2023年初頭からスタートした「電子車検証」、その情報を読み取れないというトラブルが続出しています。長引く不具合の理由はETCのアプリとの“喧嘩”。双方の制度を所管する国土交通省内でも、ちょっとした“喧嘩”が起こっているようです。

電子車検証スタートから、わずか3日目のトラブル

2023年1月から紙のアナログ車検証が、ICタグの埋め込まれた電子車検証に切り替わりました。車検証情報をデジタル化して、自動車関係事業者の効率を大幅に改善することが期待されましたが、情報を読み取れないエラーが続出。トラブルに共通するのは、ETCセットアップアプリの存在でした。双方ともに国土交通省の推進する施策なのですが――。

「情報が読み取れない」という不具合は1月6日、日本自動車整備商工組合連合会(整商連)が出した加盟組合向けの業務連絡で明らかにされていました。整商連は自動車整備を行う事業者の全国組織です。

整備工場などからは、ETCセットアップが可能なパソコンを使って、電子車検証の読取りを行う非接触式ICカードリーダー・ライターを接続しても車検証の情報を読み取ることができない、という内容のトラブルが多数寄せられました。

原因は、パソコンにハードウエアを接続した場合に必要なドライバー(=ソフトウエア)の仕様にありました。電子車検証のカードリーダー・ライターを動かすためのドライバーが正常にインストールされていても、現状の仕様は、すでに常駐するETCセットアップ用を優先して使おうとするので、電子車検証読取りのためのカードリーダーが動作しないのです。典型的な初期トラブルでした。

整商連は電子車検証を推進する国土交通省自動車局やETCセットアップを管理する財団法人に修正を要請しました。同じ国土交通省の施策のためのツールなので、通常は、速やかに更新プログラムが用意され、あっけなく解決してもよさそうな話です。

ところが、更新プログラムのリリースのタイミングは2か月経過しても明らかにされず、電子車検証を推進した自動車局自動車情報課は、今のところ唯一の解決策は「電子車検証用のパソコンをもう1台用意することだ」と、話します。

国交省内で小競り合い? リリースされない更新プログラム

しかし、ソフトウエアの不具合のために、パソコンをもう1台用意するというのは本末転倒。やむを得ず経理用の端末に電子車検証の読取りアプリを導入し、請求書などの管理を中断させて対応しているという事業者は「いつになったら、正常に使えるようになるのか」と、困惑しています。

対応が進まない理由のひとつが、国土交通省の中でも自動車局とは別の道路局がETCセットアップアプリを担当していることです。

不具合の原因として名指しされたETCのセットアップ用アプリは、車載器を購入した場合などに自動車ユーザーが高速道路料金を決済できるよう、取付店が車検証情報などを登録するために使います。同じ道路局で有料道路を担当する高速道路課は「必要な協力はする」が「同様な不具合は、他のドライバーでも起こりうること」として、実務を担当する財団法人は指摘を受ける今日まで、積極的に不具合情報を開示しませんでした。

しかし、電子車検証制度もETC制度も、国土交通省が決めた制度です。

電子車検証は紙のアナログ車検証より記載内容が簡略化され、運輸支局などに出向かなくても手続きができることが特徴で、そのために自動車ユーザーが負担する交付手数料は約300円程度値上げされました。ETCに至っては高速道路料金でシステムを維持しているだけでなく、ETC車載器を別に購入して維持する制度です。

車検証の電子化は、行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)を先取りする形で、トラブルが発覚する2日前の1月4日に始まったばかり。さらにETCは、DXが話題になる前から進められたデジタル行政の先駆的施策です。そんな中で起きた不具合。なぜ問題が発覚しても、同じ国土交通省で意思疎通を図って対応ができなかったのでしょうか。

従来の車検証の上にあるのが電子車検証。情報読み取りを前提とするため小さく、記載事項も少なくなった(中島みなみ撮影)。