存続の危機に立つ地方ローカル鉄道の廃止は避けられないのか。ムーミン列車やレストラン列車などを走らせていすみ鉄道千葉県)の知名度を一気に高め、今はえちごトキめき鉄道新潟県)の社長を務める鳥塚亮氏に、ローカル線の可能性を聞くインタビュー連載。その第2回(中編)をお届けする。

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(池口 英司:鉄道ライター・カメラマン

お金のない鉄道会社をどう活性化するか

──日本では少し前から、「町おこし」とか「活性化」といった言葉が使われて、衰退傾向にある自治体や、交通機関の活性化策が探られるようになりました。けれども、これらはいずれもぜい弱な経営基盤の上にあるわけですから、掛け声だけで問題が解決するはずがない。

鳥塚亮・えちごトキめき鉄道社長(以下、鳥塚氏):お金がない鉄道会社が活性化を手掛けようと考えたとして、それでは何ができるのか?

 ひと昔前は「SLを動かそう」というのが錦の御旗のごとく扱われていましたけれど、蒸気機関車の動態運転には莫大な費用がかかります。

 そこで私は、第三セクターの運営となったいすみ鉄道にJR大糸線から古い気動車を持ってきました。

 では、国鉄形の古い車両を持ってきさえすれば、それで喜んでもらうことができるのか?

懐かしい車両を使うだけでは力不足

──恐らく、そうはなりませんね。

鳥塚氏:私がいすみ鉄道に(旧国鉄の)キハ52形を導入した時には、まだ全国にたくさんの国鉄型車両が残っていましたし、今は大人気のキハ40形にしても、あちこちのローカル線第三セクター鉄道で運転されていました。

 でも、全国どこでも人気が出たのかというと、そうではない。なぜか?

 全国の多くの国鉄形車両には、付加価値がつけられていなかったのです。古い車両に価値をつけるにはレストラン列車にするなど「磨き上げ」が必要なのです。私はそうした自分の手の内をすべて公開しました。

 なぜ、公開したかというと、(ほかの鉄道会社とは)「商圏」が重ならないからです。すると、全国で観光列車や、「グルメ列車」が運転されるようになった。それで良いのです。

 活性化の動きが出てきたことで、全国のローカル鉄道で単純に「赤字だから廃止しよう」ということが言われなくなった。ローカル線の在り方が見直されるようになったのですから。

──鳥塚さんは、航空会社(英ブリティッシュ・エアウェイズ)にお勤めでした。それがなぜ、鉄道会社に転出したのか。もちろん、ご自身が鉄道好きだったということもあるのでしょうが、航空会社の方が、何かと「割が良い」ような気もするのですが。

鳥塚氏:もともと、私がいすみ鉄道の社長公募に応募したきっかけは、「ローカル線の使い方を皆があまりにも知らない」と感じたからです。

「地域の需要だけで維持」と考えてはいけない

鳥塚氏:地域の需要だけで、ローカル線を維持したいという。けれども、それは違うでしょう、と。

 廃止になった国鉄ローカル線第三セクター鉄道に転換される時には、地元に「転換交付金」が支給されます。これは路線の距離に応じて額が決定するので、北海道のように長大なローカル線第三セクター鉄道に転換された時には、交付金の総額も莫大なものとなります。

 交付金は、もちろん、転換後の代替交通機関の運営に役立てられるべく支給されるものですが、多くの自治体では、このお金を有効利用する術を知らず、結局、皆で「山分け」して終わりです。

──それは交付金支給の本来的な意味からはかけ離れているように感じます。代替交通機関が確保されて、その恩恵を利用者が受けるために支給されるのが「転換交付金」なのでしょうから。

鳥塚氏:私がいすみ鉄道の社長に就任した時は、国鉄から転換された第三セクター鉄道が廃止から一定の年月を経ていて、その先の10年が第三セクター鉄道にとってのひとつの変革期に差し掛かるだろうと感じられた時代でもありました。

 それであれば、私の手でローカル線の使い方を提案してみたい。単に交付金や、補助金に頼って運行を続けるのではなく、鉄道会社自身の手で新たな需要を創出することで、地域の足を守ってみたい。そう考えたのです。

県庁所在地を通らない路線をどう成立させるか

──いま、報道されている全国の赤字路線を見ていると、誰もが乗客がいない、だから運営が続けられない。運営を続けたいと考えるのであれば、お金を出せ、その繰り返しに終始している印象があります。その理屈では解決がつかないに決まっています。それはおそらく、存続を巡って議論をしている人たち自身も知っている・・・。

鳥塚氏:次に私がえちごトキめき鉄道に来た時は、今度は(新幹線開業に伴いJRの経営から離れた)並行在来線にとって、これからの10年が一つの山場に差し掛かると考えたからです。

