賃上げのニュースが連日報道されていますが、蚊帳の外だと思っていたパートやアルバイトにも、その流れは届く勢い。そんななか、素直に賃上げを喜べない、専業主婦の姿がありました。みていきましょう。

賃上げされても年収が増えることはない…専業主婦の憂鬱

大手企業を中心にニュースになっていた賃上げは、実施されるか/されないかはさておき、中小企業や非正規社員へも広がりをみせています。焦点は物価高騰分以上の賃上げとなるかなどといわれていますが、働く側としては1円でも給与があがるのは嬉しいもの。たいていそう思っているものの、実は浮かない顔をしている人も。

――賃上げされても年収は変わらないから意味がない

そうウェブでコメントしているのは、パート勤めだという40代の主婦。どうもパートをしているスーパーでも賃金改定あり、時給が100円近くアップしたそう。仮に1日5時間、月15日働いていたとしたら、月収は7,500円増えるわけですから、本当であれば嬉しい限り。それにも関わらず「意味がない」と言い切るのは、いわゆる「年収の壁」のせい。

まず「年収の壁」の話をする前に、年金制度の確認をしておきましょう。日本の年金制度は、日本に住んでいる20歳以上60歳未満のすべての人が加入する「国民年金(基礎年金)」と、会社員や公務員などが加入する「厚生年金」の2階建てが基本。

20歳以降の働き方によって、加入する年金や保険料が変わり、自営業者や学生、無職であれば「第1号被保険者」となり、加入するのは国民年金のみ。会社員や公務員は「第2号被保険者」で、国民年金厚生年金に加入。専業主婦(夫)などは「第3号被保険者」で加入するのは国民年金のみとなります。ただし自ら保険料を納める必要はなく、その費用は第3号被保険者の配偶者が加入する厚生年金から拠出されます。

そして「年収の壁」は大きく「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」の2つの点で大きな壁が存在します。

まず「税法上の扶養」。細かな説明は省きますが、妻(夫)の収入が103万円以下であれば、夫(妻)は最大で年間38万円の「配偶者控除」を受けることができます。年収が103万円を超えると「配偶者特別控除」の適用範囲となりますが、103万〜150万円は配偶者控除と同額の控除を受けられます。150万円を超えると配偶者特別控除の額は徐々に減少し、年収201万円が上限となります。

次に「社会保障上の扶養」。健康保険法で定められた要件に合致するためには、妻(夫)の収入は130万円以内であることが求められます。また2020年の年金制度改正法により、「①企業規模が500人超(ただし令和6年まで段階的に引き下げ)」「②賃金が月額88,000円以上」「③労働時間が週20時間以上」「④勤務期間が2ヵ月超」「⑤学生は除外」の条件を満たす場合、社会保険料の負担が発生することになりました。

「103万円の壁」「106万円の壁」「130万円の壁」「150万円の壁」「201万円の壁」、さらに地域によって異なりますが、年収100万円を超えると住民税が発生することが多いことから「100万円の壁」という6つの「年収の壁」があり、専業主婦(夫)はこれらの壁を意識しながら働くことになります。

6つの「年収の壁」…超えるとどうなる?

これらの「年収の壁」、少しでも超えるとどうなるのでしょうか。整理してみましょう。

●「100万円の壁」を超えると、住民税が発生します。

●「103万円の壁」を超えると、所得税が発生します。

●「106万円の壁」を超えると、一定条件で社会保険料が発生し、社会保険に加入する場合、125万円前後で世帯収入はプラスになります。

●「130万円の壁」を超えると、所得税社会保険料により、150万円以上を目指さないと、収入減となります。

●「150万円の壁」を超えると、夫(妻)は配偶者控除を受けられなくなり、収入170万円以上で世帯収入はプラスになります。

●「201万円の壁」を超えると、夫は配偶者特別控除を受けられなくなります。

たとえば「130万円の壁」を超えると、年収170万円以上を目指さないと世帯年収は減ってしまい、「家計の足しになればとパートをしていたのに……」という事態に。

もちろんこれは簡易的なもので、厳密には微妙に異なる部分もあります。問題は賃上げとなっても、この年収の壁を意識しなければならず、労働時間を大幅に増やすか、労働時間を減らすという対応が求められる点にあります。

この年収の壁の議論。最低賃金の引き上げのたびに話題になっては、特に対策が講じられることはありませんでした。大幅な物価高で生活が厳しくなるなか、賃上げを心から喜ぶためにも、早急な議論が求められています。

(※写真はイメージです/PIXTA)