「妊娠によって気分が高揚した状態」を指す「マタニティーハイ」という言葉があります。赤ちゃんを授かった喜びや幸福感から、気分が舞い上がる妊婦さんは多いと思いますが、一方で、そうした高揚感が普段のテンションや言動、行動に現れてしまい、周囲を困惑させたり、迷惑をかけたりするケースもあります。

 そのため、「マタニティーハイ」という言葉にネガティブなイメージを持つ人は決して少なくないようで、「自分の妊娠の話ばかりする友達に疲れたことがある」「SNSにエコー写真ばかり載せるようになった友達…うんざりしてきた」「ハイの友達に『早く子どもつくった方がいいよ』と言われたときは、さすがに距離を置こうと思った」「妊娠自体はおめでたいことだけど…正直うざいです」など、辛らつな声が多く聞かれます。

 周囲からネガティブな声が聞かれることも少なくない「マタニティーハイ」は、なぜ起こるのでしょうか。産婦人科医の尾西芳子さんに聞きました。

医学的な用語ではない

Q.そもそも「マタニティーハイ」とは何ですか。

西さん「マタニティーハイとは、妊娠を契機に気分が高揚し、周囲から見ても異常にハイな状態のことを指す言葉です。ただし、出産による急激なホルモンの変化で情緒不安定な症状が現れる『マタニティーブルー』とは違い、医学的な用語ではありません」

Q.なぜ、マタニティーハイになってしまうのでしょうか。

西さん「医学用語ではないため、原因なども正式には分かっていませんが、考えられる原因としては“妊娠した喜び”による、脳内でのドーパミンの増加です。分泌されたドーパミンが快感をもたらすことでハイな状態になり、また、人から祝福されることでこの快感が増強されていると考えられます。

なお、医学的な原因が分かっていないため、マタニティーハイになりやすい女性の特徴を判断することも難しいです」

Q.マタニティーハイの妊婦さんに対して、「疲れた」「うざい」というネガティブな声も少なからず聞かれます。

西さん「確かに、周りのことを考えずに『他の人にも妊娠を勧める』といった行動は、周囲から見て不快に思うこともありますよね。ただ、妊娠中は精神的に不安定な時期です。指摘することで反撃をしたり、今度は極度に落ち込んでしまったりするといったことも考えられます。そのため、本人に直接指摘するのは避けた方がよいでしょう。

距離が置ける関係であれば少し距離を置いたり、身近な関係であれば喜びを分かち合う姿勢を持ちつつ、不快な思いをしている人のことをやんわり伝えたりするのも必要なことだと思います」

Q.妊婦さん自身がマタニティーハイを自覚し、心身を落ち着かせたいと思ったとき、どうするのがよいでしょうか。

西さん「マタニティーハイは、それ自体が悪いわけではなく、そのことで周囲に不快な思いをさせてしまうことが問題となる部分です。一方でマタニティーハイは、心身ともに大変な妊娠期を乗り切るために、ある程度は必要な部分もあるといえます。そのため、そうした気持ちを無理やり抑える必要はありませんが、『周囲には、人に言えず不妊に苦しんだり、流産したりした人がいるかもしれない』ということを意識し、配慮した言動や行動を取るようにしましょう。

軽い運動やマタニティーヨガなどで体を動かすことで、ハイな気持ちを落ち着かせるのもいいと思います。妊娠日記を書くことなども、自分の気持ちを整理できるのでお勧めです」

オトナンサー編集部

マタニティーハイには辛らつな本音も…