企画書を書いたことはない、あるいは企画書を書くように言われたけど書いたことがないし不安だ。そんな方も安心してください。難しく考えなければ企画書は誰でも書くことができます。これまで1000以上の企画書を書いてきたマーケティングのプロの齊藤誠氏が著書『企画書・提案書の作り方100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。

「難しい」と考えなければ、企画書は誰でも書ける

■「まね」から始めればOK!

「企画書の作成を依頼されたけれど、今まで書いたことがない、どうしよう」あるいは「企画書は苦手だ、うまく書けない」という人もいるでしょう。そんな人でも心配はいりません。企画書を難しいものだと嫌わなければ、誰でも書けるようになります。

私はこれまで、1000を超える企画書を書いてきました。最初に企画書を書いたのは、入社2年目でした。上司から、「取引先に提出する企画書を、1週間程度で作成するように」と言われたのを、今でも覚えています。

広告会社営業職で、それまで上司と一緒に取引先担当をしていましたが、企画書は人任せでした。会社には企画や調査を専門に行うマーケティング局というセクションがあり、たいていの企画書はそこに頼んでいたのです。ところがちょうどそのとき、私たちの取引先を担当する企画マンが海外研修で出張していました。

上司としては、「それほど重要な企画提案でもないから、新人に経験を積ませる意味で書かせてみよう」と考えたのでしょう。「そんなに気張らずに、簡単な企画書でいいよ」という言葉と一緒に、自分の書いた企画書を参考にするようにと2、3種類渡してくれました。

私は当初は戸惑いましたが、天性の楽観主義か、「上司の企画書をまねれば、何とか書けるだろう」と思いました。

最初にやったのは、上司の企画書を5回ほど読むことでした。企画書で使う言葉や、企画書とはどのような形式で書くのかなどを覚え込んだのです。あとは、与えられた課題に対して、どのようにすれば解決できるか、アイデアを考えて3枚程度にまとめました。それがビジネスパーソンになって初めての企画書でした。

でき上がった企画書を上司に見せたところ、合格点をくれました。というのも、自分の企画書をまねたものだということがはっきりとわかるので、けなしようがなかったのでしょう。

企画書は、「難しい」と考えてはいけません。まずは誰かの企画書をまねればよいのです。何回かまねをして企画書を書いていれば、自然と慣れてきて、自分のスタイルも生まれてきます。

■企画書と提案書は違うのか?

「企画書は、アイデアをまとめたもので、社内向け。提案書は外部向けで、取引先の課題を解決する方法を提示するものだ」とする意見もありますが、どちらも同じもので、呼び名が違うだけだというのが私の考え方です。タイトルを「企画書」にするか「提案書」にするかは、大きな問題ではありません。タイトルに「新発売キャンペーン案」とだけ書かれることもあるのです。

ポイント

企画書は、誰かの企画書の「まね」をして書いてもよいので、怖がる必要はない。

企画書を書けば、あなたの発言力も高まる

■「発言力」とは何か

普段から、「私の話はまともに聞いてもらえない」とか、「私の意見に賛同してくれる人はあまりいない」など、不満を持っている人はいませんか。そんな場合、あなたの発言力は弱いといわざるをえません。

反対に、いつも発言が注目され、打ち合わせや会議の結論がその人の発言で決まっていくというようであれば、発言力のある人だといえます。

発言力は、その人の地位や肩書に由来することがあります。これがポジションパワーです。組織において地位や職位が持たせる力で、一定の強制力をもっているので、発言の内容に関わらず、多くの場合はその人の発言に従わざるをえません。

しかし、これはその肩書やポジションがもたらすものであり、その人自身が本当の意味で発言力を持っているとはいえません。肩書が外れれば、その発言力は消えてしまいます。

では、本当の意味での発言力とは何でしょうか。それは、他人に対する影響力であり、共感を得たり、考えを変えさせたり、態度変容をうながしたりする力です。この力を身につければ、あなたは上司から、また取引先からも評価され信頼されます。

