月賦百貨店として1951年に創立し、その後、1980年に業態転換をして、クレジットカード会社に生まれ変わったクレディセゾンが今、また業務転換をしようとしている。その狙いを同社の存在意義とともに水野克己社長に聞いた(インタビュー・構成/林桃)

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お客さまのお困りごと解決が、当社のDNAであり、存在意義

――クレディセゾンの存在意義を、どのようにお考えでしょうか。

水野克己氏(以下敬称略) もともと当社は、緑屋という月賦百貨店として1951年に創立しました。その後、1980年に業態転換をして、クレジットカード会社に生まれ変わりましたが、今までさまざまな事業を行ってきました。

 かつては堤清二さんによってセゾングループが形成され、西武百貨店やPARCO、西友といった小売りの新しい業態を日本のマーケットに投入していきました。例えば、PARCOが「渋谷PARCO」のようなオリジナリティーのあるショッピングセンターを作るなど、独自の文化を生み出しました。そういった「消費者に向けて新しい価値を提供する」ことが、セゾングループ共通の価値観でした。それを集約したものが、堤さんの提唱していた生活総合産業です。

 企業というのは30年程度を区切りに変化していく必要があると思うのですが、当社がクレジットカード会社に業務転換をしてから既に40年がたちます。そこで、2022~2024年の中期経営計画を立てる際に第三の創業として打ち出したのが、総合生活サービスグループへの転換でした。消費者のお困りごとを解決していくことが、セゾングループから脈々と受け継がれてきた当社のDNAであり、存在意義だと思っています。

――そうしたビジョンのもとで、御社の強みをどのように生かしていこうと考えていらっしゃいますか。

水野 今やスマホ必須の時代となり、情報が氾濫していますよね。その中で当社は、消費者への価値提供をお客さま起点で考えることを大切にしています。顧客第一主義ともいえますが、そのためには金融サービスをコアとしたグループを形成していくことが有効だと考えました。

 今、ECや決済サービスにおいて、経済圏と呼ばれるビジネスモデルが増えています。お客さまにとって何がベストなソリューションかを考えたとき、「このブランドの傘の下に入ってください」と企業が囲い込むのではなく、お客さまの求めるものをわれわれがご用意してご提案する形であると。そのためには、他社の商品・サービスを求められれば提供するケースもあるでしょう。当社はこれまで、資本で縛るという方法で業務提携をしてきませんでした。そういう意味では、私たちが連携する緩やかな経済圏の中で、お客さまにとってのベストアンサーを探すお手伝いをできるのがわれわれの強みであると思います。

――お客さまの要望は、どのようにリサーチされるのですか。

水野 もともと私たちは、約3600万のクレジットカードの会員様を有しています。Webによるマーケティングも増えていますが、全国にあるセゾンカウンターやインフォメーションセンターといったリアルな拠点では、約2000人の社員がお客さまの生の声を聞ける体制が整っているのが他社さんと違うところですよね。効率化を求めるのであれば全てWebで完結させればいいのでしょうが、当社はお客さまの心情に寄り添うことを大切にしていますので、リアルとWebのミックスでサポートしています。

こちらから積極的に会いに行くのもクレディセゾンのDNA

――クレディセゾンの理念を実現させるために、新たに必要となることや課題を教えてください。

水野 当社のもう一つのDNAが、お客さまからのアクションを待つのではなく、こちらから積極的に会いに行くということです。例えば、小売店舗のセゾンカウンターでは、当社の営業担当がお客さまに直接お声掛けをしています。まさにリアルな声を聞くことができるわけです。取引先にもこちらから伺うことを心掛けていますが、大切なのは、営業担当一人一人が率先してそれを行うこと。そのためには、早くコロナ禍が落ち着くことも待ち望まれます。

――水野社長自ら出向くこともあるのですか。

水野 基本的には出向きます。特にこの10年ぐらいは海外に力を入れていたこともあり、ベトナムには50回ぐらい、ミャンマーにも30回は行っています。やはり肌感覚で知る情報は、スマホの画面で見ているのとは伝わってくる熱量が全然違いますよ。例えば、提携を考えている企業を訪ねるときも、職場の雰囲気を感じることができる。社員が本当に楽しそうに働いているか、といったことも一目で分かるので、ベンチャー企業などにも必ず伺います。

――クレディセゾンの存在意義を実現させるために、今取り組んでいらっしゃる変革について教えてください。

水野 「総合生活サービスグループへの転換」といっても伝わりづらいでしょうから、2021年からは、私が各現場を回って直接説明しています。2022年に入り、新中期経営計画を立ち上げたときの第1クォーターでは、課長以上のマネージャー約400人を対象に、1回2時間ぐらいかけてビジョンを説明して。第2クォーターではグループ各社の社長のところへ行き、2022年上期の状況やグループ一体経営についての説明をしました。第3クォーターは、係長以下の社員へ向けて。これも1回15~20人集めて15、16回行ったので、合計300、400人ぐらいと対面で話をしたのかな。2022年は新中期の初年度なので、“私がこういう思いを持っていて、こういう形で会社を変革したいんだ”という話を、こちらが一方的に話すのではなくディスカッション形式で行いました。

――社員の方からは、どのような意見が出てくるのですか。

水野 各回、意識的に数カ所の部門からメンバーを集めているので、各部門の課題から新中期経営計画に対する疑問点、会社の方針を変えていく方法などに関する意見がさまざまに出てきます。ものすごく労力を使いますが、面白いですよ。“この部署はこういうことをやっているんだ”“こんな課題や悩みがあるのか”というのを部門を越えて、社員同士が知る機会はあまりないので、想像以上に活発なディスカッションに発展します。さまざまな質問に答えるために、私自身も勉強しなければいけないので大変ですが、やりがいがあります。

