部下がミスをした際、上司の一言で部下の行動は大きく変わってきます。特に、上司は「叱り方」に注意しないとチーム全体の士気が左右されてしまうと、経営コンサルタントの中田仁之氏はいいます。今回は、筆者の経験をもとに、部下を輝かせる「叱り方のコツ」についてみていきましょう。

「気づきを与える叱り方」をするためのコツ

私はこれまで16年間、野球選手としてたくさん叱られてきましたし、会社員として20年間も上司や先輩などからたくさん叱られてきました。子供の頃は「愛のムチ」による指導も経験してきました。叱られながらも「ありがとうございます」と思えた上司にも出会えましたし、その逆もたくさん経験してきました。

組織のリーダーとして「叱る」という行為は非常に難しくかつ重要です。チームとして高い目標に向かって全員で頑張っている中で、1人の甘えを放置するとチーム全体が緩んでいきます。そういう時はすぐに叱らなくてはいけません

私が叱る時に気をつけていることは「言うことを聞かせようとしない」「立場で、権力でものを言わない」の2点です。

もう少し詳しく説明します。叱ることによって、相手に恐怖感や威圧感を与え「とりあえず言う通りにしておこう」と相手に感じさせるのではなく、叱ることによって、相手に気づきを与え、相手が自ら考えて取り組むようにすることが「言うことを聞かせようとしない」ということです。

「立場で、権力でものを言わない」というのは、相手が部下などの上下関係がすでにある場合、こちらが無意識のうちに上から下への指示・命令に取られてしまうので、叱る場合には特に謙虚な姿勢でいなければならないという戒めです。

「キミが今、一番大切にすべきものはなに?」…筆者が叱られて得た気づき

今では仕事柄、叱られることが随分少なくなってしまいましたが、ある方にとても心に響くお叱りをいただきました。

私の根回しが甘く、多くの方々にご迷惑をおかけしてしまう出来事が起きたのです。私としては長年の夢が叶う直前、たとえば富士山の頂上まであとわずかという所からのまさかの滑落で、大きなショックを受けました。

とても冷静な判断などできず、目の前の対処に奔走しつつもあわよくばヘリコプターを使ってでも頂上へ辿り着きたいという不謹慎な発想が湧くほど迷い苦しんでいました。

その時、私が尊敬するメンターから一言、こう叱っていただいたのです。「キミが今、一番大切にしなければならないものは何?」と。

私はハッと目が覚めました。ズルいことをしてまで夢を叶えようとしていた自分を恥じ、一旦下山することを決意しました。このメンターからのお叱りこそ、「言うことを聞かせようとしない」姿勢そのものであったと思います。

叱るベースには「信頼関係」が重要

そして、叱るという上でもう1つ重要なポイントがあります。それは信頼関係です。私はメンターを尊敬していますし、信頼関係ができています。同じ一言であっても、尊敬できない、信頼関係のない方からでは受け取る側の感情が全く異なります。

つまり、叱ることによって相手が気づき自ら考えて取り組むようにするためには、それまでの間に尊敬され、信頼関係を築いておく必要があるということです。

叱るという行為こそ、「何を言うか」より「誰が言うか」が受け取り手にとって最も重要で、ベースには信頼関係が必要だということです

部下が「また叱られた」と感じるのか「自分のために叱ってくれた」と感じるのかで、部下の次の一歩は全然違うものになるのです。

部下の立場に立って「叱ってくれたと感じた」リーダーとは総じて、尊敬できる人、即ち人間力が高く、人を惹きつける魅力に溢れ、面倒見が良い人のようです。日々のあなたの仕事や部下に対する姿勢を少しでも変える視点があれば、決して難しくはないと私は思います。

ただ感情的になって大きな声を出しても、相手に伝わらなければあなたの徒労です。叱る場面であなたの意図を相手に伝えたければ、あなたのあり方を正しておくことが大切です。

"許す=強さの証”…筆者が腑に落ちたガンジーの金言

叱ることと同じぐらいに重要なことが「許すこと」だと私は考えています。許すとは、いつまでも根に持たず、叱った後は、すぐに相手の次の行動に視点を切り替えることです。

マハトマ・ガンジーの遺した、僕が好きな言葉に次のような言葉があります。

『弱い者ほど相手を許すことができない。許すということは、強さの証だ』

最初にこの言葉に触れた時、まったく意味が分かりませんでした。しかし、社会人になって色んな人とおつき合いしたり、色んな上司についたりして、徐々にこの言葉の持つ深みが分かってきました。

野球には「ドンマイ」というステキな言葉があります。何かミスをしても、仲間が「ドンマイ、次は頼むぞ!」「ドンマイ、切り替えていこう!」などと声をかけてくれることで、ミスを引きずらなくなります。

アメリカのメジャーリーグでは「ドンマイ」のことを「NEW DAY」と言うそうです。また新しい日が来る、ミスを引きずらないで切り替えていこう! という意味だそうです。

一方、仕事でたとえばリーダーであるあなたがミスをした時、上司から長々と叱られた経験はありませんか?

ミスしたのは自分なので、その人のお説教が収まるまでじっと耐える。こんな光景、御社ではありませんか? 私には何度も経験があります。

私が会社員で課長をしていた時の話です。私のケアレスミスで、課の売上数字を狂わせてしまったことがありました。すぐに上司に謝罪した時、一言こう告げられました。「らしくないなぁ。次頼むぞ、以上!」

この言葉は刺さりました。「らしくない」は、こう変換できます。「普段のお前ならこんなミスするはずがないのに、お前らしくないなぁ」つまり、自分のことをもっと高いレベルで信頼してくれている、ということを感じました。この上司はこの後、さらに上の人から叱られるのが分かっているのに、部下の私に対してはクドクド言わず前を向かせてくれました。

後日、上司の席へ行きあらためてミスをお詫びするとともに、「らしくない」の一言が嬉しかったとお礼を伝えました。

すると上司は「あの場面で、俺がキミを叱ったとする。その姿を他の課員も皆見てるはずや。君は叱らなくても十分自分で分かっていたやろ? 自分で分かっているのに、叱られている姿を晒されたら余計にツラいし、後々仕事がやりにくくなるやん」と笑い飛ばしてくれました。

この上司は、私との1対1の関係だけではなく、やり取りを見ている他の課員の眼も意識して、且つ今後の私にまで目配りをして許した、というのです。

『弱い者ほど相手を許すことができない。許すということは、強さの証だ』この言葉が腑に落ちた瞬間でした。この件があってから、「らしくないなぁ」は私の頻出ワードになっています。

リーダーの立場で大事なことは「相手を信じて、成長の糧にしてもらうこと」だと私は考えています。つまりミスを叱り直し方を教えることも重要ですし、ミスを活かすために許し方もポイントなんです

ミスを叱り、直し方を教えた後はすぐに許すこと、その時の言葉も短く、相手が切り替えられるようにそっと背中を押してあげることがリーダーには求められています。

中田 仁之

株式会社S.K.Y.代表取締役

中小企業診断士

(※写真はイメージです/PIXTA)