発言力は、もともと備わっている能力ではありません。アメリカなどでは、小さな頃から学校でディベートがカリキュラムに組まれているので、自分の意見をきちんと説明する能力が自然と身につきますが、日本では長い間、そうした教育は行われていませんでした。

発言力を養うためには、自分でトレーニングをするしかありません。それにはある程度の時間がかかります。手っ取り早く発言力を高める方法はないでしょうか。

■口頭で説明するより、紙に書く

よく考えてみると発言力とは、口頭での会話能力に限定されているものではありません。紙に書いて説明する方法もあります。

たいていの会議では、あらかじめテーマが決められ、事前に知らされています。それならば、テーマに対する自分の考えやアイデアを簡潔な文章にまとめておき、会議の席で提出してください。つまり、自分なりの企画書を提出するのです。

会話が苦手なら、企画書で勝負しましょう。会議であなたの企画書が支持されれば、あなたの発言力は高まります。

また、会議に企画書を出すことを続けていると、自然と話す内容も理路整然としてきます。何度も企画書を書くことで、筋道を立てての説明の仕方が身についてくるからです。

ポイント

「自分には発言力がない」という悩みは、企画書を書くことで解決する。

自主的に企画書を書いてもいい

会社や働く場で、「こうすればもっと効率的で働きやすくなるのに」とか、「取引先にこんな提案をすれば、今よりも売上が上がるのに」などと考えたことはないでしょうか?

また、「自分にはやりたいことがあるのに、上司がなかなかやらせてくれない」などと、不満に思ったことはありませんか。

そうした場合は、自主企画書を書いて提案しましょう。

企画書は、他人から課題を与えられて作成するものだけではありません。あなたが感じた現状の問題点や、「こうなってほしい」という理想を実現するために書く企画書もあるのです。

あなたがやりたいことを実現するためには、あきらめずに実現に向けてチャレンジする基本姿勢が必要ですが、もうひとつ必要なのは、上司や取引先、あるいは周囲の人からの同意や賛同です。それを得るために書くのが、自主的に提案する企画書、つまり自主企画書です。

たとえば、自社にショールームのある厨房(ちゅうぼう)設備会社で、これまではベテランの社員がオン・ザ・ジョブ・トレーニングでスタッフに接客方法を教えてきたのに対して、あなたは「顧客満足を高めるために、オフ・ザ・ジョブでスキルアップの研修会を開く必要がある」と考えているとします。黙っていても研修会は開かれません。また、口頭で提案をしようとしても上司は忙しく、なかなか真剣に聞いてくれないかもしれません。

こうした場合は、自主企画書を書いて提案すればよいのです。

現状の問題点として、ベテラン社員の質や経験により接客方法が違い、教える内容にばらつきがあるということを挙げます。また、これまでの購入者アンケートから、購入の決定要因は品質や価格だけでなく、ショールームスタッフの説明や接客態度が大きく影響するということを示す資料を作ります。そして、あなたが実施したい研修内容を簡潔に企画書にまとめて提案しましょう。

口頭ではなく書面で出せば「正式な提案」という形になりますし、上司の時間のあるときに見てもらえるはずです。売り上げに直接結びつく提案であれば、採用される確率は高いといえます。

取引先に対しても、積極的に自主企画書を書きましょう。仕事の依頼があるのを待っているだけでなく、「何か現在抱えている問題はないか」「取引先にメリットになることはないか」「こんなことをやりたい」など、さまざまな角度から考え、企画書としてまとめて提案するのです。

採用されれば仕事になり、お金になります。仮に採用されなくても、あなたの積極的な姿勢は好意的に評価されるはずです。何か新しい仕事はないだろうかとぼんやりと考えていても、仕事はやってきません。自主企画書を積極的に書きましょう。

誰からも依頼されなくても、やりたいことがあれば、「自主企画書」を作成して積極的に提案しよう。

斎藤 誠

株式会社創造開発研究所 代表取締役社長

(※写真はイメージです/PIXTA)