サステナビリティへの貢献は、いまや企業の主要課題。利益につながるという考えも定着してきた。そうした中、企業のサステナビリティ活動が生活者に伝わるようにするための「ブランド戦略」が重視されている。参考になるのが「自社のサステナビリティ活動が、生活者にどう感じられているのか」を指標にした「ジャパンサステナブルブランド・インデックス」(JSBI)だ。2023年2月、最新版が「サステナブル・ブランド国際会議2023」(主催・博展)で公表された。調査・分析を主導した青木茂樹・駒澤大学経営学部教授と鈴木紳介・博展執行役員に注目ポイントを聞く。女性・若年層の持続可能な開発目標(SDGs)への関心が顕著になったほか、1位の企業の交代や、評価される業界のシフトも見られたという。

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サステナビリティ活動に「ブランド」の意識を

――企業のサステナビリティ活動の本質はどこにあり、ブランド戦略はどう関わってくるのでしょうか。

青木茂樹氏(以下敬称略) 人類が活動をすると必然的にエントロピーは増大する、つまり乱雑さが増していくので、できるだけそれを低減しようとすることが本質です。そのために、資源を採っては捨てるだけの一方通行型でなく、回して使っていく循環型の考えに移行していかなければなりません。かつて多くの企業がサステナビリティのために費用を投じたところで利益を生み出せるのかと疑っていました。しかし、いまや企業活動にサステナビリティ活動を入れることは世界的潮流です。

 では、企業はどうやってサステナビリティ活動を進めればよいか。ここで重要になるのがブランドです。なぜなら企業活動は、生活者たちのブランド支持により成り立っているからです。サステナビリティ活動をする企業としてのブランドを生活者たちに支持してもらえれば、企業は生活者を巻き込む形で、社会全体のサステナビリティ実現に向かっていくことができます。商品・サービスを選んでもらうことにもつながります。

女性・若年層でSDGs社会テーマへの関心が顕著に

――「ジャパンサステナブルブランド・インデックス(JSBI)」を2020年から毎年発表しています。指標の特徴はなんでしょう。

鈴木紳介氏(以下敬称略) 「生活者から企業がどう見られているか」という観点のサステナビリティ指標であるという点です。企業努力がどれほど生活者に伝わっているのかという評価軸から、企業のサステナブル・ブランド戦略に生かしてもらったり、サステナブルな社会の実現を目指してもらうという狙いがあります。指標の対象となる企業ブランド数は306。生活者の回答サンプルは1万5300です。

――最新版の「JSBI 2022」では、どこに注目していますか。

青木 まず回答者、つまり生活者たちのサステナビリティの認知や関心の度合に目を向けると、SDGsの認知度は89%になりました。前年も84.2%と高く、ほぼフルの状況と言えます。しかしながら、SDGsの内容を知っている人の割合はさほど増えていません。今後、消費者の行動変容をいかに企業のブランドで促していくかが焦点と言えます。

 また「あなたは次に挙げることがら(SDGs17目標)を企業が取り組むことは重要だと思いますか」という問いの回答を男女別で見ると、あらゆる項目で女性の意識が高い傾向が顕著になりました。とくに、「5.ジェンダー」「10.不平等是正」「1.貧困」といった社会問題について、男性よりも女性の方が重視していることがうかがえます。

 若い年代のサステナビリティへの関心の高さにも注目しています。50代以上の次にSDGsを重視しているのが10-20代です。とくに「4.教育」「5.ジェンダー」や「17.パートナーシップ」などは、ほかのどの世代よりも高くなっています。彼ら・彼女らの世代特有の「目覚め」があるのかもしれません。5年後や10年後には、生活者の中心的な層になるわけですから、企業は考慮に入れた方が良いと思います。

イメージと行動評価での総合トップは良品計画

――企業のサステナビリティ指標についてもお聞きします。まず、どのように指標の数値を出すのですか。

青木 回答者である生活者たちに、その企業のSDGsへの貢献のイメージについて評価してもらって得点化した「SDGs貢献イメージ得点」と、実際の各種アクションについて評価してもらい得点化した「SDGs評価得点」を足し算するというものです。イメージとアクションと、両方の要素を取り入れている点もJSBIの特徴と言えます。

