高校での投資教育が必須になるなど、経済に対する教育への関心が高まっています。そこで本連載では、専門的な知見を生かし、経済に関するニュースをわかりやすく解説することで人気を博している経済キャスターのDJ Nobby氏が、著書である『実は大人も知らないことだらけ 経済がわかれば最強!』(KADOKAWA)から、日本と世界の経済について解説します。

世界トップのGDP!急成長した中国の現状と、日中関係

【TOPICS】逆転した日中経済

2030年頃、中国のGDPはアメリカを抜いて世界トップに躍り出ると予想されています。

日中のGDPは2010年時点ですでに逆転しており、現在は日本の約3倍に達しています。

中国のGDP(国内総生産)は、アメリカに次いで世界第2位。足元ではゼロコロナ政策に伴って減速していますが、長期的には底堅い成長を続けると考えられています。

中国の急激な経済成長、その背景にはなにがあったのでしょうか?

そして、これから中国が直面するであろう課題とは何か?

一つひとつを紐解いていきましょう。

中国は、なぜ急激な経済成長ができたのか?

中国では、1978年から鄧小平の主導の下で改革・開放政策が実施されました。これは、文化大革命で傷んだ経済を立て直すための経済近代化政策。

「農業・工業・国防・科学技術」の4つの分野で現代化が掲げられました。ただ、共産党一党独裁体制は維持され、民主化運動については厳しく弾圧されました。

ここでは、改革・開放政策で行われた代表的な施策を見ていきましょう

◆経済特別区の設置

「4つの現代化」を進めるための基礎となる経済体制を全面的に改めるにあたって、外資の利用や先進技術吸収のために「経済特区」が作られました。

目的は外国からの資金や技術をもとに、国内の労働力を用いて輸出競争力のある商品を作ること。

まず、沿岸部に4つの拠点、深圳(しんせん)・珠海(しゅかい)・厦門(アモイ)・汕東(スワトウ)を設置し、徐々に拡大するという方式がとられました。これらの地域で、外資に対する優遇税制や経済インフラの整備が進められ、外国資本が積極的に参入した結果、経済特区は急速に発展しました。

◆人民公社の解体

人民公社とは、社会主義建設の柱として1958年に創設された農村の行政・経済組織のこと。行政の末端組織で、社会主義国家建設の柱として重視されていました。

しかし実際はうまく機能せず、農民の生産意欲は下がり、多くの餓死者を出すこともありました。鄧小平はその非生産性を批判。人民公社を解体し、農村部に「家庭請負責任生産制」を導入しました。

これは、一定量を超えて生産した農作物を自由に販売できるという制度。人民公社に比べ極めて資本主義的な仕組みと言えます。

改革開放を起点にめざましい発展を遂げた中国

さらに人民公社に代わって地方の行政単位となった「郷(ごう)・鎮(ちん)」では民間企業(郷鎮企業)の設立が呼びかけられました。

1980年代を通して中国は改革開放政策を進めましたが、官僚の腐敗などへの不満が徐々に高まることとなり、1989年には多数の人々が北京の天安門広場に集まって民主化を求める事件(天安門事件)が発生するに至りました。

1992年鄧小平は中国南部を視察しながら市場経済を利用して経済発展を目指す政策を打ち出し(南巡講話)、これを受けて中国共産党は「社会主義市場経済」の導入を決めることとなりました。

1980年代から2010年代後半までの中国のGDP成長率は平均して10%程度と、改革開放を起点に中国はめざましい発展を遂げたと言えます。

【Nobby‘s point】中国の貿易政策

中国政府は沿岸部の経済特区を中心に輸出を主目的とした工業化を進める政策を進めました。内陸地域の余剰人口を工業発展が盛んな沿岸部に移動させることを目指したのです。

さらに、日本やNIES(シンガポール、香港、台湾、韓国、メキシコなどの新興経済諸国の総称)からの投資を呼び込み、輸出によって獲得した外貨を設備投資や技術導入に使うという循環を生み出しました。

こうした政策は、安くて豊富な労働力を特定の分野に集中して注ぎ込む「労働集約型」の工業が発展する結果に繋がり、中国全体の経済状況を底上げすることとなりました。

中国の経済の強みとは

中国の強みは、“安くて豊富な労働力”。世界中から投資が集まり、中国で安くて安定したモノづくりが行われたことで「世界の工場」と呼ばれるようになりました。

日本やアメリカなどの先進国企業が中国に生産拠点を相次いで移したことで、中国に外貨と技術がもたらされ、その後の中国の発展を決定づけることとなったのです。

先進国からさまざまな技術が集まった結果、それまでは汎用製品が生産の中心であったところから、半導体などの高度かつ高利益率な製品が生産できるようになり、先進国と互角に渡り合える工業国に発展したのです。

経済力はあるけど、中国が「先進国」ではない理由

中国は、2010年に日本を抜いてGDP世界第2位になりました。国別の比較では世界トップの経済規模ですが、中国は実はまだ「先進国」ではありません。OECD(経済協力開発機構)の分類は、「上位中所得国」。

名目GDPはトップレベルでも、一人当たりGDPで見ると圧倒的な遅れを取っています。経済特区として発展してきた沿岸部は先進国に近い暮らしを送っている人が多いものの、内陸部ではまだまだ一人当たりの生産性が低い水準にあることが原因です。

