様々な要因によって世界的なインフレが起こり、将来の展望が正確に描けない昨今。自身の資産を守り、未来につなげていくためには、どのような行動を取ればいいのでしょうか。複眼経済塾の取締役・塾頭、エミン・ユルマズ氏が、著書『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)から、世界経済の展望と、日本経済にに潜むチャンスについて解説します。

中国で2番目に大きい不動産業者が「株価大暴落」を招いた根本原因

絶好調だった米国の株価がいよいよ調整局面を迎えたのと同様に、中国でも最近までかなり株価の調整が行われていて、相場が荒れている。特に香港株は顕著だ。

中国市場で何が起きていたのか、その背景、さらには象徴的な企業をクローズアップしてみたい。

中国で2番目に大きい不動産デベロッパーで、何度も「破綻か?」とマスコミを騒がせていた恒大集団(エバーグランデ・グループ。深圳市に本拠を置く。登記上の本籍地はケイマン諸島)という会社の株価の推移を追ってみよう。

2020年7月に25.8香港ドルだったのが2022年2月時点では1香港ドル台まで急落している。2021年に入ってすぐから前年7月の3分の1以下に下がっている。

同社はフォーチュンのグローバルランキング500のなかで152位に入るほどの大企業だった。中国各地に不動産開発プロジェクトをもっていて、1,300以上のプロジェクトを同時進行していた。

北京や上海においてもプロジェクトをもっているが、どちらかというと地方都市の住宅やオフィス開発に重点を置いていた。

なぜ恒大集団の株価がこれほど下がっているのか。実はクレジットクランチ(信用収縮)が起きているからで、要はキャッシュ不足に陥っているのである。もともと数年前から同社のクレジットクランチの問題が指摘されていた。

中国経済の高度成長が減速してくるなか、当然ながらこうした不動産デベロッパーの利益率も減ってきた。

日本のバブル期の二の舞を演じた、中国2番目の不動産業者

本来ならば、恒大集団はいろいろなアセットを売却して事業を縮小し、負債を返すべきであった。ところが恒大集団は不動産以外の事業に進出した。たとえばEV事業、インターネット事業、テーマパーク事業、飲料水事業等々、枚挙にいとまがない。

このパターンは日本のバブル時とまったく同じといえる。当時の日本企業も本当は撤退すべきだったところをどんどん手を広げてしまった。そんなことを繰り返すなか、このタイミングで恒大集団は相当な資金不足に陥り、資金繰りに四苦八苦するようになってきた。株価はずっと下がり続け、かつ相当な借金を抱えるに至った。

不動産業者が未完成の物件をミニチュア資料やモデルルーム展示で販売するリスク

ドル建てで発行している社債が多くある。2025年償還の社債発行価格が1米ドルから45セントまで、つまり半値以下まで落ちている。米国の格付け機関のS&P500やフィッチは恒大集団の社債の格付けをほぼジャンク債並みに落としている。2021年12月17日にはS&Pは「SD」に、フィッチは「RD」へといった具合である。

ということは、もうそろそろデフォルトしてもおかしくはない。彼らはそんな評価を下していたのである。

これは恒大集団に限らず、また中国に限らず、どの国においても最終的には、不動産バブルは必ず弾けるということをわれわれに教えてくれている。弾けない不動産バブルというものは歴史上なかったわけだから。

中国の住宅セクターにおける過剰投資は、すでに十数年前から危険視されていた。そもそも住宅があり余っていて売れない。2割以上が空室で、「鬼城(ゴーストタウン)」という中国語も流行ったほどだった。

さらにこの手の不動産デベロッパーは、(日本やトルコにも同様のデベロッパーがあるのだが)、まだ住宅が完成していないプロジェクト段階でその物件を売却してしまう。中国でもよくあるのだが、デベロッパーが完成予定のミニチュアモデルやモデルルームを展示して、予約説明会の段階で物件を売り切ってしまうのである。

しかしバブルが弾けて不動産会社の資金繰りが危うくなれば、物件が完成せず、購入者は多大な損失を被るケースもあるのだ。

こうした問題も孕んでいることから事態は深刻なのだが、恒大集団が実際にどれくらいの負債を抱えているのかがわからなかった。恒大集団側は、払うべき負債(金利)は11兆円程度と示しているのだが、市場側はもっと多いはずだと捉えていたようだ。

恒大集団は大きい企業だから目立っているだけで、これは氷山の一角にすぎない。同じような問題に直面している中国企業は山ほどある。

ちなみに2021年9月16日の香港市場は10ヵ月ぶりの年初来安値を付けたのだが、その主因は恒大集団の主要子会社の社債取引が同日に停止され、不動産セクターへの警戒感から売りが広がったためだ。

