カラパイアの元の記事はこちらからご覧ください

 デンマーク考古学者たちが、北欧神話の主神にして戦争と死の神「オーディン」についての碑文が書かれた世界最古の黄金のメダルを発見した。

 オーディンは詩文の神でもあり、魔術に長け、知識に対し非常に貪欲な神であり、自らの目や命を代償に差し出すこともあったという。

 この発見は、2021年にデンマークのイェリングで、「ヴィンデレフの宝庫」として知られる5世紀の北欧の宝物コレクションが発見されたことから始まる。

【画像】 北欧神話の神「オーディン」に言及した最古の遺物を発見

 「ヴィンデレフの宝庫」、5世紀の北欧の宝物コレクションは、現在コペンハーゲンにあるデンマーク国立博物館に所蔵されている。

 重さおよそ800グラムほどの22個の黄金の遺物の中には、北欧の移動期(紀元400年から550年)のブラクテアート(装飾が施された薄い金のメダル)、コンスタンティヌス帝の治世(紀元306年~337年)のローマコインで作られたペンダント、粒状の装飾がデザインされた希少な黄金の宝飾品もあった。

 これまで、北欧神話の神「オーディン」について言及された最古の遺物は、ドイツ南部、ノルデンドルフで発見された、紀元500年代にさかのぼるブローチだとされていた。

 しかし、今回の新たな発見の中に含まれていた黄金のメダルに、オーディン神に言及しているものがあり、これが紀元400年代始めに作られたものであることが判明した。

 つまり、これまでの仮定よりも150年も早くから、オーディン神がデンマーク人に崇拝されていたことがはっきりしたのだ。

[もっと知りたい!→]狂戦士ベルセルクを獰猛にした薬物はナス科の植物である可能性が浮上(スロベニア研究)

2_e

ヴィンデレフの宝庫として知られる黄金の遺物 / image credit: Vejle Museum

メダルに刻まれた「彼こそはオーディンの男である」

 黄金のメダルに文言が刻まれていることを見つけた、ルーン文字専門家のリスベス・イマーと言語学者のクリスター・ヴァスフスが、これらを解読した。

 そこには、「彼こそはオーディンの男である」と刻まれていたという。

 イマーは語る。「このルーン文字の翻訳は、デンマーク国立博物館のルーン学者として

私が長年たずさわってきた中で、もっとも難解なものでした」

 イマーの同僚である、古代スカンジナビア言語学クリスター・ヴァスフスは、この碑文は、極めて珍しいタイプのもので、50年に一度見つかるかどうかの発見だと言う。

1_e

「彼こそはオーディンの男である」というルーン文字が刻まれたブラクテアート / image credit: Vejle Museum

考えられていたよりも150年早くオーディン神は信仰されていた

 刻まれた文章は、この小さな黄金のメダルに描かれた男性の肖像のことを言っている。

 これまでは、北欧神話オーディン神についてふれた最古の遺物は、紀元500年代半ばのものが最古だと考えられていた。

 だが、このメダルは、紀元400年初期に作られたもので、今回の発見は、デンマーク人がもっと早い時期からオーディン神を信仰していただけでなく、これまで考えられていたよりも、少なくとも150年も早く、北欧神話の概要もまとまっていたことを証明している。

 北欧神話の中で、オーディン神は、戦士の楽園であるヴァルハラをまとめる神々の長だ。

 オーディンは、ミーミルの井戸に自分の目を捧げ、自分の槍グングニルで身を貫いて象徴的かつ儀式的な自害をして、その後、北欧の生命の木ユグドラシルに、9日9晩つるされた。

 そのおかげで、異世界の知識を得て、ルーン文字の意味を理解できるようになったという。

 オーディンについて言及された、4世紀始めの碑文が発見されたのは初めてのことなので、まったく驚くべきことだとイマーは語る。

 あらゆる巨人、神々、怪物が出てくる北欧神話は、少なくとも5世紀始めにはまとめられていたのではないかと、常に疑われていた。

 しかし、今回の新たな発見は、年代について明確な証拠が手に入ったことになるため大変重要で、大発見だと言えると研究者たちは言っている。

iStock-879781572

photo by iStock

ヴィンデレフの宝庫がさらに注目される

 ブラクテアートは、ゲルマン鉄器時代に人類が北ヨーロッパを横断した移動期に、宝飾品として着用された、片面の薄い黄金のメダルだ。

 イェリングで1000を超えるブラクテアートが発見され、200以上になんらかの文章が刻まれていた。

 ブラクテアートに刻まれたルーン文字はたいてい、2~3ミリと小さく、しかも文字間のスペースがほとんどないくらい、ぴたりとくっついて配列されているため、これまで正確に解釈されたことはなかった。

 これらは、デンマーク、南ユトランドの北にあるガレーフス村で発見されたガレハスの「黄金の角」以来の、北欧でもっとも重要な発見だとヴァスフスは言う。

Guldhornene

デンマーク国立博物館に展示されている金の角の複製品 / image credit: Malene Thyssen. / WIKI commons

 5世紀初期にさかのぼるこの角は、キリスト教以前の儀式や、北欧神話のシーンをを描いた、北欧とゲルマンの複雑なデザインで有名だ。

 この事実によって、ヴィンデレフ宝庫がさらに注目されることになるという。

デンマークの歴史を紐解く飛躍的な進展

 デンマーク国立博物館館長のレーン・ウィラースレフは、このたびの発見は、デンマーク史に関する重要な新情報を与えてくれる画期的なものだと語る。

 さらに、この驚くべき発見が、過去への新鮮な洞察を提供してくれ、デンマーク史、さらには世界全体の歴史に対する私たちの理解を再構築する可能性があるという。

 古代北欧言語の構造が、5世紀以降発展しただけでなく、廃れていった言語も多かった、とヴァスフスは言う。

 このため、研究チームは、この発見がこれまで解読されてこなかった、先史時代のルーン文字の碑文をひもとくのに役立つかもしれないと考えている。

 つまり、今回手に入れた遺物は、オーディン神について書かれた最古の文章が刻まれているだけでなく、古代の暗号のまさに黄金の鍵であり、現在まだ理解されていない、多くの北欧遺物に刻まれたルーン文字の意味を解明するのに役立つかもしれない。

References:Oldest Inscription of ‘Odin’ Resets Beliefs About Norse Mythology | Ancient Origins / Odins mand i Vindelev - Vejlemuseerne / written by konohazuku / edited by / parumo

 
画像・動画、SNSが見られない場合はこちら

北欧神話の戦争と死の神「オーディン」について言及した世界最古の遺物、黄金のメダルを発見