大阪・なんばを拠点に活動する「NMB48」。かわいいだけでなくお笑いもこなす親しみやすいアイドルグループとして、2023年には結成13年目を迎え、メンバーたちはバラエティタレントにモデル、グラビアアイドルなど、あらゆるジャンルの前線で活躍している。

【写真】渡辺美優紀が着用した『恋愛被害届け』の衣装。デザイン時間はなんと10分!

そんなメンバーの個性を彩ってきたのが、オリジナルの衣装たち。この記事では、その多種多様な形や色、制作の裏話をご紹介!NMB48の衣装デザインからスタイリングまでを担当する松永麻里さんにたっぷりとこだわりを語ってもらう。

月替わりで登場する案内人は、TikTokで「NMB48衣装図鑑」と称して衣装の細部や着脱方法を紹介しているれいこちゃん(前田令子)、将来は“自分のブランドを持つ”という夢を持ち、メンバーの衣装作りも経験したことがあるかれんたん(原かれん)の2人。一体どんな製作エピソードが飛び出すのか?第3回は、かれんたんが案内人を担当する。

■まさかの10分!史上最速で考えられた『恋愛被害届け』の衣装

まずは、松永さんによる衣装紹介!最初に話を聞くのは、6thシングル『北川謙二』のType-Bに収録された『恋愛被害届け』のMV衣装。

みるきー(渡辺美優紀)がセンターを務めた紅組による『恋愛被害届け』は、ストーリー仕立てになったMVが印象的。「12人全員が違う役柄のストーリー衣装を集めている最中、『最後に全員おそろいで踊る衣装もほしい』という話になり、作らせていただいたものです。4日後にMV撮影が迫っていて、これが10年やってきたなかでも最短でした。通常だと、最速でも1日はデザインを考えてから生地を選びに行きますが、この時は『次の日には生地や資材をすべてそろえて工場さんに入れないと本当に間に合わない!』となったので、デザインを10分でその場で考えました。それからすぐに大阪の生地屋さんを回って探し、肩ストラップとウエスト部分に使われている、黒いシースルー生地にベロア素材がミックスされたデザイン性のある生地をなんとか見つけることができました。もしこれがシンプルな黒い生地だったら凹凸のない地味な衣装になっていたから、見つけた時はめちゃくちゃテンションが上がりましたね。これも、作っている時や選んでいる時の運ですね」

MVでは、スカートに重ねられたペプラムが揺れる姿が魅力。「ダンスの先生が、この衣装を見て振りを考えてくれました。ストライプのタイツも、メンバーから『脚がきれいに、スタイルもよく見えるから好き』って言ってもらえています。このタイツがないと、この衣装が成立しないんです」

「紅白組で初めて1人2ポーズ用意させてもらった楽曲衣装だったので、ストーリー衣装の日常的な雰囲気からパッと変わる姿をイメージしました。ストーリー衣装は全員違う役柄で、学生、ウェイトレス、スーパーのレジ打ちやピザショップのアルバイトなど、基本的にみんな等身大に近い女の子たちの設定だったので、少し大人っぽい雰囲気にしました」

■組み合わせの多彩さに目が足りない!“赤白ドット”全体衣装

続いて、NMB48の結成10周年を記念して作られた全体衣装を解説!ここ数年のライブでもよく登場する全体衣装は、”赤白ドット”と呼ばれているそう。

「赤白ドットは、コロナ禍でなかなかライブができなかった時に、久しぶりに作らせていただいた全体衣装なんです。そんなに頻繁に作れるわけではないので、デザインのバリエーションはいろいろなパターンを考えました。上下それぞれ4型、さらにそれが2色ずつあります。ざっくり分けるとかわいい系、きれいめ系、クール系、モード系。全体衣装は最低でも3型、できれば4型以上は作りたいと思っています」

この衣装も、細部までさまざまなこだわりが潜んでいる。「ボトムスのペプラム部分はPVC素材でできているため、型崩れやほかの物とくっついて溶けたり色移りなどをしないように、別々に保管しています。ペプラムも4型のデザインがあり、スカートタイプはすべてスカパン仕様(スカートの内側にパンツが付いていて、一体化されている)です。さらにフレアースカートタイプ以外は、激しいダンスにも対応できるようにスリットが入っています。靴は全員おそろいのスニーカーで、踊りやすいのにインヒールが入っていてスタイルがよく見えるとメンバーからも好評です」

