子どもがなにか事件を起こしたときなどに論争を巻き起こす「テレビゲームは子どもにとって良いモノか、悪いモノか」という議論。はたして、いつ終止符が打たれるのでしょうか……。今回、東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進小児科医が、国内外の論文をもとに、ゲームが子どもに与える影響を検証していきます。

「正しく使えば」ゲームは子どもの知育に良い影響を与える

厚生労働省の「令和3年度21世紀出生児縦断調査(平成22年出生児)」では、小学生が登校日にコンピュータゲームをする割合はおよそ5人に4人(78.8%)でした。また、「学年が上がるにつれてゲーム時間が長い」との報告もみられます。そのため、ゲームによる子どもへの影響を心配する保護者も多いでしょう。

結論から言うと、ゲームは「正しく使えば」子どもに良い影響を与える可能性が高いです。

2022年の発表されたアメリカで5,374人を対象にした2年間の追跡調査では、9歳~10歳の知能と11歳~12歳の時の知能を比較したところ、9〜10歳時に平均より長くゲームをプレイしていた子どもは、2年後の測定でIQが平均より約2.5ポイント高くなっていました(男女とも)。

ちなみに、テレビや動画の視聴もわずかにIQ向上と関連がありましたが、親の教育レベルを考慮するとこの関連は薄いため、ゲームだけが知能レベルに関係していると考えられます。

さらに、ゲームをする9歳~10歳での脳機能を「fMRI(ファンクショナルMRI)」という、脳の活動を調べる特殊な装置で解析したところ、視覚能力や注意力、記憶作業力などが活性化することがわかっています。

ミシガン州での12歳を対象とした研究でも、普段テレビゲームをしている子は、そうでない子と比べて想像力が高いと報告しています。この論文では、「現代のゲームでの複雑なストーリー設定は、子どもの問題解決能力を高めて、ゲーム以外の場面で応用することで創造力を高める助けになっているのではないか」としています。

また、よく言われるのが「ゲームをすると暴力的になる」というものですが、東京大学での発表でも「ゲームが攻撃性に与える影響は短期的であった」という指摘もあり、「ゲームによって暴力性が高まる」とは一概に言えなさそうです。

このように、ゲームは正しく使えば子どものさまざまな脳機能を活性化する有用なツールとなりうるといえそうです。

使い方を誤ると…ゲームのリスク

前述したさまざまなメリットは、ゲームを「正しく」使った場合に限られます。使い方を誤ると、ゲームは子どもに悪影響をおよぼす可能性があります。

一番大きい影響として考えられるのは「ゲームに時間をとられること」でしょう。6歳〜9歳の男の子を対象にゲームを購入した子と購入していない子に分けて学業成績を比較したところ。購入した子の成績のほうが下がったという報告があります。

同論文では、ゲームを購入した子の方がゲームに時間をとられて、ゲーム以外の宿題や読書などの時間がなくなっていたことが原因ではないかと結論付けています。

また、米国小児科学会(AAP)は6歳未満の子どもに対して、TVやYouTubeなどの動画を含めた、いわゆる「スクリーンタイム」を厳格に制限すること推奨しています。一方で、それよりも年齢が高い子どものスクリーンタイムに関しては明記をしていません。それはいくつかの研究において、「有害性」と「有益性」の双方が示されていて、統一した見解が得られていないためです。

しかし、スクリーンタイムによって運動や睡眠に影響がおよぶ状況は避けるべきであり、毎日1時間以上の運動と適切な睡眠(年齢に応じて8~12時間の睡眠)を確保することを明記しています。

ゲームは比較的簡単に達成感を得ることのできる娯楽です。できそうでできないミッションをクリアできれば、大きな幸福感や爽快感を生み出します。子どもがこんなものを簡単に手放せるわけはありません。

ゲームそのものは脳にとって悪いものではありません。しかし、子どもは時間の使い方を十分熟知しているとはいえません。ゲームを適切に使って良い影響を与えられるように、親と子どもが一緒にゲームとの付き合い方について考えていくとよいですね。

秋谷 進

東京西徳洲会病院小児医療センター

小児科医

(※写真はイメージです/PIXTA)