日本のネット史上最大の事件とも言われるWinny事件。「天才」と呼ばれたプログラマー、金子勇さんが2004年、当時流行していたファイル共有ソフトWinny」(ウィニー)を開発したとして、著作権法違反幇助で逮捕され、警察や検察を相手に7年かけて法廷で戦い、無罪を勝ち取った事件だ。金子さんは無罪判決から2年を待たずにこの世を去った。

この事件をもとにした映画『Winny』(監督・脚本:松本優作)が3月10日から劇場公開される。映画の見どころの一つは、緊迫感のある法廷シーンだ。金子さんを支え、最高裁までともに戦った壇俊光弁護士役の俳優・三浦貴大さんの演技は迫真に迫る。

当時から、事件を見守ってきたという三浦さんは、壇弁護士をどう演じたのだろうか。Winny事件と映画への思いを聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●金子さんと壇弁護士の「関係」から役作り

<誰かがナイフで人を刺したら、ナイフを作った人の罪も問えるのか?>

映画は、Winnyの一部ユーザーが、映画などの違法アップロードをおこない、次々と摘発されるところから始まる。

三浦さん演じるサイバー犯罪にくわしい壇弁護士は「もし開発者が逮捕されたら弁護しますよ」と言う。ナイフを作った人の罪は問えないという、弁護士としての考えからだった。

ところが、警察は、開発者である金子さんを逮捕する。壇弁護士は弁護団を結成し、警察や検察と法廷で徹底的に戦う——。

この映画は、実際の事件をもとに描かれているが、三浦さんは実在する弁護士という難役に挑んだ。どのような役作りをしたのだろうか。

「実際の壇さんは弁も立ちますし、一つの事柄を徹底的に掘り下げていくタイプです。僕とは全然違うので、これは難しいぞ、と思いました(笑)。

この作品の中で大事なのは、壇さんがどういうふうに金子さんをとらえていたかということだと思います。

壇さんから金子さんの話を聞いていると、壇さんの表情や話し方、そういったものの節々に金子さんへの思いを感じました。まずは、金子さんと壇さんの関係性をつくっていきました」

映画で金子さんを演じるのは、俳優の東出昌大さんだ。体重を18キロ増量し、役にのぞんだ。その姿は、三浦さんの役作りにも影響を与えたという。

「生前の金子さんにお会いしたことはありませんが、東出くんを見ていたら、金子さんはこういう人だったんじゃないかなと思えました。東出くんとの芝居の中で、自然に金子さんと壇さんの関係性がつくっていけたんじゃないかと思っています」

●「事件を多角的に見るきっかけに」

映画では、弁護団と警察・検察との激しい攻防が展開される。

「今の言葉、胸を張って言えますか? この国の未来の技術者、国民にこの逮捕、勾留は正しかったと言えますか? と聞いてるんです」

劇中、検察に真正面から問いただす三浦さん演じる壇弁護士の姿は、観る人の心に響く。

特に際立つのが、法廷シーン。弁護士による尋問や、ちょっとした仕草まで徹底してリアルに描かれている。その舞台裏はどうなっていたのだろうか。

「模擬裁判をやりました。たとえば、弁護士が、机の上にどんなふうに資料を置くとか。壇さんからは『そんなことしない』と、厳しく指導されながらつくっていきました(笑)」

なお、作中で三浦さんがかけているメガネは、壇弁護士が実際に使用していたものだという。そんなところにも、こだわりがある作品だ。

映画では、金子さんが不当逮捕されてから7年、最高裁で無罪判決を得るまで描かれているが、できるだけ多くの人に見てほしいと三浦さんはいう。

Winny事件については、僕もインターネットが好きで当時は『2ちゃんねる』も見ていましたから、金子さんが逮捕されたときは驚きました。でも、その後の報道はあまり聞かなくて、金子さんが容疑者だったときのイメージが強く残っている人は多いと思います。

でも、何が正しくて、何が間違っているのか、そういうことを言いたいわけではなくて、一つの事件を多角的に見ることができるような、そういうきっかけにこの映画がなればいいなと思っています」

もしも、金子さんが生きていたら、この映画をどう見てどう思っただろうか。

「わかりませんが、一番最初に『やめてくださいよ』って言いそうですね(笑)」

「天才」金子勇の無罪を勝ち取った弁護士をどう演じた? 映画「Winny」で主演・三浦貴大さん