動物と暮らしていると、ついつい反応が可愛くていたずらをしてしまうことがあります。
例えば、おやつをギリギリまで口に近づけて、食べにきたらわざと落とすなんていうことをしたことはないでしょうか?
しかし、何度かそういったいたずらをしていると、逆に悪気なくおやつを落としてしまったとき、怒らせてしまうのではと不安になります。
ただし、もしあなたが飼っている動物がイヌなら、その「いじわる」と「うっかり」を見分けることができているかもしれません。
ウィーン大学のクリストフ・ J・ フォルター氏らが上記のような行動を実験として行ったところ、イヌは人間が思っている以上に人間の内面を見透かしていることが明らかになったのです。
研究の詳細は、2023年1月25日付で科学雑誌『Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences』に掲載されています。
目次
- イヌは人間の「いじわる」と「うっかり」を判定できる
- 他者の精神状態を認識できる「心の理論」
イヌは人間の「いじわる」と「うっかり」を判定できる
フォルター氏らが行った実験は「人間がイヌにエサを与えようとして失敗する」というシナリオで行われました。
イヌと人間の間は穴の空いた透明なアクリル板で仕切られていて、人間はアクリル板に空いた穴からイヌにエサを与えようとします。
結果として両者ともイヌにエサは届かないのですが、エサの受け渡しは下記の1、2のような異なる態度で行います。
- 穴にエサを近づけ見せびらかすようにしたあと、イヌが届かない位置までひっこめる
- 穴にエサを近づけ、ぎりぎりの位置で落としてしまい、慌てて拾う
つまり、1は「故意にいじわるをしている」シチュエーションであり、2は「うっかり失敗してしまった」シチュエーションです。
これをそれぞれ何度も繰り返し、イヌの動きを観察したところ、1と2では全く違った態度をとりました。
イヌは人間が「いじわる」でエサを与えないのか、「うっかり」エサを与えられなかったのか判断することができたのです。
イヌは「うっかり」の人間のみ待ってくれる
前述の通り、1と2は何度も繰り返し行われましたが、イヌは1の「いじわる」でエサを与えない人間からはすぐに立ち去ってしまいました。
一方、2の「うっかり」エサを与えられない人間に対しては、1よりもずっと長い間座ってエサを待った他、立ち上がったあとも人間を心配するようにアクリル板に顔を寄せて歩き回っていました。
この実験は48匹のイヌに対して行われましたが、イヌの待ち時間の平均は1よりも2の方が有意に長いという結果になっています。
イヌが「いじわる」な人間に対しエサを待つことを早々に諦めたのは、その人間の内面に「最初からエサを与える気がない」ことを見たからに他ならないでしょう。
対して、2の人間に対しては「エサを与えようとがんばっている」ように思えたのかもしれません。
イヌは人間の内面を推測し、その結果を行動として反映させたのです。
こういった「他人の気持ちを想像する」行為は人間ではよく見られますが、動物では珍しいことです。
イヌの他にも動物がこのような行為を行うことはあるのでしょうか?
他者の精神状態を認識できる「心の理論」
先ほどの実験では、イヌが「わざといじわるをしているのかな?それとも偶然?」と相手の気持ちを想像していました。
このような相手の気持ちを推し量る能力は「心の理論」と言われるもので、人間でも身に着けることができるのは幼児期以降と言われています。
しかし実は人間やイヌ以外にも「心の理論」を身に着けている動物がいます。
「心の理論」を持つ動物
「心の理論」を持つ動物としてまず挙げられるのは人間と近い類人猿です。
チンパンジーは困っている人間の写真に対し、正しい解決法の写真を選ぶことができると言います。
これは、チンパンジーが写真に写っている人間の気持ちを正しく理解できている可能性を示しています。
また、オウムの仲間であるヨウムにも「心の理論」を持つことが示唆される逸話があります。
有名な天才ヨウムであるアレックスは、数を答える問題を得意としていましたが、飽きてくるとわざと間違えることがありました。
これはアレックスが人間の内面にある「正解を答えてほしい」という思いを汲み取っていないとできない行動です。
このように、一般的に頭が良いと言われる様々な動物が相手の内面を推し量る「心の理論」を持っています。
イヌも高度な頭脳を持つことで知られる動物ですので「心の理論」を持ち合わせているのは不思議なことではありません。
イヌは人間の内面も見ている
イヌは頭がいいだけではなく、人間の内面を推し量る力もあります。
動物だから伝わらないだろうという気持ちで、いい加減な接し方をしていたら、イヌにも伝わる可能性が十分にあるのです。
しかしそれは逆に言えば「人間がイヌを喜ばせたいという気持ちを持ちながら接しているなら不器用でもちゃんと伝わる」という喜ばしいことでもあります。
人間同士のように言葉での弁解はできないだけに、常に誠実な姿勢でイヌと向き合っていきたいものですね。
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