令和の現在、夫婦の3組に1組は離婚する。残る3分の2の多くも、大なり小なり問題や悩みを抱えている。ネットニュースやSNSでリアルな夫婦像に触れる機会が増え、我が身を振り返る人も少なくないだろう。2022年9月に新著『妻が怖くて仕方ない』(ポプラ社)を上梓したジャーナリストの富岡悠希氏が「日本の夫婦の今」を明らかにする本連載。前回に引き続き、潜入ルポした既婚者たちのネットでの出会いを報告する。

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(富岡 悠希:ジャーナリスト)

 冬本番を前にした2022年12月上旬の正午過ぎ、僕は都内の個室居酒屋でマイさん(仮名)と向き合っていた。ショートカットで快活に話す様子からは、確かに40歳前のエネルギーを感じる。38歳と教えられた年齢は、恐らくサバを読んでいない。

 彼女も出会い系サイトに登録し、男性と会っている既婚女性の1人だ。ランチ会のためお酒の力は借りられなかったが、マイさんが出会いを求めている理由を聞いてみた。僕の聞き方は、かなりおずおずとしていたようだ。

「そんなに遠慮しながらじゃなくていいですよ。風俗通いがバレた夫に愛想が尽きただけですから。アハハハ」
 
 彼女は夫の「風俗浮気」を、受けを取る「鉄板ネタ」にしていた。その詳細に触れる前に、時計の針を1週間ほど前に戻したい。

結婚当初は十分に幸せを感じていたが

 マイさんと僕は、既婚者も登録できる出会い系サイトでマッチングした。年齢は僕の方が10歳近く上だが、食べ物の話で盛り上がる。都内でアクセスが便利な場所も、共通していた。

 看護師の彼女は2歳の息子がいるため、病院で働くのを平日週3日にセーブしていた。僕も時間には融通がきく。

「平日ランチに行きましょうか」と声をかけると、「お魚系の美味しいところだと嬉しいです」。ネットサーチをして、お刺身の盛り合わせが評判の良いお店を提示してみた。するとマイさんも乗り気になり、ランチ会に至った。

 僕はこの出会い系サイトを約2カ月利用し、3人の女性と会っている。もちろん取材のためだ。マイさん以外の2人とは2、3週間ほどメッセージのやり取りをしてから対面した。一方、1カ月以上、あれこれやり取りしても会えない女性もいた。

 1週間のやり取りで対面できたマイさんは、最短だ。彼女が男性と積極的に会っている理由も、この後説明していく。

 5歳年下の夫とは、「私から大好きになって結婚した」というマイさん。そのため結婚当初は、彼女は十分に幸せを感じていた。

 ところが、いわゆる「妊活」中に事態が暗転する。夫が2回も風俗に通っていたことが発覚した。

夫のスマホに手書きカードの写真が2枚

 マイさんは当時、自分のスマホを持っていなかった。ちょっとした調べ物や飲食店の予約をする際は、夫からスマホを借りていた。

 とある日、いつものように断りを入れて、夫のスマホを手にした。ふと保存されていた写真を見た時、我が目を疑うような2枚があった。

「今日はすごかったね」。写っていたのは、こんな手書き文字が書かれた営業カードだった。店名からピンときて検索する。悪い予感は的中した。風俗店だった。

 マイさんは、ここまで説明すると、一段声のトーンを上げた。

「バカですよね、わざわざ写真を撮って浮気の証拠を残すなんて、うちの旦那って。あんなカードの何が大切なんですかね」

 夫を大好きになって結婚した反動が一挙に出たようだ。マイさんは、この一件で「いっきに彼への感情が冷めました」。

 しかし、離婚という選択はしなかった。夫の相手をした女性は、どこの誰とも分からない。さらに仕事でやっているだけなのに、まともにその女性に嫉妬するのは馬鹿らしかった。さらに35歳を超えての妊活中で、離婚、再婚を選ぶと出産が遠くなるとも考えた。

