米英豪の3ヵ国によって発足された、中国を念頭に置いた軍事パートナーシップ「AUKUS」。そのパートナーシップの中で、約30兆円規模にもなるオーストラリアへの「攻撃型原子力潜水艦」の配備について合意がなされたという。タイの公共放送局『Thai Public Broadcasting Service』 (Thai PBS)が運営する英語ニュース・サイト『Thai PBS World』より翻訳・編集してお伝えする。
オーストラリアに置かれる原子力攻撃型潜水艦とは
米国、オーストラリア、英国は、インド太平洋における中国の野望に対抗するため、2030年代初頭からオーストラリアに攻撃型原子力潜水艦を提供する計画の詳細を発表した。
ジョー・バイデン米大統領は、13日月曜日にサンディエゴの米海軍基地で行われた式典で、オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相とイギリスのリシ・スナク首相を伴って演説した。その中で、2021年発足のAUKUSパートナーシップ(米英豪の対中国軍事パートナーシップのこと)に基づく今回の合意を、米国の 「最も強固で有能な同盟国」の2ヵ国と、自由で開かれたインド太平洋地域にとっての共通のコミットメントであると述べた。
スナク首相はこれを「強力なパートナーシップ」と呼び、こう付け加えた。「史上初めて、3つの潜水艦隊が大西洋と太平洋で共に行動することになり、今後数十年間、海洋の自由が守られることとなる」(スナク首相)。
14日火曜日には、今回の合意についてアジア同盟国から歓迎された反面、北京を怒らせる結果となった。米国は2030年代初頭にゼネラル・ダイナミクス社が製造する予定の米国バージニア級原子力潜水艦を3隻購入予定、オーストラリアが必要に応じてさらに2隻購入する意向だと、共同声明で述べている。
オーストラリアが受ける「目を覆いたくなるような代償」
多段階となる本プロジェクトは、英国の次世代設計に基づく、また米国の最先端技術を取り入れた「三国間開発」の新型潜水艦クラス「SSN-AUKUS」を英国とオーストラリアで生産・運用することで最高のレベルに達するとした。
英国は2030年代後半に、オーストラリアは2040年代前半に最初のSSN-AUKUS潜水艦を引き渡されることになる。この艦船は、BAEシステムズ社とロールス・ロイス社によって建造される予定だ。
「今回、サンディエゴで確立されたAUKUSの合意は、オーストラリアの防衛能力に対する歴史上最大の単独投資であり、オーストラリアの国家安全保障と地域の安定を強化するものです」とアルバネーゼ首相は式典で述べた。
AUKUSは、ワシントンが1950年代にイギリスと共有して以来、国家間で初めて原子力推進技術を共有することになる。
バイデン大統領は、この潜水艦は原子力であって、核武装ではないことを強調した。「これらの艦船には、いかなる種類の核兵器も搭載されない」と述べた。
しかし、オーストラリアにとってこの契約は、2055年までに3,680億豪ドル(約32兆2,513億3,600万円)を上ると見積もられている、目を覆いたくなるような代償を伴うものである。アルバネーゼ豪首相は、「これは経済計画であり、単なる防衛・安全保障計画ではない」と述べ、この支出を擁護した。
また、「AUKUSは、今後4年間でオーストラリアの産業能力に60億豪ドル(約5,259億7,412万7,120円)を投資し、30年間で約2万人の直接雇用を創出すると予想される」と述べた。また、「年間GDPのうち約0.15%の資金が必要となる」とも話した。
オーストラリアのリチャード・マールズ国防相はキャンベラで記者会見し、「これは、私たちがやらないわけにはいかない投資だ」と述べた。
バイデン大統領の答えは「ノー」
これに対し中国は、AUKUSを核拡散の違法行為として非難している。「この計画は深刻な核拡散リスクを構成し、国際的な核不拡散体制を弱体化させ、軍拡競争を煽り、世界の平和と安定を損なう」と、中国の国連常設代表部は発表後のツイートで述べている。
