人は「なぜ?」「どうして?」と質問されると、問い詰められていると感じることがあります。そのようなとき、とっておきの質問があります。コンサルタントの酒井とし夫氏が著書『もっと成果を出すための 売れる営業のルール』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。

お客様ニーズを知るための質問力

営業でお客様のニーズを知るには、まずは対話です。ただ、対話するといっても、闇雲に会う回数を重ねるだけでは、双方にとって徒労に終わるだけです。

では、お客様のニーズを知るための対話ではどんなことに注意すればよいのでしょうか?その答えは、「聞くこと」です。この聞くとは、「訊く(尋ねる)」ことであり、「聴く(傾聴する)」ことです。

セールスのプロは「聞く」ことの効用を経験からよく知っているので、「話す」ことよりも「聞く」ことを大事にしているのです。

「訊く」ことで、お客様のほうから話していただき、その話の中から心の奥底にある潜在的なニーズを引き出すのです。

■質問されると、思わず答えを探し出す

お客様の心の奥底にある真のニーズを知るスキルが、「質問力」です。

ここであなたに質問です。

「昨日の夕食は何を食べましたか?」

いかがでしょう? 

今、あなたは質問の答えを考えたはずです。

私たちの脳は、「質問」されると「答えを探す」という性質があるからです。

心理学の世界では私たちが経験したことのすべては「潜在意識」と呼ばれる領域に保存されていると言われています。

すべてのことが保存されているのですが、普段はそれらの存在を意識することはありません。それらは、「顕在意識」と呼ばれる領域に引っ張り出してこないと意識することができないからです。

そして、潜在意識の領域には経験したことだけではなく、あらゆる記憶、思考、習慣、能力・才能、人格が保存されています。

お客様が普段は意識していないニーズも、この潜在意識の領域にあります。

お客様の本当のニーズを把握するということは、お客様の潜在意識の領域にある本音や本心をあなたが顕在意識まで引っ張り出す作業を行うということです。

「提案営業を心がけよう」とよく言われますが、提案営業がうまくいかないのは、お客様の心の奥底にある本音や本心ではなく、うわべのニーズを本音や本心と勘違いしていることが多いからです。

要するに、お客様の本音や本心を引き出せれば、お客様が心の底から欲しているニーズに対応した提案営業ができて成約確率は飛躍的に上がります。

だから、質問力が営業には重要になるわけです。

▶営業力を上げるコツ お客様に多く語っていただき、本音をつかむ

本音を引き出すための質問の仕方

■「なぜ」よりも「何が」と訊くと、お客様は話しやすくなる

営業場面において、ニーズを探る質問では、「なぜ?」「どうして?」という言葉はできるだけ使わないようにします。

人は「なぜ?」「どうして?」と質問されると、問い詰められていると感じることがあります。

そうなると、心が閉じたり、抵抗感が出たり、体裁を取り繕った答えや間に合わせの答えになりがちだからです。

では、どう訊くか?

「なぜ」ではなく、「何が」です。

×「なぜ、行動しないのですか?」 ◎「何があなたの行動を妨げているのですか?」

×「どうして、そう思うのですか?」 ◎「何があなたにそう思わせるのですか?」

×「なぜ、挑戦したくないのですか?」 ◎「何があなたに挑戦したくないと感じさせているのですか?」

以上のように、「何が?」という質問によって、相手の潜在意識から反感を買わずに情報を取り出すことができます。

また、「何が」という訊き方以外に、先述した

「他には?」 「具体的には?」 「何のために?」

という質問の仕方も本音に迫るには有効です。

▶営業力を上げるコツ お客様の本音を引き出す質問をする

お客様の価値基準を知るのも質問力

■お客様が大切にする価値がわかれば、提案の仕方がわかる

人間には、人それぞれが大切にしている判断基準や価値基準があります。これをNLP心理学では、「クライテリア」と言います。

例えば、お客様が人生で最も大切にしているクライテリアが「家族の幸せ」だとします。

その際の営業では、商品やサービスが「家族の幸せ」を実現するものだとして提案できれば、承諾・購入・契約につながる確率が高まります。

お客様のクライテリアを知るには、お客様が日頃「何に価値を置いているか」を知ることです。

それにはお客様に多くを語っていただく場をつくり、適宜質問して傾聴することです。

その中でお客様の価値に合う提案ができれば、お客様は「この営業(販売)の人は私の好みをよく知っている」と思ってくれて、商品・サービスだけでなくあなたに対しても関心を示すようになります。

よって、お客様が本音を語り出すような質問を心がけて、クライテリアを知ることに努めます。

クライテリアがわかれば、あとはそこに向けての提案に集中します。

保険商品を例にしてみましょう。

お客様のクライテリアが「家族の幸せ」であれば、その保険に加入することが物心両面でいかに配偶者や子どもの幸せに役立つものであるかを説明し、家族を不幸にさせないためのリスクマネジメントが保険であることを説明します。

ここで大事なことは、お客様のクライテリアを知ってそこに向けての提案に集中するといっても、「これがお客様にとってベストな選択だから、絶対に契約すべき」というような無理強いはタブーです。

あくまでも、お客様のクライテリアに添った提案を行い、お客様から「これは自分にあっているようだ」と思ってもらうことです。

拙速にクロージングすると、あとになって「なんだかうまく乗せられたようだ」と思われかねません。

リピートに結びつけるうえでも、お客様自身が選んだという気持ちになってもらうことがポイントです。

▶営業力を上げるコツ お客様のクライテリアを見つける

酒井 とし夫 マーケティング・コンサルタント

(※写真はイメージです/PIXTA)