最愛の恋人の葬儀を終えた青年。自宅でうなだれるしかできない彼の前に現れたのは、喪ったばかりの恋人の「幽霊」だった――。

【漫画】「幽霊失格」(作:松おうき)を読む

松おうき(@GR3END4Y)さんの創作漫画「幽霊失格」は、WEB漫画賞「クニエ漫画グランプリ2022」でクニエ特別賞を受賞した作品。プロの漫画家を目指し活動する松おうきさんに、受賞への思いや本作の制作背景についてインタビューした。

■「成仏させて」幽霊になっても変わらず夢を応援する恋人との日々

クニエ漫画グランプリ2022では、同グランプリを主催するコンサルティングファームの株式会社クニエが、同社の企業理念を象徴する「貢献」「熱意」「誠意」「志」「共感」「仲間」の6つのテーマで「続きが読みたくなる画像4枚」を募集。本作は「誠意」をテーマにノミネートされ、最終審査に残った6作品の中から本編が制作され、クニエ特別賞を受賞した。

彼女の葬儀を終えたばかりの青年「とも」。仕事をしばらく休むことにした彼を「企画班に戻れぇ!」と一喝したのは、亡くなったはずの恋人「ゆい」だった。

ゆいは、ともが以前から語っていた「日本一の遊園地を作る」という夢と、今担当しているアトラクションの企画がその夢に近づく大きなチャンスであることを知っていた。そんな彼の夢を応援するため、ゆいは幽霊として舞い戻ってきたのだ。

時間が経ちすぎると自我のない地縛霊になってしまうと話すゆいは、ともの夢を見届けることで「ちゃんと成仏させてほしいの」とつぶやく。

そんな恋人からの励ましにともは再起し、自身が担当するお化け屋敷の企画に、幽霊のゆいとともに向き合っていく。だが、葬儀の折、しばらく仕事を休むと伝えていたため、会社に復帰しても企画班に彼の席はなかった。なんとか企画班に戻ろうと模索するともを見て、ゆいは幽霊ならではの一計を案じる――、というストーリーだ。

■「普通じゃないかも」を狙った冒頭4ページ

ネガティブなイメージの強い「幽霊」でありながら、生前と変わらず恋人の夢を応援するヒロインのゆい。そんな前向きな姿が描かれているからこそ、ラストシーンの別れが胸に響く一作だ。

漫画家育成を支援する「トキワ荘プロジェクト」に参加する作者の松おうきさんは、これまでも講談社MGP(マガジングランプリ)で奨励賞を複数回受賞するなど、自らも漫画家の夢に向かい活動中。そんな松さんに、制作上のこだわりや漫画を描く思いを訊いた。

――クニエ特別賞受賞おめでとうございます。まずは受賞のご感想をお聞かせください。

「『絶対獲れないな』とも『確実に受賞できたな』とも思っていなかったので、受賞を知っても『お、獲ったのか』としばらく実感が湧かなかったですね。でも、応募した時は自分自身のその後の展開がどうなるのかは考えていなくて、応募した4ページの続きがどうなるのか気になっていた一人なので嬉しかったです」

――今回のクニエ漫画グランプリに応募しようとしたのはどんなきっかけからでしたか?

「たしか、友人に紹介されて知ったと思います。パッと思いついた冒頭数ページを気軽に応募できるという敷居の低さに引かれました。ネームの段階でもいいと記載されていたので、原稿の息抜きにと、軽い気持ちで応募しました」

――「画像4枚」の一次審査では、冒頭の4ページで応募されたんですね。工夫したポイントはありますか?

「4ページで印象に残るように、意味深なセリフを残して展開を気にさせたり、インパクトのあるキャラを出して『普通じゃないかもな』と思わせたりするようにしました」

――幽霊の彼女のイキイキした姿と、それゆえにさびしさの残る結末がぐっとくる作品です。本作のアイデアについて教えてください。

「3年前くらいに、イマジナリーフレンドを題材に漫画を描いたことがあり、それに今挑戦したらどんな漫画が描けるのかなという興味本位から思いつきました。テーマに『誠意』を選んだのは、何か問題を抱えた他人や、抗えない現実を直接変えることはできなくても、姿勢で気持ちを表したり向き合うことで何か変えたりできるんじゃないか、という考えを表現したいと思い選びました」

――松さんが本作で特にこだわった部分、描きたかったものはどんなところですか?

「審査員の方からのアドバイスで『ヒロインはとにかく可愛く』とあったので、ゆいは可愛く描くよう努力しました。また、個人的にどんな状況でも前向きに考えることのできる人に魅力を感じるので、その辺りも意識して描きました」

――もともとの4ページから大幅に改稿されています。本編制作時はどういった方針で進めていかれましたか?

「当初は、主人公の男の子が幽霊に気づいた!というところを膨らませて描いていましたが、二人が一緒に問題を解決していく展開をたくさん見せた方がいいというアドバイスをいただいたので、テンポよく話が進むようにページの配分をはじめ、いろいろと変えていきました」

――最後に、漫画制作についてこれからの抱負をお聞かせください。

「ありがたいことに、僕には夢を応援してくれる素晴らしい人がたくさんいるので、その人たちの気持ちに応えられるように頑張ります。『漫画家になる』と自分で決めたので、全力で好きなものや伝えたいことを表現できるようになりたいです」

取材協力:松おうき / クニエ

亡くなったばかりの恋人が幽霊として現れた!生前と変わらず夢を応援する姿にジンとする感動短編/作:松おうき