いつもかれんたんが着ている赤白ドット衣装は、上がビスチェのようになっているタイプ。「きれいめ系ですね。このデザインは、踊ると袖のフリルのシルエットがきれいに出るので、手足の長い子は特にきれいに着こなしてくれます。まさにかれんたんにぴったり!」

ちなみに、卒業したメンバーの衣装を別のメンバーが着ることもあるんだとか。「みるちゃん(白間美瑠)はもともと赤の衣装でしたが、『自分(白間)の”白”もいい』と言って、あかりちゃん(吉田朱里)の卒業後はその衣装を着ていました。卒コンではその衣装の袖をアレンジして、スカートはとびっきりかわいく、新たに作りました。何重にもなっていて結構重いんですよ(笑)。れーちゃん(上西怜)は『かわいい系も着てみたい!』と言って、今は卒業したココナちゃん(梅山恋和)のトップス、はあさちゃん(南羽諒)のボトムスを着たりしています」

■松永さんも知らない、かれんたん流のタイツの着こなしとは?

ここからは、かれんたんによる松永さんへの質問&対談タイム。まずは『恋愛被害届け』の衣装について深掘り!

原「MVのお衣装は、歌詞や楽曲から考えているんですか?」

松永「最初に衣装イメージをいただく時もあれば、企画書と『何日後に撮ります』という情報だけで作り始めることもあります」

原「連載第1回で、『ヴァージニティー』の衣装をわずかな情報だけで作り始めたって読んで、びっくりしました!本当なんですね。『恋愛被害届け』も、曲と衣装が合っているじゃないですか」

松永「そうなんですよ、ダンスの先生が衣装の良さを引き出す振付をしてくださって。『奇跡がまた生まれた』って思って、とてもうれしかったですね」

原「メンバーからもファンの方からも人気のあるお衣装ですよね。紅組だから赤なんですか?」

松永「そこだけ決まっていたんです。この衣装、肩ストラップとウエスト部分の黒いレースがちょっと透けていて。シンプルだけどそれがポイントで華やかさを出してくれています。タイツはストライプ柄が曲がらないように履かないといけないから、メンバーはライブの時大変だよね。でもみんな、出遅れなく上手に履いてくれて助かります」

原「私は脚の骨がちょっと歪んでいるのが気になるから、逆にタイツをちょっと歪ませて微調整して履いていたんです。でも、脚がきれいに見えてありがたいなーって」

松永「そうなの!?脚がきれいだから全然わからなかった!」

原「ストライプのタイツ、個性的ですよね。こだわりがあったんですか?」

松永「みるきーが、フィッティングの時に衣装のバランスを見て『脚がきれいに見えるほうがいい』と。だから、靴に関してもいつも履いているような太めのヒールではなく、それまでになかったピンヒール寄りの少し細めのヒールにしました。スタイリング的には細めのヒールの方が脚線美が際立つけれど、正直ちょっと踊りづらいかなと心配だったので、撮影現場には代用の少し太めのヒールブーツも持って行ったんです。でも、みんな変更希望もなく踊ってくれて。当時、中高生メンバーもいたけど、みんなのプロ意識の高さに感動しましたね!今でも靴を差し替えることなく、現メンバーもしっかり踊ってくれていて本当にすばらしい!これからもぜひセットリストに入れていただきたいって、いつも思っています(笑)」

原「推しのお衣装ですね!」

松永「これ、3日間で作った衣装なんです。デザインはトップスのストラップ部分だけ2型で、あとはすべて同じデザイン。10分でデザインを描いて、そのまま生地屋さんを何軒も走り回って生地資材を探し、夜中に工場さんに持って行って、2日間で12着を超特急で作っていただきました…」

原「えー、無理!」

松永「かれんたんも衣装を作ったから、どれだけタイトかわかってくれるよね(笑)。だから振付もかわいくて、奇跡が生まれたことがすっごくうれしかったです」

原「今でも愛されてるお衣装ですよね。私も大好きです!」

松永「10分でデザイン、どうですか?(笑)」

原「無理です!(笑)」

松永「(笑)。でもかれんたんが作った『Time bomb』の衣装すごかったよね。本当にびっくりしました」

原「ありがとうございます。ライブのリハーサル期間だったんですけど、四六時中ずっとお衣装のことを考えていました。ただひたすらメンバーのお顔を想像して、曲を聞いてぐるぐるしていました(笑)」

松永「それに全員ちゃんとキャラクター分けができていて、すごくかわいかったですよね。全然協力もできなかったし『大丈夫かな?』って心配していたけど、自分でちゃんとやっていてすごかった。これからも続けたほうがいいと思う!」

