3月9日和歌山県白浜町のテーマパーク「アドベンチャーワールド」は、同園で飼育していた「2頭のライオン新型コロナウイルス感染症のために死亡した」と発表しました。

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 これまで海外では、飼育していた動物のコロナ感染、それによる死亡や殺処分の事例が報告されてきました。しかし、国内の動物園でのケースは初めてです。

 同園によると、10頭飼っていたライオンたちが1月3日頃から体調を崩し始め、咳などの反応が見られたそうです。

ライオンの咳とはどのようなものなのか、実は想像がつかないのですが)

 同9日にまず19歳のオス、次いで12日に21歳のメスが、いずれも肺炎のため死亡した。残りの8頭にも咳などの症状が見られたが、現在は回復しているとのこと。

 亡くなった2頭とも検体の抗原検査で新型コロナウイルスの陽性反応が確認されており、同園は、ライオンたちがコロナに感染した飼育係からウイルスを伝染されたものとみています。

 まあ、もとをただせば中国南部の「コウモリ」体内で生活していた「動物の風土病」だった新型コロナが、獣類を介して2020年から人間に感染し始め、全世界を席巻するコロナ禍に発展したわけです。

 ライオン飼育係からコロナをうつされても不思議ではありません。

「人獣共通感染症

 皆さんのペット、愛するワンちゃんネコちゃんが、コロナに感染して生命を脅かされるリスクを考えてみましょう。

実は近縁なコウモリとネコ

 飼い主がコロナに感染した際、同居しているペットに病気がうつったケースとして、どのような統計を取ったのかよく分かりませんでしたが「15%ほどが感染」との報道が出ていました。

 しかし元来がコウモリの病気である新型コロナ、どの程度犬や猫にうつるのでしょうか?

 ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」の中に「コウモリはネコを食べるかしら? ネコはコウモリを食べるかしら?」という一節があります。

 21世紀の遺伝子解析技術は、実はコウモリとネコが意外に近縁であることを示しています。

哺乳類の進化系統樹・抄(筆者作成)

 哺乳類の進化系統を整理してみると、実はコウモリはネコやイヌ、クマやライオン、トラなどの「食肉目」と同系列の生物で、私たち「霊長目」よりもはるかに近縁であることが分かります

 ちなみにこの図の中で「クジラ・偶蹄目」というDNAファミリーが、ひときわ目を引きはしないでしょうか? 

 クジラと偶蹄目、要するにウシですね。

 これらが親戚関係と聞くと、ほんまかいなと思われるかもしれません。

 ウシとカバは親戚である。カバとイルカは実は親戚であった。イルカクジラは同類で、実はウシとクジラはファミリーだったというDNA上の関係が、20世紀末に日本人研究者の手によって明らかにされました。

 1980年代以降、レトロポゾン法と呼ばれる遺伝系統を解析する手法を筑波大学(当時)の岡田典弘講師(現東京工業大学名誉教授)が発見、日本がイニシアティブをとって、地球上の生命進化の系統樹が、全面的に再点検されることとなった。

 その結果「くじらの公式」が変化し、ウシとクジラは親類縁者と判明したのです。

 ともあれ「不思議の国のアリス」も気になった「コウモリとネコ」は、食うか食われるかは別にして、実は生物として近縁にあるわけです。

 人獣共通感染症という以上に「獣獣共通感染症」で罹患、同じように「肺炎」となり、「合併症」があると「重症化」して「死に至ることもある」事実に、注目しておく必要があります。

「食っちゃ寝、食っちゃ寝」で生活習慣病

 和歌山県白浜町アドベンチャーワールド」の発表でもう一つ気になったのが「ライオンの生活習慣病」です。

「2頭は高齢で、基礎疾患があり」という報道は、とても動物だけのこととは思えず人間さまにもそのまま当てはまる状況です。

 南紀白浜の「アドベンチャーワールド」はサファリパーク仕立ての動物公園で、ライオンたちは通常の動物園よりはるかに広い面積を駆け回ったりできる、比較的良好な生活環境であったように思われます。

 それでも「サファリパーク」はしょせん「パーク」、大平原のサバンナを獲物を求めて旅するような運動量とは比較になりません。

 高齢ライオンの基礎疾患が何であったか、正確な報道は見つけられませんでしたが、仮に檻の中で「食っちゃ寝、食っちゃ寝」の生活であるならば、糖尿病、高血圧、肥満、高脂血症といった人間とも共通する「生活習慣病」であったことが考えられるでしょう。

