UBSアセット・マネジメントのマネージング・ディレクターで、運用本部長ならびに株式運用部長を務める松永洋幸氏(写真:左)に、サステナブル投資の最新の潮流、ならびに同社が2022年10月末に設定・運用を開始した「UBSサステナブル向上・コアバリュー株式ファンド(愛称:ツイン・アセンダーズ)」の魅力について、モーニングスター代表取締役社長の朝倉智也(写真:右)が聞いた。(前編・後編のうち、後編)

◆ESG「インプルーバー企業」を発掘するデータサイエンス

朝倉 まず、ESGの面で改善の余地がある「インプルーバー企業」をどのように発掘するのでしょうか?

松永 企業のESG面での評価にあたり、UBS独自のESGスコアをつくっています。長期業績へのインパクトが大きい項目に絞って集計したESGスコアです。このスコアが改善に向かう可能性が大きい企業を探すわけですが、まず、データサイエンスを活用して銘柄を絞り込み、産業、企業を熟知するアナリストが精査する、という二段構えの仕組みです。

 大きな特徴である、データサイエンスの活用においては、社内のデータサイエンス専担チームが「E(環境)」、「S(社会)」、「G(ガバナンス)」の各領域で有効性が高いと判断するデータ・モデルを厳選し、ESGスコアの先行き改善が期待される企業群にあたりをつけています。

朝倉 各領域におけるデータ・モデルについて、詳しく教えてください。

松永 例えば「E(環境)」の分野では、炭素排出量が重要な評価ポイントになりますが、この領域は変化が大きく、過去の実績だけを見ても優れた取り組みと言えるのかどうか分かりません。そのため、排出に関する開示の充実度合いが企業の本気度合いを示す優れた指標になっている、という分析に基づき開示度合いを反映させる確率論モデルの「グライドパスモデル」を開発しました。

 また、「S(社会)」の分野では、従業員と真剣に向き合う会社であるかを評価するために、データサイエンスチームが多くのデータを解析し、企業の従業員やOBの言わば口コミ情報である「Glassdoorレーティング」の有効性が高いことが判明しました。このようなデータを探してくることもデータサイエンスチームが担っています。

朝倉 では、アナリストによる精査、とはどのようなものになりますか?

松永 アナリストは長年にわたる調査実績で、企業やその経営陣を熟知しています。株式アナリストがESG専担チームと協業しつつ、実際にESG課題の改善が期待できる企業かどうかを評価します。データサイエンスを用いた絞り込みで効率性を上げたところで、最終判断は専門家がケース毎に吟味することで正確な判断ができるのです。

 もう一つの特徴は、エンゲージメント(企業との対話)への積極的な取り組みです。足元の状況に対する評価に留まらず、投資先企業との長期的な対話によって改善努力を後押ししています。具体的な問題点の指摘や競合他社のベストプラクティス(最良実施事例)の紹介、改善に向けた工程表・時間軸の設定など、様々な角度から対話を展開します。

エンゲージメントと運用ポートフォリオの関係

朝倉 エンゲージメントにより、企業のESG特性が改善した具体的な例をお聞かせいただけますか?

松永 まずは、アメリカの大手銀行である「ウェルズ・ファーゴ」です。米国の大手行ですが、2016年に発覚した不正営業問題ではお客様に無断でクレジットカードを作ってしまうなどの問題で社会的な批判を浴び、経営陣を総入替えする抜本的な出直しを迫られました。私どもは同社と長く対話を続け、いまだに改善すべき点を残しつつも、着実にガバナンス面での改善努力が続いているとみています。

 次に、イタリアのラグジュアリー・ブランドである「プラダ」です。日本でもお馴染みの有名ブランドですが、ラグジュアリー業界は同族経営が一般的で、ガバナンス面ではやや難ありとみなされる企業が多くあります。そのような中、プラダは取締役会の独立性を高めるなどの改善努力を続けており、私どもは期待を持って対話を続けています。