――やはり、リモート会議では味わえない空気感ですよね。

水野 そうですね。リモートだと会話の途中で入っていきづらいですが、リアルの場合はどんどん話が発展していきます。先日、参加者の約3分の1が中途入社という回があったのですが、志望動機やクレディセゾンのどこに魅力を感じたのか、などといった話で大変盛り上がりました。対面でディスカッションした方がいろいろなアイデアや意見が出ますし。持ち帰った課題などにも、スピーディーに対応できますから。

 その日が初対面の人も多いのに、参加者同士すぐに親しくなっていましたよ。それも、リアルならではの良さですよね。

部門間の壁を乗り越えるために直接、会いに行く

――そうしたディスカッションは2022年からスタートされたとおっしゃっていましたが、今までそういう場は全くなかったのですか。

水野 実は2021年にも開催したのですが、そのときは同じ部門の人たちのみを集めて行いました。でも、そうすると意見が偏ってしまうのですね。一つの悩みに対して「そうそう、あるある」と共感したりと、その部門の話ばかりになってしまい、多様性を尊重する今の時代にそぐわないと思ったので、2022年は複数の部署から集めて行いました。それと、当社ぐらいの会社の規模でも、組織というのはどんどん縦割りになってくるものです。部門間に壁を感じるという社員は多いのですが、みんな誰かが壁を壊してくれるのを待っている。だったら直接会った方が早いだろうと思ったのも、ディスカッションを開催した理由の一つです。

 また、新たな中期経営計画を実行していく中で、社員のやる気やモチベーションを上げて盛り上げることはとても大きな要素です。そのためには一方的にこちらが話すのではなく、社員の思いを受け止める必要がある。そういう面でも、意味のある集まりだったと思います。

――そういった場から生まれる社員の声やアイデアをどのように具現化するのでしょうか?

水野 新規事業や業務改善を社員がボトムアップで提案できる「SWITCH SAISON」という社内ベンチャープログラムがあります。一方で企業を変革していくにはボトムアップと同時にトップダウンも必要です。2021年には役員が新規事業を企画・プレゼンする「NEXT SAISON」という施策を初めて行いました。その年は役員単独でのプレゼンでしたが、今年度は役員3人を1チームにした計5チームでのチームでの形に変更しました。

――プレゼンされた企画の中で、実現したものはあるのでしょうか。

水野 役員たちからの発案がきっかけで、合弁会社を作りました。あとは今、関連会社で着手している新規事業もそのプレゼンがきっかけです。ほかにも、2022年6月から本格始動した「セゾンの学び」も、このプレゼンがきっかけです。内容としては、専門・得意領域スキルを持つ社員が、ほかの社員に講師となって教えるというもので、Excelの使い方や法人営業のやり方などのほか、シンガポール駐在の社員がグローバル事業を紹介するような講義もあります。視聴する側はもちろん、講師となる社員も“教えるスキル”の向上が期待できますし、さらには内製化の推進にもつながりますよね。

クレジットカード会社の枠を取り払い、ファイナンス・カンパニーになる

――これまでお話しいただいたクレディセゾンの理念は、現在どれくらい実現できていると感じていらっしゃいますか。

水野 これまでグループ各社は自主独立で経営してきたため、中期経営ビジョンで掲げている「総合生活サービスグループ」への転換は、今までとは正反対のスタイルなので、浸透するのにあと1、2年はかかると思います。

 先ほど、私が社員のところへ出向いて直接説明するというお話をしましたが、やはり足繁く通って何回も言い続けなければ浸透しないのではないか、というのは実感としてあります。1回話しただけでは絶対に身にならないだろうとも感じるので、事あるごとにいろいろな場面で、しつこいくらい語っていくつもりです。

――その企業理念を実現できたとき、クレディセゾンはどのような姿になっているでしょうか。

水野 当社は今、クレジットカード会社というイメージが強いと思うのですが、その枠を取り払ったファイナンス・カンパニーになるのが理想です。その中にペイメントがあったり、不動産のファイナンスがあったり。グローバルの中でのレンディングやインベストメントがあったり、という形ですね。

 例えば、オリックスさんなどもそうですよね。もともとはリース会社でしたが、今は一言で説明できない企業体になっています。そういう形になれたら、会社に強さが出てくると思うのです。例えば、経営環境が変わって一つの事業が大きな痛手を受けたとしても、ほかの事業によって持続的に成長できる。できれば、あと5年から10年の間にそういうスタイルにするのが目標です。

――お話を伺っていると、水野社長は逆境に置かれたときこそ力を発揮するタイプのようにお見受けしますが、座右の銘があれば教えてください。

水野 いやいや、そんなことはないですけれど。仕事をする上での座右の銘は、「来た球は打つ」と「泥水は飲む」ですね。

――何も知らないうちから閉ざすことはせず、とりあえずは受け入れてみるということですか。

水野 実は私、人見知りなんです。なので、最初は様子見をしたい。ただ、仕事の場でそんなことは言っていられないので、自分からいくようにはしています。基本的に拒否することはあまりないかもしれないですね。もちろん、明らかに意味がないことはやらないですよ。

――社長室に「率先垂範」と書かれた額が飾られているのは、どのような思いがあってのことでしょうか。

水野 最初は、(代表取締役会長CEOの)林野(宏)が口にした言葉だと思います。私は常々「給料の高い順に働かなければいけない」と言っているものですから、自らそれを示す必要がありました。また、先ほどお話しした役員による企画・プレゼンを提案した際、「それは率先垂範だ」と林野に言われたことがきっかけとなり、当社の全リーダーの行動指針にしました。今では、この言葉が全社員のパソコンのスクリーンセーバーにも設定されています。

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