中国政府はこれまで明確に「先進国化を目指す」としたことはありません。中国政府が積極的に先進国入りを目指さない理由はいくつか考えられます。

・民主化(資本主義化)で一党独裁体制が崩れる可能性があるため

先進国になると、国際問題が起きた場合に他国と一致団結して援助等をする必要が出てくるため

CO2など、世界的な環境問題への対応が求められるため

先進国になると、他国への援助や環境問題への対応など、自国の利益を他の国に分配する必要が出てきます。いまの段階ではこのような責務を負いたくないというのが本音なのではないでしょうか。

【Nobby‘s point】日本の中国支援は最近まで続いていた

いまとなっては日本はGDPで中国に抜かされていますが、日本は2022年まで実に40年以上にわたり中国にODA(途上国援助)を行っていました。JICA(国際協力機構)によると、対中国ODAのうち、無償資金協力は約1,600億円、円借款(お金を貸す)は約3兆3,000億円、技術支援は約1,900億円にも及びます。

中国が急速な経済発展を遂げ、さらに中国自身が他の途上国に戦略的な支援を行うようになるなど、日本からの支援はもはや必要なくなったと判断されたようです。

日本が発展を支援してきたにもかかわらず、現在はさまざまな分野で日中の対立が激しくなっているのは、少し皮肉な気もしますね。

中国の格差は、独特の「戸籍制度」によるもの?

中国は国内の格差がかなり大きな国です。上海など沿岸部の発展した地域には、先進国の基準でも富裕層と言われるような人が多数存在しています。一方、農村部の収入は平均して都市部の3分の1程度。都市部と農村部の所得格差は国内でも大きな問題となりつつあります。

国内の格差が開いている背景として考えられるのが、戸籍制度。中国では一元的な戸籍管理が行われており、定住場所が制限されています。伝統的に都市と農村が明確に切り離されており、農村部で生まれた人が都市部の戸籍を取得することは容易ではありません。

戸籍制度の導入は1950年代後半。目的は、都市住民の食料供給安定・社会保障充実です。農村戸籍の人が都市で出稼ぎをすることもありますが、あくまでも戸籍はもとのまま。都市住民と同じ社会保障を受けることはできず、圧倒的に不利なのです。

中国の厳しいSNS規制

インターネットユーザーには広く知られていることですが、中国では海外サイトへのアクセス制限が行われています。

Facebook、Instagram、Twitter、YouTubeなど、日本では当たり前に使われているのに中国では使えないサービスが多数あります。中国国内で見られるのは国内の投稿のみ。海外の投稿は基本的に見ることはできません。

インターネットアクセスが制限されている理由はいくつか挙げられます。

まず、海外の視点で伝えられるニュースが国内に広がることを制御することです。また、都市部の富裕層と農村部の貧困層で情報交流を防ぐ目的も考えられます。すでに農村部からの政府への反発が激しくなっているようで、中国政府では格差が浮き彫りになることを警戒しています。

【Nobby‘s point】中国では「暗号資産」取引ができない!?

中国では、もともと国内から海外にお金を持ち出すことに関して厳しい規制があります。海外旅行に行くための資金程度であれば大きな問題にはなりませんが、海外不動産の購入や、海外の会社への投資はかなりハードルが高くなります。

理由は中国から外貨が流出するのを防ぐため。ただ、富裕層にとっては資産の分散は必要不可欠なもの。

近年では暗号資産を媒介にして資産を海外へ送金するケースも見られており、政府は海外送金への抜け道を塞ぐため、取引規制の強化を続けています。

中国経済が直面する課題とは?

急激な経済成長を続ける中国ですが、足元ではゼロコロナ政策を堅持しているために経済成長の鈍化が顕著となっています。

ただ、コロナが終息したとしても中国の経済成長がもとに戻るかどうかは議論の余地がありそうです。その要因は、2つの視点から考えることができます。

◆高騰する人件費

「安い労働力」で高品質を武器に輸出業を発展させた中国ですが、いまでは中国の人件費は“アジアトップレベル”と言われています。

内陸部の人件費は比較的安く抑えることが可能ですが、港から遠いところで生産を行っても輸送費などのコストがかかるため、競争力には疑問符がつきます。

国内生産のコストメリットがなくなってしまったことは、中国の経済成長を止める一因になりそうです。

「一人っ子政策」が経済成長に与えた影響

◆少子高齢化

中国では、1979年~2014年まで「一人っ子政策」が実施されていました。

近年は制限が緩和されたとはいえ、今後少子高齢化が進行することは確実で、“少ない労働人口でたくさんの高齢者を支える”構図が顕著になることが予想されます。

労働者一人当たりの負担の増加が見込まれるため、経済成長にも影響があると考えられます。人口動態を短期間で改善することは難しく、その影響は当面継続しそうです。

日本と中国、これからどうなっていく?

ここまで見てきた経済成長と同様に、中国は軍事的にも勢力を広げています。中国はすでに尖閣諸島などの日本の領土を巡って、領有権を主張するなどの行動を起こしています。

また、日本の排他的経済水域に中国海軍の船が侵入する事件も度々起こっており、日中の軍事的な対立が今後本格化する可能性があります。

中国の海洋進出は領土の拡大以外にも、海底に眠る資源を採掘して利益を得たいとの思惑が見え隠れしています。

一方経済の視点から見ると、中国と日本はこれから密な協力関係を築いていく必要があります。かつては日本が支援する側でしたが、いまや中国のGDPは日本を遙かに上回る水準まで成長しました。

東アジアの経済発展や安全保障を担保するために、アメリカや韓国、オセアニア諸国などと連携して外交関係を方向付けていく必要があります。

DJ Nobby

経済キャスター、金融コメンテーター、ラジオDJ

(※写真はイメージです/PIXTA)