 最後に、北海油田での石油・ガス産出などを手掛ける、ノルウェー最大級の国営エネルギー企業、「エクイノール」です。2050年までのネット・ゼロエミッション(温室効果ガスの排出実質ゼロ)を掲げ、洋上風力発電への投資を強めています。私たちは、他の資産運用会社との共同エンゲージメント、「Climate Action 100+」を通じて継続的に対話し、同社がエネルギー業界をけん引していくことを後押ししたいと考えています。

朝倉 UBSアセットのエンゲージメントは、多岐のセクターにわたっているのですね。ポートフォリオの出来上がりについてもお聞かせください。

松永 2022年12月末現在のポートフォリオは、セクター分散が効いており、地域的にも北米、欧州、アジアとバランスをとっています。また、企業規模(投資先企業の規模)の観点からも大型株が35%程度、中小型株が65%程度と分散されており、株式投資の醍醐味である、小規模な企業が成長して大きくなる、という部分に期待を持った配分となっています。

 組入れ上位10銘柄では、一番目にアメリカの医療機器のコングロマリットの「ダナハー」があります。M&Aへの積極策の副作用として製品のリコールが多く発生し、ガバナンス面で改善余地があると考えています。二番目の「SLMコーポレーション」は、「サリー・メイ」と呼ばれる学生ローンを提供する米国の会社です。米国では学生ローンの負担が社会的な問題になっていますが、批判も真摯に受け止めて、いろいろな面で改善への取り組みを進めている企業です。三番目は、ノルウェーのエネルギー会社である「エクイノール」です。当ファンドでは、このように、日本では馴染みの薄い銘柄も含めて、バランスよく投資を行っています。

朝倉 実際に、当ファンドを運用するのはどのようなチームですか?

松永 バリュエーションとESG分析の組み合わせによるパフォーマンスの追求で、30年来の実績を有するグローバル株式運用チームです。2022年12月時点で30名超のアナリストを中核として3名のポートフォリオ・マネジャーがファンド運営の舵取りを行い、運用残高は2022年12月末現在で約2兆円に上ります。

 この株式運用チームに加えて、それぞれ25名ほどの陣容を抱えるESG専担チームおよびデータサイエンスチームと協働して、当ファンドの運用にあたっています。

朝倉 お話をお伺いすると、非常に期待の持てるファンドですが、最後に、投資家の方へのメッセージをお願いします。

松永 2023年の市場は、これまでの主要先進国の中央銀行による利上げの影響を見定めつつも、2022年に見られたリスク回避的な動きから徐々に脱却していく展開を想定しています。当ファンドは、欧州の富裕層の投資家に支持された次世代型のサステナブル株式ファンドです。ESG特性の改善に意欲的に取り組む企業への投資によってリターンを追求しつつ、より良い未来の実現を後押ししていくことを目指します。また、長期業績対比で割安な銘柄に投資するバリュー投資スタイルのファンドです。現状、成長株の比重が高い投資家の皆様のポートフォリオをよりバランスの取れたものとする効果も期待されます。

 当社は、欧州に本拠を置く資産運用会社として、非常に強い使命感を持って、昨年秋より、日本の投資家の皆様に当ファンドのご提供を開始しました。サステナブル投資は長期投資そのものであり、個人投資家の皆様の長期的な資産運用にぜひこのファンドを役立てて頂きたいと考えています。

朝倉 非常に楽しみで興味深いファンドだと思います。私は、現在の市場の状況を「異例なほど不確かだ」と言っているのですが、金融緩和から引き締めへの転換、世界的な景気減速懸念、地政学的リスク、地球温暖化リスク、グローバル規模でのポピュリズムの台頭と、非常に混沌としています。その中で、投資家の方は、何か軸を持ちたいと思っていると思いますが、「サステナブル投資」や「ESG投資」というのは、長期投資における投資家の軸になってくると思います。

 ESGに優れた企業のバリュエーションが高く、かつ、グロース銘柄のバリュエーションも高い中で、当ファンドは、今後ESG取り組みで改善が期待される企業を対象とし、併せて、割安感のあるバリュー銘柄に投資するということですから、正に、時宜を得たファンドであると感じました。ぜひ、日本の投資家、ならびに世界の投資家のために頑張っていただきたいと思います。

「よくなる企業を選び育てる」次世代型サステナブル株式ファンド、「ツイン・アセンダーズ」がめざす未来<後編>