インフレにより物価高が続くなか、資産の目減りを防ぎ、その価値が上昇しやすい「不動産」への投資に注目が集まっています。なかでも、比較的少額から始められる「ワンルームマンション投資」は初心者でも始めやすいと人気ですが、都心部でのマンション経営はそう簡単ではありません。本記事では、マンション投資を始めた世帯年収1,100万円のパワーカップルの事例とともに、1級FPの川淵ゆかり氏がリスクを軽んじて投資を始めることへの危険性について解説します。

将来のために不動産投資を始めた30代夫婦

33歳のAさんの年収は約650万円の会社員、31歳の妻は年収が約450万円の会社員で、両親を早くに亡くしたAさんは、この両親が残した郊外の一軒家に夫婦2人で暮らしています。「子どもができたら家を直そうか」と話し合っていたため、いまのところは住まいにかかる費用もなく、週末デートを楽しむなど夫婦2人で優雅な生活を送っていました。

そんな2人は「いまは余裕があるけど、子どもができたらお金がかかるよね」と将来についてたびたび話し合っており、家の大規模リフォームや子どもの進学資金などの金額について考えていました。

「いまのうちからなにか長期にできる投資を始めたほうがいいのではないか?」と思っていたAさんは、「サラリーマンが成功する不動産投資戦略」といったセミナーがあることをネットで見つけ、参加してみることにしました。 

セミナーには、Aさんと同年代の人だけではなく、幅広い年代の人達が参加していました。そのため、セミナー講師は自身の成功例だけでなく、年代別に購入対象の不動産や節税効果などもわかりやすく説明してくれたため、Aさんは安心感を持ちました。

セミナー講師が行った、Aさんのような若い人向けの不動産投資の説明は次のとおりです。

20代〜30代の年代は、今後、結婚・出産・住まいの購入、教育資金など出費が増えていくライフイベントも多くあるため、無理に大きな金額の不動産投資はやめたほうがいいでしょう。

万が一の失敗も考え、少額ですむ「ワンルームマンション」の投資をおすすめします。ワンルームは一人暮らしや単身赴任のサラリーマンにも人気ですし、毎月継続的な収入を見込むことができますよ。

購入資金はフル(全額)ローンで準備することも可能なケースもありますし、返済は家賃収入から賄うことができます。オーナーとしての仕事はすべて賃貸管理会社に任せることもできますので、手がかかることもありません。

ローンの支払いが終わったあとは、そのまま貸し続ければ家賃収入は老後の生活費となりますし、売却すればまとまった資金作りにもなります。さらに、オーナーに万が一のことがあっても団体信用生命保険でローンは0(ゼロ)になりますから、ご家族にはマンションと家賃収入を遺せます。

Aさんは、セミナー講師の説明に納得を覚え、帰宅後夫婦で話し合って、ワンルームマンションから不動産投資をスタートさせることにしました。 

「成功したらどんどん投資額を大きくしていって、そうしたら早期リタイアも夢じゃないね」

目指せ、悠々自適!ワンルームマンション投資計画 

賃貸でやはり怖いのは空き室になってしまうことです。空き室率を抑えるため、セミナー講師のアドバイスに従い、Aさんは都心部の新築マンションを選びました。一人暮らしのサラリーマンを想定し、駅に近い25㎡で約4,000万円の物件を探し出し、毎月12万円で貸し出すことにしました。

実質利回りは、(家賃収入-管理会社手数料)÷ 物件価格 で求めることができ(セミナーで講師が説明)、Aさんの場合は、約3.3%となり、妻とも「まぁまぁいいね」と納得できるものでした。

Aさんは、ほかに借り入れもなかったので、フルローンで購入することも可能でしたが、毎月の受取額も増えるため、1,000万円を頭金とし、残り3,000万円をローンで購入することに決めました。3,000万円の住宅ローンの返済計画は次のとおりです。

借入額:3,000万円 変動金利型(ボーナス返済なし)35年ローン 

毎月返済額:約85,000円 (総返済額:約3500万円) 

Aさんは、ローンや経費を支払っても毎月約25,000円を受け取れる計算になります。

あれ?こんなはずでは…まさかの赤字マンション経営

Aさんの所有した部屋はすぐに入居が決まり、当初から順調に家賃収入を得ることができました。しかし、初年度から困ったことが発生します。固定資産税が結構な負担になることです。Aさんのマンションの場所は、都心のいい場所なので、固定資産税もそれなりの額になります。

そして、マンション投資から3年目に新型コロナウィルスが発生します。Aさんのワンルームに住んでいたサラリーマンは、勤め先が新型コロナの影響で収入が減ってしまった、との理由で退去してしまったのです。すぐにほかの入居者を探しましたが、すでに新築から3年が経過しており、10万円を超える家賃を払ってくれる入居者もなかなか見つからず、Aさんは家賃を下げざるを得なくなってしまいました。

おいおい、まだ3年目だよ。住宅ローンもあと32年も残っているよ。物件も慎重に選んだはずなのに……。やっぱり新型コロナのせいかなぁ……」

「近頃のニュースでは変動金利型ローンの金利はもう上がらないだろう、と思い込んでしまい、よく考えずに変動金利型でローンを組んでしまいました。ニュースで住宅ローンの金利の話題もよく聞くようになり、これ以上の負担だと赤字になってしまいます」

思い切った投資であるため「やはり投資の失敗は投資で返上しなくては」という思いもあり、あとには引けなくなってしまいました。Aさんは頭を抱えています。

新型コロナだけのせいじゃない…マンション投資はやはり難易度が高い

Aさんは将来のためにワンルームマンション経営を始めたようですが、かなり苦戦しているようです。マンション経営には大きなコストがかかります。賃貸管理会社への費用、固定資産税、修繕積立金のほか、入退去時のクリーニングに原状回復や宣伝費用も必要です。修繕積立金も修繕工事のときに不足すればまとまった支払いが請求されることもあります。Aさんのように途中での家賃の改定も当たり前ですから、収支の予測は難しいものがあります。

さらにローン完了後の家賃収入での生活を夢見る人も多いようですが、35年も経ってしまったお部屋だと大規模な修繕が必要で、専有部にまとまった資金をかける必要が出てきます。

また、ローンを利用してマンション経営を始めると、ローンには利息もかかりますから、本来はこの利息の分も含めてリターンを計算しないといけません。Aさんは3,000万円を借りましたが、これには500万円以上の利息の支払いが発生します。なお、4,000万円フルローンで借りた場合の利息は700万円以上となってしまいます。

都心部でもなかなか難しいマンション投資。人口減少が進む日本では、都心部以外や地方となるとさらに難しくなってきます。

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表

(※写真はイメージです/PIXTA)