中国の不動産バブルはとっくに弾けている

瀕死の恒大集団は、創業者の自宅豪邸をオリックスの抵当に入れたり、プライベートジェット子会社を売却するなどしてデフォルトを先延ばしにしていた。おそらく許家印会長はそうしている間に奇跡が起きると思っていたのだろう。

しかし、恒大集団のデフォルトは避けられないものだろう。問題は、見えている借金以上に、恒大集団が貸借対照表計上されていないオフバランスでの借金を抱えていることである。何といっても中国でナンバー2のデベロッパーなので、実際に延命が断たれたときの影響は計り知れない。

おそらく中国共産党政府が一番懸念しているのは、完成前の物件に対して頭金を入れたり、全額を入れてすでに家を購入した人たちへのケアだ。そういう人が150万人ほどいると言われている。

そうしたオーナーたちの物件の建設工事は、もう止まっている。つまり、このままでは家が完成する見込みはまずない。そうなると、中国政府は何とか別会社に引き継がせて、個人の住宅だけでも完成させて引き渡すというようなことをする可能性もある。

ただし、その他のショッピングモール建設などのプロジェクトに参加している企業への支払いについては、確実に焦げつくだろう。加えて、国外の投資家が買った恒大集団のドル建て社債約2兆円も焦げつく。

ちなみに、日本のGPIF年金積立金管理運用独立行政法人)も約100億円買っていた。まあ、100億円程度であればたいしたダメージではない。ポイントはGPIFでさえ恒大集団の社債を持っていたという事実で、それほど恒大集団は大きな企業であったということだろう。

あまり指摘する人がいないのが不思議なのだが、経営不振なのは恒大集団だけではない。2021年秋以降、中国のデベロッパーやゼネコンが次々倒れていた。中国メディアが騒がないだけで、毎日のように静かに消えているのだ。無論いまもその状況は続いている。

中国メディアは騒いでいないが、中国の不動産バブルはとっくに弾けている。中国は民主国家ではないから、自由に報道できない。ご存じのとおり、中国にジャーナリズムは存在しない。中国メディアとは、基本的に中国共産党の宣伝機関と捉えるべきである。

※2021年11月、中国恒大集団はドル建て債の利払いに困窮し、デフォルトしました。

1本の大木が焦げつき、森が全焼する可能性も

さらに中国の場合、不動産投資がGDPの14%を創出、土木建設業関連分野を含めると約30%にもなるのが問題だ。

やはりこういう歪んだビジネスモデルはどこかで行き詰まるものだ。トルコでも行き詰まったし、他の新興国でも行き詰まったし、中国でも当然ながら行き詰まることが予測でき、実際にいま行き詰まっている。

もう一つ、不動産関連企業は不動産物件を山ほど保有しているから、借金返済や関係会社に対する支払いのため、保有物件の売却を迫られる。

しかし恒大集団ほどの巨大企業が膨大な保有物件を売却しようと動けば、不動産市場全体の相場価格が大幅に下がるのは必至だ。恒大集団の清算で中国の不動産バブル崩壊が終わるのであればいいが、そうはいかない。これだけ焦げついて不動産市場がいったん冷えてしまったら、中国の不動産市場はこれから30年動かないかもしれない。

加速する高齢化が不動産業界を追い込む第2のリスクに

もう一つ深刻なのは、今回の中国の不動産バブル崩壊がデモグラフィクス(人口動態)が悪化しているなかで起きたことである。

これから中国社会は猛烈な勢いで高齢化していく。2021年の出生数は1,062万人で、建国以来もっとも少ない。これまで投資も兼ねて住宅を目一杯つくってきたけれど、ほとんどが空室。そのことも中国の不動産市場を冷やしている理由である。

一方で、不動産は一番裏金が動くビジネスであることから、汚職官僚がお金をもらいやすい。特に中国の場合、官僚がすべての建設許可を出していた。

トルコもだいたい、収賄側のボスが総利益の2割をもらうという話だった。いまバブル崩壊の真っ最中の中国の場合、今後長期間の痛みに苦しむことになる。

これらを勘案すると、中国はこれからかなり大変な時代に、荒れる時代に突入したのではないか。

まだまだ中国の不動産バブル崩壊は始まったばかりなので、これからはいままで調子に乗ってやってきた莫大なツケを払わされることになるのだろう。結局不動産バブルは社会に何のメリットももたらさない。

ただ中国の不動産バブル崩壊を俯瞰してみると、不景気な中国経済からお金が抜けて日本に向かいやすい環境ができるわけで、日本には中長期で追い風になるだろう。

注)2021年11月、恒大集団はデフォルトしました。また、この記事を書くにあたって参考とした『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)は、2022年3月に発売された物であり、現状とは多少異なる点がある可能性があることをご理解ください。

エミン・ユルマズ

複眼経済塾取締役・塾頭

著者画像撮影 Rikimaru Hotta

(※写真はイメージです/PIXTA)