――「JSBI 2022」の結果はいかがでしたか。

鈴木 「SDGs貢献イメージ得点」+「SDGs評価得点」の総合的な指標では、1位が良品計画、2位がトヨタ自動車、3位が住友林業でした。良品計画は初の1位でしたが、毎年、トヨタ自動車とともに突出しています。住友林業は毎年順位を1つずつ上げています。

青木 前回までは、コロナ禍での調査だったこともあり、精密機器や医薬などの分野の企業が評価される傾向にありました。今回は、日常の生活用品の分野で企業への評価が高まるなど、若干のシフトが見られます。

――SDGs貢献イメージ得点がSDGs評価得点よりも顕著に高い企業は、結果をどう捉え、行動に移していったら良いでしょうか。

青木 実質的な活動内容が生活者に伝わるように行動や説明をしていくとよいと思います。貢献イメージ得点は高いのですから、コミュニケーションの取り方は優れているものと考えられます。もちろん、100点を超えている企業は総合的にも優れた実績であると言えます。

積極的なサステナブル・ブランドの発信を

――今後、企業はサステナビリティの戦略においてどう打って出るべきでしょうか。

青木 経営者が自ら、企業パーパスの一環としてサステナビリティ活動のあり方を強く宣言し、マーケティングや営業などの各部門に伝わるようにしていくことが大事だと思います。かつて、企業の社会的責任(CSR)を巡る取り組みは企業内のメインストリームにありませんでした。いまや、サステナビリティ活動はCSRの範疇にとどまらず、マーケティングの重要検討事項になってきています。経営者が本気であることを示すと、現場の担当社員たちも動きやすくなるのではないでしょうか。

鈴木 サステナブルなブランドになるために必要なのは、パーパス、テクノロジーサイエンス、コラボレーションとコクリエーション、ストーリーテリングだと申しあげています。とくに、パーパスとストーリーテリングを戦略的にしっかりと定めて発信していけば、生活者のみなさんに「サステナブルなブランドだ」と認識されるようになっていくと思います。ぜひ、発信することに積極的であってほしいと願っています。

 


【JSBI上位3社共通のテーマは「社内エンゲージメント」】

「JSBI 2022」で3位となった住友林業、7位のセブン&アイ・ホールディングス、10位のウォルト・ディズニー・ジャパンの各サステナビリティ推進担当者が2023年2月15日、「サステナブル・ブランド国際会議2023」のセッションに登壇し、サステナブル・コミュニケーション戦略を披露した。

 3人からテーマとして示されたのが、「深いつながり」「思い入れ」「巻き込み」などの語感を持つ「エンゲージメント」だ。顧客や株主のみならず、社員・従業員とのエンゲージメントを構築することで、サステナビリティ活動を推進しようとする姿勢がうかがわれた。

 「社員からすると、自分が事業部で取り組んでいることが何に役立っているか感じられることが大事。(自社の)新聞広告を社員にも見てもらい、勇気や会社への誇りを持ってくれたらと思っている」(住友林業 執行役員 サステナビリティ推進部長・飯塚優子氏)

 「社員とのエンゲージメントは重要課題。そのスコアが上がることで、お客さまにより良いフィードバックができ、企業の成長につなげられる。従業員やフランチャイズのオーナーと話すときも、ご家族ともエンゲージするつもりでいる」(セブン&アイ・ホールディングス 執行役員 サステナビリティ推進部・釣流まゆみ氏)

 「社員とエモーショナルなコミュニケーションを図り、一人ひとりのやらなければという気持ちを、やりたいという気持ちにしていくことが大事。志は高く、敷居は低くと心がけている」(ウォルト・ディズニー・ジャパン コーポレート・コミュニケーションズ エグゼクティブディレクター・秋月希保氏)

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