日本の研究者にとって、研究持続のための“命綱”となるのが「科研費」です。科研費とは、文部科学省が公募している補助金のこと。この「科研費」を巡るシビアな現実と、そこから見える日本の問題点について、東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師が解説します。

「科研費」は研究者の“命綱”

研究とひとくちにいっても、基礎研究から臨床研究までその内実はさまざまです。一般の補助金の多くは研究対象が決まっていることが多いため、優遇される研究もある一方、なかなか研究費を獲得できない分野も出てきてしまいます。

簡単にいうと、短期的な利益や目的がわかりやすい「創薬」や「IT事業」などは、一般の起業でも研究補助金を出すケースが多いです。しかし、その創薬さえも採算性の悪さから資金の注入があまり行われておらず、子どもに使用される頻度の高い薬でも、正確に用法用量が定められたものはわずか20.4%程度しかありません。この状況には、小児科医として歯がゆさをおぼえます。

また、人文学や社会科学など、成果が長期でないとわからない分野などは、私的に補助金が出されることは少ないでしょう。

そこで、「科研費」の出番です。科研費とは「科学研究費助成事業」(科学研究費補助金)の略で、人文学や自然科学をはじめ、あらゆる分野・あらゆる種類の学術研究を発展させることを目的とする「競争的研究費」のことを指します。日本学術振興会という公的機関が運営している助成事業のひとつです。

科研費は「分野や種類にかかわらず誰でも応募可能」な点が最大の特徴であり、どんな研究をされている方でも獲得のチャンスがあります。

さらに、科研費はその「金額の大きさ」も魅力の1つ。令和4(2022)年度の日本学術振興会の予算額は、2,661億円にも達します。

もちろんあらゆる分野全体の研究費の総額なので、これが多いかどうかは議論の余地があります。しかし、なかなか私的な補助金などを獲得できない分野の研究者にとっては、「救いの手」であることは間違いないでしょう。

科研費の採択率は「わずか25%」

では、科研費に応募したとして、どれくらいの方が補助金を獲得することができるのでしょうか。実は、現実は非常に厳しいもので「約4件に1件」しか採用されません[図表]。

日本学術振興会の資料によると、昨年(令和4年度)の採択率は新規応募件数が92,470件に対して採択は26,435件と、採択率としては28.6%にとどまっています。

また、科研費に応募する際にも、これまでの実績から権威性、補助金の具体的な使い道にいたるまで非常に多くの提出資料が求められます。それを乗り越え応募しても、4人に1人しか採用されない。非常に「狭き門」です。筆者自身、これまで共同研究者として科研費に採用された経験がありますが、初めて採用された日の喜びはいまだに忘れられません。

研究には、材料や実験動物、特殊な装置などさまざまな理由でお金がかかりますので、採択の可否は今後の研究生活に大きく影響してきます。むしろ「科研費がないとしたい研究もできない」という場合も少なくありません。

そのように考えると、約4件に1件しか採択されない現状は、「まだ多くの研究者が救われていない」といえます。

「インパクト重視」の科研費審査…“研究大国”復活のカギは

では、どのような研究が科研費に通りやすいのでしょうか。

一言でいうと、審査員に「いかに研究自体にインパクトがあり、実現可能と思われるか」というところがポイントになります。

つまり、

●インパクトのある研究か ●研究は実現可能か ●実績があるか

などを中心に評価されることとなります。一見まっとうに思えますよね。

しかし、これらを基準にすると「もともと実績を作りにくい研究」「成果が長期にかかる研究」というのはインパクトが薄く、科研費が獲得しにくくなってしまいます。

以上のことを考えると、

●「比較的成果がすぐに出そうな研究」が優遇されやすい ●研究をしようと思っても採択率が低く(約4件に1件)、なかなか研究が始められない

といった科研費にまつわる日本の現状と問題点が見えてきます。

2021年度決算の検査報告によると、税金の無駄遣いや有効活用できていないお金は「約455億円」にものぼるといわれています。

それらを研究にあてるだけで、日本を「研究大国」として発展させ、長期的にみれば経済面でプラスの影響を与えるのではないでしょうか。長期的な視野をもって、税金の配分を正しく行っていただくことを、切に願います。

秋谷 進

東京西徳洲会病院小児医療センター

小児科医

(※写真はイメージです/PIXTA)