原「えーっ!縫う作業はお願いします〜(笑)」

松永「そうだよね〜(笑)」

原「でもお衣装を作るのは楽しかったですし、達成感がありました。ファンの皆さんやメンバーからの反応もいただけて、私自身も『また作らせてもらえることがあったらな』って。後になって考えるとうれしくていい思い出ですね」

松永「フィッティングが終わってから、本番までにどれだけ装飾できるかの戦いじゃない?」

原「そうでした!完成していない状態で最初にメンバーに着てもらった時、トルソーに着せているのとは全然違うし、『ここからどうしよう』ってわくわくしてきましたね」

松永「そうだよね〜。私たちもギリギリまで装飾にはこだわっています。『ここに1つストーン、モチーフがあるだけで…』とか、『ここにちょっとブレードを叩くだけで…』とか、『ヘッドアクセサリー、イヤリングはやっぱりこうしよう…』とか、ちょっとした工夫で衣装の見え方も全然変わってくるから、衣装付きリハでチェックした後、さらに本番直前まで毎回バタバタです。でも、3度の飯より幸せですね!(笑)」

原「たしかに、すごく楽しかったです!」

松永「共感できてうれしいです。衣装部のスタッフと話してるみたい(笑)」

原「偉大なマリさんに褒めていただけて光栄です」

原「ところで、『恋愛被害届け』のMVってドラマ仕立てになってますけど、最後犯人がわからないじゃないですか」

松永「えっ!?わかんないですか?」

原「犯人のお靴だけ見えますよね」

松永「私が答えを言っちゃっていいんですか?(笑)」

原「衣装さんやから、あのお靴を履かせたメンバーを知ってるなと思って。せっかくなら犯人を聞いちゃおうと思って」

松永「えっと、あの靴の持ち主は…(犯人の名前)ですね!」

原「やっぱりそうなんですね!やっと真犯人がわかりました」

松永「いろいろな考察があるから、やっぱり言っちゃダメだね(笑)。“想像にお任せします”にしておきましょう」

原「私は教えてもらいました。うれしー!」

かれんたんが赤白ドット衣装の由来を熱弁!

続いて、10周年を記念して作られた赤白ドットの全体衣装の話題へ。

原「このお衣装といえば、赤色と白色で分かれているじゃないですか。その理由を、実は知っていまして。当時、最後の1期生さん(実際に10年目を迎えたのは1期生のみ)だったお2人が、吉田朱里さんと白間美瑠さんで、お名前に赤(朱)と白が入っているから、だそうです!」

松永「すばらしい!そのとおりです!」

原「やったー!それは前から考えていたんですか?」

松永「それはたまたまでしたね。10周年にまさか“赤白”の1期生がいると思わないじゃないですか(笑)。ただ、10周年という1つの大きな区切りで、お祝いの意味も込めて、10周年にはどうしてもこの2色を使った全体衣装を作りたいとは前から思っていて。だから、それまでの全体衣装には赤白(紅白)を使わないようにしていました。そのタイミングで“白”間と“朱”里がいたのは本当に奇跡ですね(笑)」

原「あえて使っていなかったんですね。知らなかったです」

松永「“10周年”ってやっぱりすごいことで感慨深かったですね。でもね、前にかれんたんにフィッティングでその話をしたあとに、井尻晏菜ちゃんがフィッティングをして。その時に同じことを聞かれて答えたら、『なるほど!私は、明日のアカリンさんの卒業コンサートのタイトルが“さよならピンクさよならアイドル”だからかと思いました。赤と白を混ぜたらピンクになるじゃないですか」って言われたの。そんな素敵な発想があったのか!って感動して、それからはその発想もこのエピソードに組み込ませてもらおうかなと思っています(笑)」

原「そんなこともあったんですね!このお衣装、私は赤色だったじゃないですか。メンバーによって色を選ぶ基準があるんですか?」

松永「全体のバランスもあるけど、『もしシングルの裏で紅組・白組をやっていた時代だったら、この子ならどっちに入っていたかな』というのを想定しています。白は爽やかでカッコイイ、紅は小悪魔っぽいかわいい感じでしたよね。ちなみにこじりん(小嶋花梨)は白組イメージだけど、派生ユニットが赤担当だから、あえて赤にしてみました(笑)」

