しかも廃炉が完了しない限り、処理水は今後も発生し続ける。前号でも触れたように、現時点でも、東電、資源エネルギー庁、当時の原子力安全・保安院が公表した廃炉作業のロードマップ(工程表)の完了目標51年すら達成するのは難しい。このまま政府方針通りに放出が開始されれば、終わりの見えない処理水放出が続くことになる。

 そしてそれに伴う風評被害が自然収束しなければ、関係者は数十年にわたって被害に悩まされることになるのだ。

 一応、政府は風評被害対策を打ち出しているものの、それがいつまで続けられるかはまったく不透明なまま。にもかかわらず、処理水の海洋放出決定だけが先行しているのが現状なのだ。

 また、ALPSによる汚染水処理では別の問題も抱えている。汚染水の前処理過程があり、そこでは高線量の放射性物質を含む汚泥、通称「ALPSスラリー」が発生する。

 現在、このALPSスラリーはHICと呼ばれるポリエチレン製の容器に詰められ、さらに放射線を遮るコンクリート製の箱で覆われて保管されている。その数はすでに4000基超。そして、この保管場所の収容能力も限界に達し、増設をしている。東電側はスラリーから水分を除去して固形物化し、それで安定化させる計画だが、固形化設備の運用開始予定は25年3月。しかも、当初の設備計画は、原子力規制委員会から被ばく防止対策が不十分と指摘される始末だ。

 加えて初期にALPSスラリーが詰められたHICの中には、強い放射線の影響で破壊限界に近付いているものもある。

 東電側は固形化設備の運用までは、これを新しい容器に詰め替えて凌ごうとしている。

 だが、詰め替えた結果として空になったHICまでもが強い放射線を発する放射性廃棄物になる。放射性廃棄物が雪だるま式に増える構図になっているのだ。

 結局のところ、事故から12年が経過した今でも福島第一原発事故問題は泥縄だらけの対応が続いているのだ。

 そこには被災地住民に寄り添う姿も国民への説明責任も不在のままである。3.11を迎えるたびに、同じ景色を見ている気がしてならない。

ジャーナリスト・村上和巳

アサ芸プラス