 先ほど、ライオンの咳は想像がつかないと記しましたが、ネコのくしゃみならいくらでも見たことがあります。

 我が家で最後にネコを飼っていたのは、もう20年ほど前のことになります。ミー君という家族がおり、彼のくしゃみはよく覚えています。

 ミー君は最期、ネコAIDSで命を落としました。私の母が死んだ2週間後のことでしたので、いわく名状し難い思いを持ったものです。

 ミー君の最期は、人間が看病し切れませんので、動物病院で看取ってもらいました。

 獣医さんの説明を聞きながら、動物もいわゆる生活習慣病のすべて、人間同様に罹患しうることを改めて痛感させられました。

 改めて、というのは、私が小学校から成人する直前くらいまで、12年ほど家族であったマルチーズ犬がいました。

 バロンという名で、彼もまた生活習慣病で残念な後半生を送らざるを得なかったのです。

 小1の3学期が始まる日に父を失いましたので、私が母親に甘やかされて育たないようにと、伯父が知り合いの家で生まれたマルチーズを貰ってきてくれたのです。

 私が小学校中学年あたりまでは、稀に学校に連れて行くと、校庭を白い矢のように走り回って本当に元気でした。

 それが、私が中学2年頃だったでしょうか。室内でやたらとゴン、ゴンと椅子の足にバロンが頭をぶつけるのですね。

 変だということで獣医に連れて行くと、すでにその時点で失明していました。

 緑内障で眼圧が上がって云々という説明でしたが、獣医でもらった薬を処方されてからの方が、一晩中座ったまま硬直してぶるぶる震えていたり痛々しい闘病生活になってしまい、見ていられない状態になりました。

 やがて症状は落ち着きましたが、7歳から享年の12歳までは見るからに病獣で、彼の晩年は私にとって、老い、そして死というものを初めて教えてくれるものとなりました。

 すべての原因は「食習慣」にありました。バロンには缶入りの柔らかいドッグフードを与えていましたが、1970年代初頭のことです、イヌの歯磨きなど誰も考えませんでした。

 その結果、歯垢や歯石が溜まるだけ溜まってまず歯が軒並みだめになった。次に歯列の乱れから肩、首の骨格筋もイカれてしまい、その他の合併症とともに「緑内障」を発症、失明に至り、その後のQOL、生活の質は急降下、寝たきりの状態で最期を迎えました。

 仮に同じことをすれば、人間だってそうなるでしょう。

 今思い返せば親の介護から看取りに至るプロセスの、二つとない予行演習を彼自身の生と死で見せてくれたように思います。

 やや内輪の実例でお話しましたが、要するに「ペット」として私たち人間と同じ環境にいる動物は、その時点で「自然」とはかけ離れた環境で生きています。

 常時「生活習慣病」と隣り合わせだという事実を、強調しておきたいのです。

 5月8日、人間さまのコロナは「5類」に引き下げられ、防疫から受診治療まで、様々な取り扱いが変化します。

 政府としては極力、この病気はパンデミックとしては山場を越えたことにしたい、もう大丈夫という空気感を醸し出そうとしています。

 しかし、2023年1月になってからの、基礎疾患を抱えた老ライオン2頭の「コロナ死」は、現在のオミクロン変異株が、少なくとも「ネコ科」の動物にとっては、肺炎を引き起こした場合、重症化して死に至る病勢を持つことを、ケーススタディとして示すものになってしまいました。

 ヒトにとっては、特に若者にとってはどうということのない病原体でも、ネコやイヌにとっては死に至る病にもなりうる「人獣共通感染症」。

 可愛いネコちゃんに、不用意にチュッチュなどとヒトの唾液と触れる機会を作ったりすると、それが命取りにならないという保証は全くないことに注意する必要があるでしょう。

 2023年以降、次の「人間向けパンデミック」となりうる、別の人獣共通感染症病原体が今現在も高速で進化し続けているのは間違いありません。

 あなたの愛猫、愛犬の命を守るうえでも、「同居する家族」であるはずのペットです、十分な注意を払う必要があるでしょう。

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