原「そこで分けていたのは知りませんでした!」

松永「でも、かれんたんも『自分は紅だろうな』って思ったよね?(笑)」

原「はい。思っちゃいました(笑)。この衣装はお靴がスニーカーだったり、メッシュ素材を使っていたりとスポーティな要素が多いですが、そこも意識したんですか?」

松永「(拍手)素晴らしいところに気付いてくれました。キュートななかにも、キレキレのダンスパフォーマンスをするNMBのスポーティな感じも出したくて。ストレッチも効いていて、踊りやすいと思います」

原「ビニールも使われていて。この素材、なんて呼んだらいいんですか?」

松永「PVCですね。ここはハリを出したくて、PVCのなかでも柔らかいものじゃなくて厚みがある素材を使いました」

原「私、スカートの上に着るPVCのこれ、“シートベルト”って呼んでるんです。着ける時にカチッて鳴る音が良くて。1番最後にカチッて着ると、気合が入るんです!お着替えする時に上からかぶって、“レインコート”って呼んでるメンバーもいます。これってなんてお名前なんですか?」

松永「ペプラムです!」

原「ペプラム、好きです、私。気合が入るシートベルトです!カチッとするのが好きです」

松永「そんなふうに言っていただいたの、初めてです(笑)。今後も考えてみます!」

ここからは、松永さんとかれんたんにさらにインタビュー。

――かれんたんは赤白ドット衣装の由来も知っていましたが、お2人はよく話すんですか?

原「新しいお衣装をいただく時にはマリさんも来てくださっているので、すぐに感想を伝えたくなって話しに行きます!」

松永「作り(パターンから作る衣装)じゃなくて買い集め(既製品、またはそれをアレンジ加工する衣装)の時もちゃんと感想を言ってくれるし、すごくうれしいんです。かれんたんの衣装で個人的にお気に入りなのが、『恋と愛のその間には』のMVで着ているカラフル衣装。豹柄×真っ赤なタイトロングスカートに深めのスリット、さらには赤の大きい網目のタイツ。本当にバランスがとれていて、衣装がとっても喜んでるように見えました!(笑)。これからも、メンバーそれぞれの良さを生かした衣装を作っていきたいなと思いますね」

原「いつもメンバーの好きな色とか形、デザインを把握してくださっているのに、愛を感じます。それぞれ自分のなかで苦手なパーツや隠したいところもあるけど、それも全部わかってくださっていて」

松永「私たちは、着用するメンバーがより輝くするためにサポートするのが役目だから、彼女たちのテンションを上げてステージに送り出さなくちゃいけないと思っています。『メンバーが自信を持ってステージに立てるように』。この仕事を始めた時、オサレカンパニーの茅野さんにとても大切なことを教わりました。なので、ひと言だけでも感想をもらえるのはすごくうれしい。私だけじゃなくて現場のスタッフも喜んで、『メンバーがこう言ってくれてました』って共有してくれるから、『じゃあ次はこうしよう』ってなったりして。だから、普段からたくさんコミュニケーションをとっていけたらなと思います」

――赤白ドット衣装で、かれんたんがお気に入りの部分はどこですか?

原「やっぱり、カチッてするベルトです(笑)」

松永「じゃあ、これはもう『シートベルト衣装』って名前にしましょうか(笑)」

原「“気合のシートベルト衣装”です!それから、私はファンの方に手先を褒めていただけることが多いんですが、このお衣装を着ていたら『袖がフリフリしているから、どこにいてもかれんたんを見つけやすい』とか、『手がトレードマークやから手元にレースを付けてもらえるのがうれしい』ってファンの方も言ってくださってて、そこもお気に入りです」

松永「かれんたん、本当にこのお袖が似合うんですよ。だから次のアルバム表題曲『Done』の衣装もそういうお袖にしました」

気になる話が飛び出したところで、今回はここまで。衣装作りを経験したからこその着眼点も見せてくれたかれんたんは、これからますます松永さんや衣装との距離が縮まりそう。次回も引き続き、かれんたんが案内人を担当。最後に話題に上がった、5年ぶりとなる4thアルバム『NMB13』のリード曲『Done』の衣装を紹介する。なんとスペシャルゲストも!?お楽しみに!

取材・文=上田芽依

撮影=福羅広幸

【松永麻里 プロフィール】

東京生まれ。1995年に大妻女子大学短期大学部家政学科卒業。

奇抜な衣装とメイクでパフォーマンスユニットとして活動後、2010年12月よりNMB48の衣装を担当。現在は吉田朱里など、卒業したメンバーのスタイリングも行っている。

原かれんが『恋愛被害届け』&『赤白ドット衣装』の秘密に迫る!