離婚の原因の2位が「異性関係」

 マイさんはこうした考えから思いとどまっているが、やはり浮気は離婚原因になっている。拙著『妻が怖くて仕方ない』でも引用した、法務省が出している『協議離婚に関する実態調査』(2021年3月)を参照しよう。

「協議離婚」とは夫婦で話し合いをして離婚に合意し、「離婚届」を役所に提出して別れたケースを指す。離婚手続きで、最もメジャーな方法だ。

 実態調査の対象は、未成年の子を持っていた状態で協議離婚を経験した30〜40代。男女500人ずつ合計1000人にアンケートを取っているが、元夫婦を追っているわけではない。離婚後も子どもの面倒を見ている「監護親」と、そうではない「非監護親」が500人ずつの半々だ。

 問11が「あなたが離婚した原因(夫婦関係が破綻した原因)に近いものをすべて選んでください」(複数回答可)。

 ダントツのトップが「性格の不一致」で636件。2位が「異性関係」で238件、3位が「精神的な暴力」で210件。以後、4位「親族との折り合い」175件、5位「性的不調和」150件と続く。

 2位の「異性関係」とは、要は未遂、既遂を含む浮気のことだと捉えられる。マイさんが協議離婚をすれば、この項目を選ぶことになるが、彼女はそうしなかった。

マイさんが離婚しない理由

 子どもを産んだ後は、「父親を奪いたくない」との思いも芽生えた。さらに看護師の資格があるとはいえ、「幼児を抱えている間はさほど働けず、稼げない」。

 結婚生活は続けているが、気持ちをなくした夫と暮らすのはストレスがたまる。さらに育児は、ほぼワンオペだ。その上、今の住まいには数年前に一家で引っ越してきたため、地域の友人も少なく寂しさが募る。

 約1年前、マイさんは最初の浮気をした。相手は、ネット上で知り合った同い年。彼は子どもを持つのが早く、彼女の育児の悩みに寄り添ってくれた。

「私がどんな愚痴を言っても、『そうなんだね』『大変だね』と聞いてくれるのが嬉しかった」

 彼との時間は楽しかったが、土日休みの彼と仕事のない平日しか自分の時間を作れないマイさんとは、なかなか会えなかった。

 月1回すらも無理なことから彼とは自然に別れたが、むしろ寂しさが増した。

 22年11月、次の男性と出会うべく、サイトに登録した。マイさんは積極モードのため、気になった相手とはハードルを下げて会っていた。

「非日常」を味わえるだけでも楽しい

「メッセージのやり取りでは、その男性が本当に合うかどうかは分からない。だったら、さっさとリアルでお目にかかったが方が早い」

 彼女が僕とすぐにランチに行くことにしたのも、こうした理由からだった。

「その男性が彼氏候補にならなくても、少なくとも美味しいご飯は食べられる。普段は節約しているし、こうした『非日常』を味わえるだけでも楽しい」

 マイさんは、こうした息抜きをしていけば、結婚生活を続けていけるのだろうか。

 厚生労働省は22年7月、21年の平均寿命を発表している。それによると、男性は81.47歳で、女性は87.57歳だ。

 38歳のマイさんは、これから半世紀ほど生きていくことになる。お互いが健康ならば、5歳年下の夫との時間は、相当に長い。

 二度と会うことはない気安さから、思い切って彼女に聞いてみた。

「離婚が今じゃないのだけは確か」

「まだ40歳前だし、これから先長いよね。嫌いになった夫とやっていけそう?」

 この手の話をたくさんしてきたのだろうか。彼女は悩むことなく答えた。

「たぶん無理だろうけど、離婚が今じゃないのだけは確か。その時になったら分かると思う」

 そして続けた。「旦那と違って、私の浮気はバレない。だから自分でその時を決められる」

 確かに彼女ならば、夫婦関係の主導権を握っていけそうだ。僕よりもずっと若いマイさんだが、精神年齢としたたかさは僕よりも遥かに上だった。

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