新型コロナウイルスの国内流入を極度に恐れた北朝鮮は2020年1月、国境を封鎖し、コロナ鎖国状態に入った。国境地帯に兵力を追加派遣、フェンスや監視用カメラも設置し、国境警備をガチガチに固めた。

そうなれば必要となるのが、部隊への補給だ。だが、旧日本軍を見習ったかのように補給を軽視し、現地調達を命じるのが北朝鮮流やり方だ。それが問題を生んでいる。平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

平安北道の電力監督機関は今月4日、朝鮮労働党平安北道委員会(道党)軍事委員会に報告書を提出した。電気のことなのになぜ軍事委員会なのか。それは、問題が国境警備隊にあったからだ。

電力監督機関は、住民からの通報と地域の送配電所からの報告を受け、国境警備隊に対して抜き打ちの検閲(監査)を行った。その結果、国境封鎖が命じられてからの3年間、部隊、哨所(監視塔)、舎宅などに電線を無断増設して盗電を行っていたことが判明した。

それだけではない。国境地帯に張り巡らされた高圧電流の流れる鉄条網、中央から1日8時間から12時間の運用を命じられた監視カメラに必要な電気も、盗電で賄っていた。その件数は数百件に及ぶ。

例を挙げると、朔州(サクチュ)郡に駐屯する国境警備隊の某中隊は、哨所から中隊長の舎宅まで無断で電線を引き、メーターに使用量が把握されないように工作していた。中隊長はその電気を、別の家に転売し、カネを稼いでいた。

また、別の複数の大隊では指揮部が率先して盗電していた。国境警備に必要な高圧装備用臨時変圧器を設置するにあたって、国の定めた規格を超える大型のものを購入し、電気を無駄遣いし、さらに無断で指揮部の舎宅にまで電線を引いていた。

さらには、軍官(将校)から下戦士(二等兵)に至るまで、民間人からバッテリー、照明器具などを預かり、事務所で無断で充電するサービスを行っていたというのだ。もちろん、金品と引き換えだったことは言うまでもない。

常に電力事情が逼迫している北朝鮮では、このような盗電や、配電担当者がワイロを受け取り、勝手に電気を横流しする行為が横行してきた。

実態のあまりの酷さに「放置できない」と判断した電気監督機関が、実態調査を行い、その報告書を道党軍事委員会に提出したという流れだ。報告を受けた道党は、盗電行為は犯罪であり、漏電などによる火災にも繋がりかねないとして、報告書で指摘を受けた部隊と個人に対して、厳重に処罰すると通知した。

だが、問題の根が、任務遂行に必要な電力すら供給しない国にあるのは明らかだろう。

北朝鮮の兵士。2007年10月、恵山近くの国境で(デイリーNK)