バイデン大統領は、中国がAUKUS潜水艦の取引を侵略と見なすことを心配しているかと問われ、「ノー」と答えた。彼は、中国の指導者である習近平氏と近いうちに話すことを期待していると述べたが、いつとは明言しなかった。
米国のジェイク・サリバン国家安全保障顧問は、17日金曜日、原子力潜水艦を含む北京自身の軍備増強を指摘し、次のように述べた。「我々はAUKUSについて彼ら(北京)とコミュニケーションをとってきた。そして彼らの軍備増強の意図についてより多くの情報を求めてきた」(サリバン氏)。
また、オーストラリアのマールズ国防相は「オーストラリアは中国に、潜水艦取引に関するブリーフィング(簡易的報告や事情の説明)を行った」と述べた。
AUKUSのこの協定により、早ければ2027年に米英の潜水艦が西オーストラリアに配備され、オーストラリアの乗組員の訓練と抑止力の強化に貢献することとなる。米政府関係者によると、さらにこの計画は数年後、米潜水艦4隻と英潜水艦1隻が参加することになるという。
「この計画の第一段階は、米国のバージニア級原子力攻撃型潜水艦アッシュビルが西オーストラリアのパースを訪問することで、すでに進行中である」と関係者は述べた。
岸田首相は
米国のダニエル・クリテンブリンク国務次官補(東アジア・太平洋担当)は14日のメディアブリーフィングで、「米国は先週、インドネシアやマレーシアを含む東南アジアのパートナーにAUKUSの計画について通知した。それはAUKUSとは何かを明確に伝えるために必要だった」と述べた。
クリテンブリンク国務次官補は、「AUKUSの発足はインド太平洋の脅威の高まりを反映したものであり、中国が自国として統治するべく台湾や南シナ海に向けた脅威だけでなく、中国と合同演習を行っているロシアや北朝鮮からの脅威も反映している」と述べた。
台湾の外務省はこの協定を歓迎し、「我が地域の『権威主義の拡大』と戦うのに役立つ」と述べた。さらに「この3国の協力は、インド太平洋地域の民主主義国の抑止力を強化し、地域の平和と安定の維持に貢献するだろう」と声明で述べている。
アルバネーゼ豪首相は14日、日本の岸田文雄首相に電話し、本合意について説明した。岸田首相は、「この協定が地域の平和と安定に貢献すると考え、日本は一貫してこのイニシアティブを支持してきた」と述べたと、日本の外務省は声明で発表した。
いまだ残る大きな課題、巨額の投資
一方、AUKUSについては、中国の脅威が高まる中、プロジェクトに必要な、広範に渡る技術共有に対する米国内での厳しい制限や、潜水艦の納入にかかる時間など、大きな課題が残されている。
ある米政府高官はロイターに対し、米国の生産能力が伸び悩んでいることを反映して「オーストラリアに売却されるバージニア級潜水艦のうち1隻か2隻は、米国で使用されていた艦船になる可能性が非常に高い」と語ったが、これには議会の承認が必要となる。
アナリストによれば、中国が力をつけ、必要であれば武力で台湾を奪おうとする脅威を考えると、極超音速等、より迅速に展開できる他兵器を含むAUKUSの第2段階を進めることが不可欠であるという。
イギリスとオーストラリアの政治関係者は、「技術共有における障壁を取り除く作業がまだ必要であり、月曜日の発表の段階ではこの第2段階をカバーしていない」と述べた。
一方で米政府高官は、「オーストラリアは米英の潜水艦の生産・整備能力の増強に貢献するだろう」と述べた。さらに、「ワシントンは2023年から29年にかけてすでに約束した46億米ドル(約6,026億円)に加え、潜水艦産業基盤への『2桁億米ドル』規模の投資を検討しており、オーストラリアの貢献は全体の15%未満になるだろう」と述べた。
2020年に欧州連合(EU)を離脱した英国は、AUKUSが自国経済の低成長率を押し上げるのに役立つと述べている。スナク英首相は、「AUKUSは“あらゆる意味で最も近い”同盟国との絆を結び、自国に安全保障、新技術、経済的優位性をもたらす」と述べた。
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