 それぞれの路線が有する施設が、これから大規模な修繕を必要とする時期に差し掛かります。全国にいくつかある並行在来線の中でも成績が悪いのがえちごトキめき鉄道でした。

 この鉄道は新潟県を走りますが、県庁所在地を通っていません。県庁所在地を通らない並行在来線なんて成立するはずがありません。

 ただ、えちごトキめき鉄道貨物列車が通る大動脈を所有しているわけで、この条件を活かして、運営を潤滑に行うできるようになれば、たぶん、これはたぶんという言い方になりますけれども、日本全国の並行在来線が抱えている問題を解決することができるのではないでしょうか。

──大井川鉄道で保存蒸気機関車の運転を成功させた白井昭さん(元副社長)が、似たようなことを言っていました。「何でもいい。一つのプロジェクトを成功させろ。そうすることで、日本の鉄道の姿が変わる」と。

鳥塚氏いすみ鉄道も、営業成績は下から数えた方が早いような路線でした。営業成績でいうのであれば、わたらせ渓谷鉄道や、真岡鉄道の方がはるかに良い。いすみ鉄道を運営できるようになれば、全国のローカル線を運営できるようになるはずです。

 えちごトキめき鉄道も同じ考え方です。日本全国の並行在来線の運行が潤滑になれば、この国の物流をしっかりと支えることができるようになるのです。

なぜ高校生向けの自習室をつくったのか

──えちごトキめき鉄道の社長になって、まず手掛けたことは何でしたか?

鳥塚氏:大掛かりなことはできなかったのですが、まず直江津駅に高校生のための自習室をつくりました。毎日利用しているお客様にサービスを還元することが、鉄道会社として当然のことですから。

 その次に、夜行列車の運転を始めました。第三セクター鉄道の夜行列車というのは、国鉄時代に運転されていたように長距離を走るものではなく、短い距離を夜通しかけて往復することで、往年の「夜汽車」の雰囲気を味わってもらおうという趣向です。これはいすみ鉄道でもやったことがあるので、導入はスムーズでした。

 いまでこそ、同じ趣向の列車が各地で運転されていますが、これを初めて運行したのはいすみ鉄道です。

幹部は自腹を覚悟した夜行列車だったが

鳥塚氏えちごトキめき鉄道でも夜行列車は満席になって、会社内でも「なんで、このような需要があるのだろう?」と話題になったものです。

 年末の土曜日に夜行列車を運転し、ボックス席ひとつに3人まで利用できて、料金は1万8000円。車内で弁当が出されて、カップラーメンが出されて、ただ、それだけです。

 列車は同じところを行ったり来たりするだけ。私がこの列車の運転を発案した時には、幹部連中は皆「年末は列車の中で寝るからな」と言い合ったそうです。つまり、自分たちが申し込まなければ満席にならないと考えたのですね。

──俗に言う「タコ足」というやつですね。自分たちで切符を買う。

鳥塚氏:この列車の運転を告知したら、切符は発売開始から1分間で完売となりました。ボックス席の販売数は20ボックスでしたから、何も特別なことをせずとも、ひと晩で36万円の増収です。

コロナ禍では線路の石を缶詰にして販売

鳥塚氏:当社の看板列車である「えちごトキめきリゾート雪月花」でも、1列車あたりの売上は30万〜40万円というところです。けれども「雪月花」の運転には大変な手間がかかります。料理だって手配しなければならない。

 それに対して、夜行列車はやることはほとんどありません。要員の手配ができれば、あとは弁当とカップラーメンを用意するだけで良いのです。

 2020年2月にも運転して、これも満席になったところで、コロナ禍が本格的になりました。この時期にはお客様の数が激減したのですが、レトルトカレーを商品化し、私が撮ったえちごトキめき鉄道前面展望をYouTubeにアップして、会社のホームページにリンクさせました。そうして誰もが「自宅にいながら乗った気分を楽しめる」ようにしたのです。

 その次に、銚子電気鉄道さん、天竜浜名湖鉄道さんとコラボして線路の石を缶詰にして販売、マスクも売って、この時期は「巣ごもり需要」を喚起するように努めました。

──もしも、コロナ禍がなければと、日本中の人が嘆いていた時期でした。

鳥塚氏:2020年はそのようなことをやりました。同時に、この年の暮れからは、413系455系急行型電車を譲渡してくれないかと、JR西日本との交渉を始めています。

鳥塚氏:2021年になったら、今度は大雪に見舞われました。この時は7日間列車が止まったのですが、学校の試験に日には、列車を動かすことができました。

 ほかに、和歌山の公園で運転されていた圧縮空気で動くD51蒸気機関車を借り受ける契約を結びました。和歌山から直江津までこの機関車を陸送して、2021年の春からえちごトキめき鉄道が運営するテーマパーク「直江津D51(デゴイチ)レールパーク」での運転を始めています。

