「年金を手にして、穏やかな老後を過ごす」という生活が実に贅沢なことになりつつある昨今、働く高齢者が増えています。生活のために仕方なく……そんな高齢者を取り巻く実情をみていきましょう。
罵倒されてても時給が安くても…70代女性はレジに立つ
――70代だと思われる女性が「レジ、おせー」と罵倒されている
SNSに投稿された、スーパーのレジ前の一幕。想像するだけで「そこまでいわなくても」と、なぜかこちらまで哀しい気持ちになります。
しかし70代といえば、現役を引退。年金暮らしを謳歌している年齢です。なぜスーパーでレジ打ちを続けるのだろう、しかも「お客様は神様」と何とも古い感覚の人から罵倒されてまで働く必要はないだろうに……そう思う人も多いでしょう。
大手求人誌によると、スーパーのパート・アルバイトの平均時給は、東京都が最も高く1,089円。最も安い「福島県」で868円。平均的なシフト*だとすると、1ヵ月の月収は東京都で11.4万円、福島県であれば9.0万円ほど。
*厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』より正社員・正職員以外/女性/70代、1日当たり所定内実労働時間数と実労働日数から算出
仮に平均的な年金を手にしているとすると、70歳で国民年金だけを受給(自営業、専業主婦など)していれば57,405円。厚生年金も受給(会社員、公務員など)していれば14,1026円です。
2022年度、「東京23区」、70歳の最低生活費は12万7,920円、そのうち生活費となる生活扶助基準額は74,220円、家賃にあたる住宅扶助基準額は53,700円。一方「福島県福島市」の場合は生活扶助基準額は69,530円、住宅扶助基準額は36,000円。つまり東京23区で高齢女性が生きていくには月12.8万円、福島県福島市であれば月10.5万円が、「生きていくための最低限、必要なお金」というわけです。
一人暮らしだとすると、厚生年金受給者であっても年金だけで暮らしていくのは少々厳しといったところ。足りない分は貯蓄を取り崩すというの定番ですが、そもそも取り崩す貯蓄も十分でないという場合は、70代であっても働くしかない、というのが現状です。
食費も生活費も高騰…パートまでできなくなったら
さらに昨今の物価高が、年金生活者を苦しめます。総務省『消費者物価指数』によると、総合指数は前年同月比4.3%上昇、生鮮食品を除くと4.2%上昇、生鮮食品とエネルギーを除くと3.2%の上昇です。つまり日常生活には欠かせない、生鮮食品と光熱費(エネルギー)の上昇が著しいということ。
たとえば朝食の定番である食パン。2023年1月の全国平均は1㎏あたり480円。前年1月が431円でしたから、11%も上昇。光熱費では電気代は11%、都市ガスは32%、灯油代は3%……軒並み、生活必需品が値上がりしています。それに合わせて年金や賃金も上昇すればいいのですが、物価のようにすぐに上がることはなく、ただ耐えるしかありません。
またスーパーのレジ打ちのようなパートができているうちは、まだ安心。体調を崩したり、介護が必要となったときは大変です。厚生年金を受給しているならまだいいですが、国民年金の5万円や6万円だけで生活費に医療費、介護費まで賄うという、何とも恐ろしい事態に陥ってしまいます。
総務省によると、2022年、65歳以上は3,627万人で総人口の29.1%、75歳以上は1,937万人で総人口の15.5%。そして65歳以上の1人暮らしの割合は19.0%で、5人に1人という水準です。近所づきあいの多い地域であれば、お互い声を掛け合ったり、助け合ったりなどして何とかなる場合もありますが、近所づきあいもほとんどなく周囲から孤立するような地域だと、人知れず死んでいく……そんな最悪の事態も覚悟しなければいけません。
そんな状況の高齢者に対して行われようとしている、低所得者に向けた現金3万円の給付。それに対して「ばら撒きだ!」「苦しいのは低所得者だけじゃない!」などの批判も多いようです。確かに低所得でも資産家の人もいますし、物価高は全国民に直撃しているので、批判の多くは正論だといえます。ただ本当に苦しい思いをしている人たちには、できるだけ早く支援が届くことを願うばかりです。
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