
5大会連続準決勝進出を決めた侍ジャパンは、これ以上にない上り調子でアメリカの舞台へ乗り込む。
◆岡本、村上の復調で打線も上向き
第1次ラウンドでは、ラーズ・ヌートバー(カージナルス)、近藤健介(ソフトバンク)、大谷翔平(エンゼルス)、吉田正尚(レッドソックス)に頼りっぱなしだったが、準々決勝では岡本和真(巨人)や村上宗隆(ヤクルト)が復調の手がかりを掴んだ。怪我で戦列を離れていた源田壮亮(西武)も復帰して、打線は上向いてきた印象だ。
岡本が準々決勝のイタリア戦で5打点を叩き出し、そして村上にも2本の長打が出たことは大きい。2人の復調は大きなアドバンテージになる。
「2人だけが打っていなかったんで打ててよかったです。前の打者が全部左打者で戸惑いました。いつもチームでは前に(坂本)勇人さんがいて、右バッターにどういう攻め方をしてくるのかを見ることができた。今まではそれがなかったんで、対応が難しかった。もう6番バッターに慣れたので大丈夫です」
岡本は準々決勝後に試合をそう振り返っている。
◆出し惜しみせず戦いたい
一方の投手陣は準決勝での大谷翔平の登板は難しそうだが、先発陣を中心としてピッチングスタッフはとても充実している。どの投手も先発できそうだし、ショートイニングでも力を発揮できる準備はできている。
どういう継投で臨んでいくかは後述するが、優先順位を決めて、出し惜しみをすることなく準決勝を第一に考えたい。
◆メキシコ戦はロースコアの展開になる?
さて、準決勝の相手はメキシコに決まった。1次ラウンドでアメリカ、準々決勝でプエルトリコといった優勝候補を倒した友好国との戦いは、今までにない熾烈なものになるだろう。かつて、強化試合などでメキシコとの対戦経験があり、第1回大会でも勝利を挙げている。苦手意識を持つことなく迎える相手である事に違いない。
とはいえ、それは「楽に勝てる」とか、「メキシコは格下」という意味ではない。昨季のナ・リーグで防御率1位のフリオ・ウリアスこそ規定により登板機会はないが、他にもメジャーリーガーを多数揃えるタレント集団だ。かつてオリックスに在籍したメネセスはナショナルズで13本のホームランを放っており、1番を打つアロザレーナはレイズ時代の筒香嘉智とのポジション争いを制した選手だ。
おそらく、これから優勝までの2試合では、相手は投手陣を小刻みに投入してくることが予想される。あと2試合となり、どのチームも負けられない試合の中での投手起用は、目先をたくさん変えて凌いでいこうと考えるからだ。これは世界での主流となる野球で、6回以降はそうそう得点できないことを想定しなければならない。
◆侍ジャパンの打順はどうするべきか
そうなっていくと、ポイントとなるのは打線の序盤からの得点だ。
第1次ラウンドから準々決勝まで、最低でも7得点を奪ってきた侍ジャパンはかつてのないほどの攻撃力を誇る。序盤から好機をつかんで、いかにリードを保った状態で中盤を迎える展開に持っていけるかがキーになる。
侍ジャパンの打線は、準々決勝のイタリア戦でテコ入れした。不調だった4番の村上を5番に下げて、吉田を4番に起用した。おそらく4番はそのまま吉田になるだろうが、打線のバランスを考えて5番は岡本和真にしてもいいだろう。
◆序盤の段階で勝負を掛けるべき
「栗山監督が声をかけてくれましたし、どういう打順がチームにとって一番なのかを考えて(の降格)だと思う。監督をそこまで悩ませてしまった。もっとしっかりしなければいけないなと思いました
村上は5番降格にも納得しているし、それはどんな打順になっても気持ちは変わらないだろう。悔しさは常に持っているが、6番からの“後方支援”は侍ジャパンにとって貴重な存在となるはずだ。
かつての侍ジャパンではスモールベースボールが謳われたが、その必要もないだろう。終盤の土壇場を除けば、序盤から勝負を掛ける戦いに持っていけるはずだ。ともかく接戦に持ち込まれるような展開にはしたくないので、これまでの試合と同様に、序盤から一気に試合を決めていきたい。
◆先発投手をいかに繋いでいくか
一方の投手陣は先発投手をメインに投入していく事になる。大谷は今後の体調次第によるが、ダルビッシュとの2人のメジャーリーガーが登板するのは決勝と予測する。となると、準決勝は佐々木朗希(ロッテ)山本由伸(オリックス)ら国内組で臨むことになる。
先発はすでに佐々木と発表されているが、少しのピンチでも招くことがあれば、早期に山本へのスイッチも考えられる。
やはり、侍ジャパンとして考えたいのは、出し惜しみすることのない戦略だ。他国のように中継ぎ陣で逃げ切れるほどの投手陣を招集していないので、先発投手をいかに繋いでいくかがキーになる。ビハインドで山本を登板するようなことは避けたい。
◆投手起用のトレンドからは逆行するが…
問題は今の投手陣の優先順位を決めていくことだろう。
規制のかかりそうなメジャーリーガーを外すと、山本―佐々木―今永昇太(DeNA)―宇田川優希(オリックス)―伊藤大海(日ハム)―高橋奎二(ヤクルト)―大勢(巨人)の順でプライオリティが高そうだ。ちなみに、20歳の高橋宏斗(中日)はタイブレーク要員だ。
この中でどうやりくりするかだが、準決勝の理想的な青写真は佐々木、山本と今永で7イニングを抑えたいところだ。投手交代のタイミングがイニング途中になりそうな場合のみ、伊藤、大勢を間に挟み、クローザーは宇田川に任せたい。
世界の潮流とは、逆をいく投手起用になるだろう。しかし、それは決して悪いことではない。先発陣が充実している侍ジャパンの強みを出すことは勝利に繋がるからである。ゲーム展開を読みながらのピッチングができる投手が揃っているので、これを生かさない手はない。
そのためには先手必勝。ゲームを序盤からリードする展開に持ち込み、「勝てる先発投手」たちの投球術で主導権を握っていく。世界とは異なる“侍ジャパンオリジナル”で、3大会ぶりの決勝進出を目論みたい。
<文/氏原英明>
【氏原英明】
新聞社勤務を経て、2003年にフリージャーナリストとして活動開始。『Number』(文藝春秋)、『slugger』(日本スポーツ企画)などの紙媒体のほか、WEBでも連載を持ち、甲子園大会は21年連続、日本シリーズは6年連続、WBCは3大会連続で取材している。2018年8月に上梓した「甲子園という病」(新潮新書)が話題に。2019年には「メジャーをかなえた雄星ノート」(文藝春秋)の構成を担当。
Twitter:@daikon_no_ken

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