ロックの大きな醍醐味(だいごみ)の一つにボーカリストとギタリストの丁々発止がある。スポットライトを浴びた彼らが、いかにバンドを引っ張っていくか。それがオーディエンスの熱狂のレベルを決める。今も続くベテランバンドに限定してもローリング・ストーンズミック・ジャガーキース・リチャーズ、エアロスミスのスティーヴン・タイラージョーペリー、ガンズ・アンド・ローゼズのアクセルローズスラッシュレッド・ホット・チリ・ペッパーズのアンソニー・キーディスとジョン・フルシアンテなどなど、惚れ惚れするような名コンビは数知れない。U2のボーカリストであるボノと、ギタリストのジ・エッジが織りなす黄金のコンビネーションも、活動の初期から変わることがない。

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ギネス級の経歴…U2とは?

とはいえU2の取り組むロックは汗が飛び散るとか、やんちゃテイストワイルドに迫る類のものではない。ボノは思慮深い歌詞をかみ締めるように歌い、ジ・エッジエフェクター(ギターとアンプの間につないで、電気的に音を変化させる装置)を楽器の一部のように駆使し、空間を音でそっと満たすようにプレイする。繊細で、奥深く、重厚なU2ミュージック。だが、そこに深く根付くロックのダイナミック感、伝統への敬意(“ブルースの神様”ことB.B.キングとも一体感溢れる共演を残している)にも触れてしまうと、あとはもう彼らの音楽にハマるしかない。

22回の「グラミー賞」受賞(ノミネートは46度に及ぶという)はギネス級であり、“一度のコンサートで最も多くの観客を集めるグループ”のトップクラスでもある。スタジオ録音のアルバムはこれまで14作を発表、1987年発表の『ヨシュア・トゥリー』の売り上げは2500万枚超という。荒っぽい計算かもしれないが、この87年の人口は50.24億だから、約200人に1人がこのアルバムを持っていた計算になる。国民的、いや、地球的なロックバンドがU2なのだ。

そして3月17日(金)からU2の顔と言える2人、つまりボノとジ・エッジに密着したスペシャルプログラム「ボノ & ジ・エッジ - A SORT OF HOMECOMING with デイヴ・レターマン」がディズニープラス「スター」で独占配信される。個人的にはレターマンの起用が内容の鍵であるようにも感じているが、どうか。彼は2005年までアメリカを代表するワイドショー「レイト・ショー・ウィズデイヴィッドレターマン」のホストを務めていた人物で、世界三大レースの一つ“インディ500”で有名なアメリカ中西部のインディアナインディアナポリス出身。しかしU2の面々とは25年もの親交があり、今回、彼らの故郷であるアイルランド・ダブリンへの旅に同行した。鋭い聞き手であり、ジョークにも堪能なレターマンがボノとジ・エッジからどんな話を聞き出すか、いくらワクワクしても裏切られることはなさそうだ。

■音楽ドキュメンタリーの名手が監督を務める

むろんU2のライブパフォーマンスも含まれているとのことだから、目下の最新アルバム『ソングス・オブ・エクスペリエンス』や2019年の来日公演終了以来続く“U2ロス”を癒やしてくれるに違いない。「バックコーラスの歌姫(ディーバ)たち」で第86回アカデミー長編ドキュメンタリー賞に輝いたモーガン・ネビルが監督を務めているのも安心だ。音質も表情もカメラワークも、音楽好きの心を大いに満たしてくれるはずである。

ところで“U2”を、あなたは何と読みますか? 日本では“ユーツー”と呼ばれているが、もっと発音にこだわるならユーの部分は唇をすぼめて前に出すような感じ、2はトゥーだろう。これがスペイン語圏になると“ウードス”と発音され、フランスでは“ウードゥー”になるのかもしれぬ。1976年にラリー・マレン・ジュニアが出した“バンドメンバー募集”の張り紙を見たボノ、アダム・クレイトン、ジ・エッジとその兄ディック・エヴァンスが合流してジャカジャカやったのがことの始まりで、78年のディック脱退(ヴァージンプルーンズ加入)を受けて、4人でU2をスタートさせた。

グループ名がついたきっかけについては諸説あるが、アルバムデビューは1980年。まだ“ザ・ナントカズ”的命名が当たり前だった時代、この記号のようなネーミングは相当なインパクトだったに違いない。以来43年、解散もなく、メンバーの変更もなく、しかも第一線に立ち続けている。この「ボノ & ジ・エッジ - A SORT OF HOMECOMING with デイヴ・レターマン」は、ロックファンはもちろん、円満な人間関係を末永く築いていきたいと考える人にも、示唆に富みまくる一作になるであろうことを約束したい。

◆文=原田和典

「ボノ & ジ・エッジ - A SORT OF HOMECOMING with デイヴ・レターマン」は、3月17日(金)よりディズニープラスのスターで独占配信開始/(C) 2023 Disney and its related entities