 そして、8月からは、晴れてJR西日本から譲り受けることができた413系455系の運転を開始しています。

市長に「経営者失格」と言われたことも

──コロナ禍がいちばん人を苦しめていたころは、街がゴーストタウンのようになっていました。鉄道も乗客減に苦しめられたと聞いていますが、その間にも、さまざまなプロジェクトは進行していたのですね。

鳥塚氏:2021年に始めた「D51レールパーク」と、急行形電車のプロジェクトがある程度軌道に乗ったように見えたので、2022年には「雪月花」が車内で提供する料理のメニューをリニューアルしています。

 なぜ、このようなプロジェクトを続けているのかというと、えちごトキめき鉄道は地元からの注目度が低いと以前から感じていたからです。

 沿線である上越市糸魚川市妙高市の市長はみんな「この鉄道は90%新潟県が出資している県営鉄道である」という見方をしていました。

 妙高市長からは「お前が経営者だろう。この赤字を解消できないのなら、お前は経営者として失格だ」とはっきり言われたくらいです。「ちょっと待って下さい。ここは並行在来線で、新幹線の建設にあたって、沿線の市が県と協力しながら、しっかり責任をもって運営しますという約束の下に新幹線建設が始まったのでしょう?」と、私も反論しました。

地元の人に「頑張っている」と理解してもらう

鳥塚氏:そして過去の資料から2001年に自治体の首長が国との間でサインしている書類を見つけ出し「このような約束を交わされているではないですか?」と、聞き返してみたところ、それから私と市長はずっと喧嘩を続ける仲となりました。「なぜ今さらそんなことを蒸し返すのか。みんな忘れているのに。」といった感じです。この市長さんは、今はもう退任されていますが。

 当時、役所の課長さんの1人から「鳥塚さん、その資料をよく見つけましたね」と言われました(笑)。

──日本という国の地方行政というものが、そのような考え方で成り立っているということなのでしょうね。

鳥塚氏:観光急行を運転したり、「雪月花」を運転したり、「D51レールパーク」をやったりするのは、あんなに頑張っているんだということを地元の人に理解して頂き、コンセンサスを得て、えちごトキめき鉄道の維持管理のための仕組みづくりをするのは当然のことであると考える、その土壌作りであるわけです。

──今はプロ野球の球団が、本拠地を置く都市への密着を強く前面に打ち出し、集客のアップに成功しています。

鳥塚氏:鉄道だって同じですよ。本来的には鉄道というのは地元の人しか利用しない。

鳥塚氏:ところが今は、自動車の運転免許を取ると、それを返納するまで鉄道に乗らなくなる。18歳から75歳までの人は鉄道に乗らなくなってしまう。

 この方々に鉄道に乗って頂く方法はあります。列車の中でお酒を飲んで頂ければいい。駅前の酒場でも構いません。お酒を飲めば、鉄道に乗ります。乗らざるを得ない。

JRが地域と会話しなくなった

──鉄道には車には備わっていない利便性が備わっているのだと。

鳥塚氏:国鉄が隆盛だった時代に、直江津には800人の鉄道員が在籍していました。ということは、その家族まで含めれば3000人、4000人という話になります。その時代を知っている人、その子供たちが、JRが発足した途端に知らん顔をするようになりました。それは鉄道にかかわることができなくなったからです。JRが地域と会話をしなくなった。

 でも、もうそういう時代ではないでしょう。JRが今度はえちごトキめき鉄道になって、皆の手に戻ってきたのですよと。今はそういう時期だと解釈しています。

 ですから、地元で通学に使っている高校生であれば、急行料金なしで急行にも乗れますし、「能生駅に急行が止まるように」といった地域の要望は拾い、地域の方の利便性を考える。支援をして頂ける自治体には、当然、鉄道からのお返しもします。

新卒社員が定年まで安心して働ける職場に

鳥塚氏えちごトキめき鉄道が永続的に安定経営を続けられるような仕組み作りをしてきたということです。

 いま、毎年の赤字は、だいたい7億円というところです。沿線人口は25万人ですから、1人が1カ月80円を出してくれたら、1年でだいたい2億円。これを沿線の市が負担するということになれば、残りは県の拠出が期待でき、えちごトキめき鉄道は新卒の社員が、定年まで安心して働くことができる職場になる。

 そうはいっても、その目論見通りの数字が達成できないということであれば、それは観光輸送などで補っていこうと考えて、今は沿線の首長と交渉を続けているところです。

(後編に続く)

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