大麻を所持していたとして、大麻取締法違反の疑いで2021年8月に逮捕・起訴され、保釈中の男性に異例の海外渡航許可がおりていたことが、2023年1月24日の6回目の公判でわかった。渡航先は、大麻の非犯罪化に踏み切ったタイ。男性は11月下旬から約10日間、滞在した。前橋地方裁判所(橋本健裁判長)が11月、許可を出していた。

男性は、陶芸家として活動する大藪龍二郎氏。大麻は「悪」なのか?なぜ、持っていただけで、もっとも厳しい制裁である「刑罰」を科されなければならないのか?などと問いかけ、法廷をざわつかせた刑事裁判の被告人だ。

裁判で、大藪氏は、海外渡航許可を出した裁判長への感謝のことばを述べ、大麻と共存するタイで見た光景について語った。

●「法の執行に関わる人たちは、今すぐタイに研修へ」

被告人質問がおこなわれたこの日は、今季「最強」の寒波が到来していたにもかかわらず、関東近郊から傍聴券を求める人たちが列を作った。

大藪さんがタイに渡航していたのは、大規模な国際展示会で、日本の精麻をテーマにした作品を展示するためだ。「おかげさまで、世界各地から訪れた多くの方々に作品を鑑賞していただき、交流を深める事ができた」と述べた後、タイの様子について、次のように語った。

「乾燥大麻や大麻草そのものを薬草として販売するお店が至るところに点在し、町は活気に溢れていました。たとえ高級ホテルであっても、喫煙が許された場所であれば、大人はタバコと同様に大麻を吸うことができた」

タイでは、2019年に医療大麻が合法化され、2022年6月には、精神作用があるとされる大麻成分THC(テトラヒドロカンナビノール)が0.2%以下であるなどの要件をみたした大麻の非犯罪化に踏み切っている。

タイ政府は大麻政策の転換はあくまで健康や医療目的のためで、嗜好用大麻が解禁されたわけではないとしている。しかし、大藪氏によると、大麻製品が売られている店の中には、喫煙室が設置されているところもあり、「購入した製品をすぐに楽しむことができるようになっていた」「特に目立った問題は一度も見かけられなかった」という。

「『全然問題ないじゃないか』『法の執行に関わるすべての人たちは、今すぐタイに研修に行き、この現状をみるべきだ』と感じました」

●裁判所の判断は「異例ずくめ」

刑事裁判で保釈された場合、被告人に対しては、さまざまな条件が加えられることになる。一般的には、3日以上または海外への旅行をするときは、事前に裁判所の許可を得なければならないとされている。大藪氏もこの条件にしたがって、旅行許可申請を出していた。

最高裁判所は、直近10年間の海外旅行許可の申請件数と許可数について「統計をとっておらず、数字は把握していない」と回答した。しかし、弁護人によると、保釈中の被告人に対して、海外渡航許可がおりるのは「異例」のことだという。

これまで数多くの大麻取締法違反事件を手がけてきた主任弁護人の丸井英弘弁護士は「許可がおりたのは、48年間の弁護士生活で初めて」と語る。同じく弁護人をつとめる石塚伸一弁護士や、裁判に協力している園田寿弁護士も「聞いたことがない」という。

異例の判断はこれだけではない。大藪氏は、2021年10月、水上周裁判長(当時)宛に陶芸家としての略歴や活動のテーマとしている「縄文と大麻草と狼との関係性」、大麻草に関心を持った理由などを記載した報告書を提出していた。橋本裁判長は、検察側の異議申し立てを退け、この報告書を「証拠」として採用した。

大藪氏は「まさか採用されるとは思わなかった」と驚きの表情をみせた。

●「健康維持のための大麻」と主張

この日、弁護側は、大麻取締法の制定過程とその違憲性について述べたほか、違法な職務質問や現行犯逮捕によって収集された証拠もまた違法であると「無罪」を主張した。大藪氏自身も、あらためて検察側に「大麻とは何か」などの問いを投げかけた。

「大麻取締法のどの項目に違反し、どれほどの罪を犯したのか? 23日間の勾留を受けたうえで、さらに刑罰を受けるほどの罪を犯したのであれば、せめてその罪を具体的に説明してほしいのです。結果的に、いずれも何一つ明確になっておりませんので、引き続き罪状認否を保留するしかありません。早急に釈明をしていただきたい」

検察側に、今回の事件について「なぜ、(大麻を)入手しようとしたのか」と聞かれた大藪氏は「健康維持のため。パニック障害がある」と切り返した。「異例」続きとなる裁判の7回目は、3月22日に前橋地裁でおこなわれる予定だ。

大麻事件の被告人、保釈中にタイへ渡航 「合法化の国で、法執行に関わる人は研修すべき」