書一式」が求められます。法人税の確定申告をする際に作る書類のことで「販売及び一般管理費の明細」や「勘定科目内訳明細書」など附属明細書を含めた一式です。
決算書作成を依頼している税理士に「銀行融資に必要な書類一式が欲しい」と言えば出してくれるはずです。
決算書以外に必要な書類としては次のものがあります。
・借入申込書(会社や経営者の情報、希望する金額、希望する返済期間や方法、資金の使い道など)・履歴事項全部証明書
・印鑑登録証明書
・事業計画書
・資金使途資料
・月次決算表(月次試算表)
・銀行取引一覧表
・納税証明書
銀行や融資内容によっては必要でない書類や融資が決まってから必要になる書類もあるので担当者に尋ね、求めに応じて提出しても構いません。例えば、融資の内容によっては事業性評価シート(決算書では分からない会社の特性を知るための資料)が必要になる場合もあるのです。
ちなみに社長が会社の連帯保証人になる際は別途書類が必要です。しかし近年は個人保証や担保を取らない融資をするよう国が指針を示し、その方向に少しずつ変わってきました。
個人保証や担保は事業承継をする際に後継者の負担になってしまうので、できるだけ個人保証なし担保なしの融資を受けられるように、書類を磨き上げるなどして努力すべきです。
民間銀行の融資審査4つのステップ
ステップ3:行内での審査
融資のステップのなかでいちばん時間のかかるところです。行内でどのように稟議が回っていくかというと、融資額や会社の信用格付によって2パターンあります。
信用格付とは銀行が融資を行うか否か判断する際の基準のことです。財務分析(財政状況や資金繰り、収益力など)から返済能力を判断して正常先、要注意先、破綻懸念先といった区分を行います。区分は銀行によって少しずつ基準が違っており、それぞれ数も違います。
「格付の内容が良い」「支店権限内の融資額」というケースでは「融資担当者→融資担当課長→副支店長→支店長」という順番に稟議書が回っていきます。担当者が作成した稟議書を融資担当課長がチェックしOKなら副支店長に上げ、副支店長のチェックもクリアすれば最終的に融資するか・しないかを決裁する支店長にいく流れです。
それぞれの段階で稟議書が詳しく吟味されるので時間がかかるのです。スムーズにいっても融資担当課長のチェックだけで1~2週間、毎日10件以上の稟議ファイルが融資担当者から来るのでそれくらいはかかります。
もし稟議書に情報の不足や不明点があれば担当者に「差し戻し」となり修正および再提出をしなければなりません。その分、多くの時間がかかってしまいます。
次に「格付の内容が悪い」「支店権限内の融資額を超えている」「担保が不足している」「支店の権限以上に金利を優遇したい」というケースでは支店長の権限では決められません。本店の融資部や審査部に決裁を仰がなければならず、チェックに関わる人も多くなるのでさらに審査に時間がかかります。
稟議の流れとしては「融資担当者→融資担当課長→副支店長→支店長→審査部担当者→審査部上席→審査部長」となります。審査部から支店に稟議書の差し戻しが来る場合もあって、支店決裁のケース以上に稟議を通すのに骨が折れます。
ステップ4:融資の実行
融資の審査期間は銀行ごと・案件ごとに違いますが、おおむね次の日数が目安になります。
・新規事業者への融資……2ヵ月~3ヵ月程度(口座開設から始める場合はさらに2週間)・既存事業者が復元資金を借りる場合……数営業日~2週間
・既存事業者が新規の融資を受ける場合……1ヵ月~2ヵ月
融資審査を終えて決裁が出たら、融資がOKでもダメでも担当者から結果の連絡が来ます。融資ができる場合は契約を交わし(先日付でも可)、その契約日に借入金が振り込まれます。
融資が通らなかった場合は、ダメだった理由を担当者に説明してもらうことが大事です。理由が分からないと次の銀行にチャレンジするにしても対策を練ることができないからです。
川居 宗則
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